PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙255 大貫妙子さんとHIV(9)
有名である、ということと、その影響力

こんにちは。
今回は大貫さんに
お金のこととか、
有名な方々が社会的な問題について
発言することの意味についてなどの
お話を伺いました。

大貫 ここのところの日本は
お金にまつわる嫌なニュースばかりでしょう。
今思うと、バブルの時代には
ほんとにお金が飛びかっていたなぁ
と思いますね。

実際の紙幣を眺めていると
印刷されたこの紙切れ自体には
なんの価値もないですよね。
それこそ、アフリカのサバンナに持って行っても
使えない。役にたたない。
鼻もかめないです、吸収しないから(笑)

お金は必要なものだけれど
お墓の中にまでもっていけないんだから
使っちゃえ!って・・・。
時々、思いますね(笑)
本田 いつまで生きるかわかんないから
ちゃんと貯金しておかなきゃってことも
あるのでしょうけれど。
大貫 これからは、
いくらお金があっても、売ってもらえない
という時代がくるかも・・・。
とんでもなく食料の自給率、低いですからね。
とくに都市に住んでいる人は
気をつけた方がいいです。
都市の自給率は数パーセントですから。

このあいだ、ものすごいものを見ました。
ドバイ。
見ました? NHKで見たんですけど。
本田 ああ、埋め立てて不思議な形の島をつくって、
そこにすごい街を建設してる、っていう
ところですよね。
NHKの番組は、
残念ながら見そびれちゃいました。
大貫 今、すっごい都市をつくってる。
オイルマネーで
世界一高いビルなんかがにょきにょきで、
建物の中はキンキラキン。
恐ろしいものを見るようでした。

でも、その反面、
またすごい都市をつくる構想があって
そこは、全部自然エネルギーでできている都市で
今あるエコの粋を集めたような街。
オイルは有限ですから、
今売ったオイルのお金で
化石燃料をいっさい必要としない街を
つくってしまおうという。
本田 石油はあと40年足らずで
枯渇するって言われていますしね。
大貫 サイエンス誌に載っていたんですが
われわれは、自分にお金を投資するよりも
他人に投資する方が幸せを感じるというんですね。

お金を多く持っていれば幸福感が増す、と
考えがちだけれど、
先進国ではここ数十年、実質的な所得が
急増しているにもかかわらず
幸福感はおおむね横ばいで。

どのようにお金を使えば、
大きな幸福感を得られるか、という
さまざまな調査の結果、
米国では、他人にお金を投資した人は
自分に投資した人より幸福感が大きい
ということがわかったんですね。

でも、これは、わかりますね。
とてつもないお金を持ったこともないので
わかりませんが、
ひとは通常暮らしていけるお金
少し足りないと常に思っているくらいが
丁度いいのかも知れないと思うのだけれど。

それを越えて持っていても
日常的には使いきれないばかりか
そのお金に集まってくる人が
きっとすっごくいるわけでしょ?
それは、鬱陶しいだろうなぁ。
勿論、そういうことは個人で処理している
わけではないでしょうけれど。

日本は一部、景気が持ち直したと言われて
それが、六本木や赤坂、汐留あたりの
ビルやマンションの乱立でしょ。
そんなにつくって、どーするの、と思いますね。
中身もそんなに変わりばえしないですよね。
目に見える、カタチのあるもばかりではなく
お金って、他の使い道がもっとあると
思うんですけどね。

環境問題、とひとくくりにされるけれど
要するにストレスのない暮らし、ということ
だと思うんですね。

それに対する初期投資には
お金がかかるかもしれないけれど、
広く推し進めていけば
お金のストレスから
いずれ楽になると思うんですね。

実際、そういう人は増えはじめていて、
それは、年齢に関係なく。
新しいライフスタイルだと
言ってもいいと思います。
わかっていないのは、政治家だけかも(笑)

そういうことを含めたアンケートでも
日本の70%の人が
環境のためには、今の生活を変えてもいい、
多少の不便は我慢できる、と答えているんです。
そのためのネットワークは広がりつつありますね。
意外だけれど、
若い人の中に希望があるんです。

「何かしましょうよ」と
やみくもに声をかけても人は動かないけど、
同じ共通の認識のある人たちに声をかければ、
一気に物事は動いていく、
という気配はありますね。
そのためのリーダーも必要ですが。
本田 何かをやってみたければ、
まず、同じことを考えていそうな人を探して
話しに行けばいいんでしょうか。
大貫 マス、というより点ですね。
点が結ばれてネットワークになる。
マスは顔が見えないですからね。
でも、点は個人ですから。
本田 HIVの分野での話になっちゃうんですが、
世界のいわゆるセレブリティとされている人たちが
ほんとに積極的に発言をしていて、
たとえば俳優のリチャード・ギアや
アンジェリーナ・ジョリーは
学術的な国際会議なんかでも
積極的に参加していらっしゃいます。

たとえば、エイズに関する国際学会では
さまざまな研究者が発表の場を持つんですが、
そんな研究発表と並んで
リチャード・ギアの特別講演というのが
あったりするんです。
そうするとメディアはもちろんのこと、
会場に入りきれないほどの
出席者であふれかえるんです。
大貫 そうですね。
本田 で、彼は、そこでおっしゃったんですけれど、
自分が注目されるセレブリティであることは
十分承知してるし、
自分がHIVのことを語ることで
この病気が多くの人の注目を
浴びることになるんなら、
それは、もう上等だ、望むところだ、と。
大貫 その通りだと思います。
坂本さん(註・坂本龍一さん)もそうですね。
ご自分の影響力をわかっているし。

昔から芸術家というのは
表現という場が与えられていて、
もちろん、いろいろな弾圧があったのも事実ですが
それを越えてきた
多くの画家や文学者などのおかげで
それに続く芸術家があるわけですからね。

音楽では、トム・ヨークがまさにそれですね。
本田 トム・ヨーク、ってレディオヘッドの?
積極的に社会に向けた発言をしてる方でしたよね。

大貫さんにも
これまでいろいろな依頼が
おありになったのではないかと思いますが、
そんなときに
発言する対象をお選びになる基準というのは
ありますか?
大貫 優先順位はありますね。
真っ先に、止めてもらいたこと、ですね。
本田 というと?
大貫 今だと、六ヶ所村。
核燃料の再処理施設ですね。
あそこが稼働したら、
大量の放射能が放出されることによる
汚染が懸念されます。

日本全国のサーファーも
数十万人が反対の署名をしています。
海が、放射能汚染されるので。

おもにWEBのネットで知られていることですが
メディアは、ほとんどとりあげませんから、
知らない人がまだほとんどだと思います。

私たちが食べる魚にだって、
おおいに関係があるわけです。
六ヶ所村核燃料再処理施設に関する
サイトを検索してみてください。
たとえば、グリンピース・ジャパンとか・・・。

このような話をすると、かならず
「あなただって、電気を使っているでしょう!」
ということを言われます。
もちろんそうですが、
エネルギーを原発にばかり頼っていて
いいのだろうか、と思うからで。

今後30年間に
マグニチュード6.5以上の
地震が起こる確率を詳細に記した
「全国主要活断層活動確率地図」というものを
つくば市の産業技術総合研究所が
作成してるんですが、
それ見ると、すごいです。
本田 そんな予測地図があるんですね。
大貫 この地震大国に55機もの原発があって
いつかチェルノブイリの
二の舞にならなければいいなぁ・・・
と思っているのです。

中国の食品の農薬汚染、とかの問題より、
長期的に深刻な問題だと思います。
なにより、国内の問題ですから。
絶対安全、なんてことは、絶対ないんですもん。

ちっちゃい声で叫んでいても
たくさんあつまれば、大きな声になりますよ。
いつか。
本田 最初はちっちゃいところから
始めるしかないんですけど、
それが広がるのを祈って、でしょうか。
大貫 はじめの一歩からですよ。
どんなことも。
でも、それが届くまで、継続する気持ちが大事。
本田 そうですね。
大貫さんは、そのようなお伝えになりたいことを
歌を通じてお伝えになることはあるんですか?
大貫 音楽ではしません。
音楽以外の連載している雑誌や、
インタビュー、ラジオなどでは、話しています。
本田 なるほど。
メッセージソングは、やらない、と。
大貫 ある特定のメッセージソングというのは、
あります。
たとえば、地雷除去の時も
たくさんのミュージシャンが参加しました。

そのCDの売り上げは地雷除去に寄付され、
現在も引き続き
地雷は確実に除去され続けています。

その報告はきちんときます。
でも、途方もない数の地雷がまだまだあるので
100年経っても、除去しきれないと思います。
地雷のあとは、クラスター爆弾・・・。

そんなことしなくてもいいのに、
と、思うようなことをして
最悪のゴミをまき散らす。
それを、黙々とかたづける人々がいる。
まるでイタチごっごですね。
汚した人が、かたづけてほしいですよね。

全然関係のないこと言っていいですか?
公共のトイレとかに入ると
汚れていることありますよね。
なんで、
ちゃんときれいにして行かないんだろうと
思うんです。

自分のものなんだから、自分で始末する。
というのがあたりまえでしょう。
どこかの国の大統領も
自分のトイレを自分で掃除すること
あるんでしょうかね・・・。

話はだいぶそれてしまいましたが、
私自身が、常日頃そういった社会的な問題を
見たり聞いたり読んだりする方なので
メッセージ性の強い歌は、あまり聴かないんです。

せめて、音楽には
普遍性を求めるところがあって。

もちろん、その中にもメッセージはあるんですが
個人の生活からのメッセージに近いものの方が
ほっとするし。

ですから、
今の世界的なマターに目を向けているのが
日常の姿ならば、
せめて音楽を聴く時くらいは
そういうものから離れたい。
すこしはロマンティックな気持ちになりたいし。
私自身がそうであるので、
そう思う方もいらっしゃるでしょう。

今日のお話をひとりで聞いてるなんて
ほんとにもったいない、と思いながら、
音楽に対する大貫さんのお考えを
伺っていました。

次回は、いよいよ
大貫妙子さんのインタビューの最終回です。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2008-04-04-FRI

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