PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙214
HIV感染とビザ。それとラジオの放送について。



こんにちは。

12月1日は「世界エイズデー」と定められていて、
いろんなところで
HIVやエイズに関するイベントや特集が組まれています。

この病気のことを
多くの方々にお伝えすることができる
絶好の機会だと思いますし、
実際、世界のHIVやエイズの状況に関する話を
お聞きになることも多くなるかもしれません。

「世界のエイズ」についてはそういったところに任せて、
今日は
「HIVに感染することは、
自分の生活に直接影響があるのだ」
ということを、実際にひしひしと実感した、という
メールをくださった方のお話をご紹介することにします。

まず、最初にいただいたメールです。

はじめまして。
HIVに関するお話を興味深く拝見しました。

実はいま中国にいるのですが、
中国では留学ビザを取得するのに、
HIV検査を含む健康診断が求められているのです。

私はこちらに来てから留学ビザに切り替えようと、
現地の保健所のようなところに行き
診断を受けたのですが、
今日、HIVの陽性の可能性があると言われました。

最初に受けた血液検査で「非特異性反応」がでたからと、
血液検査の再検査を行い、
その結果5パーセントほどHIVの可能性がある、と
言われました。

ネットで調べていると、
日本のスクリーニング検査で陽性が出た場合は
ほとんど陽性確定なような気がして
気が遠くなる思いをしたのですが、
本田さんのページをみて、
万が一感染していたとしても、
ふつうの生活がおくれるんだということが分かって、
少し安心しました。

私の結果が出るまでの1ヶ月、
中国でとても不安ですが、
本田さんのページに励まされました。
それに、ネットで検索していると
偽陽性の人ってわりと多いのですね。

私もお医者さんに5パーセントの確率と言われたし、
それを信じて1ヶ月すごそうと思います。

不安とお礼を伝えたくて、
思わずメールを書いてしまいました。

このようなメールをいただいてから
わたしの知っていることを少しお伝えしてしばらくした後、
この方から2通目のメールが届きました。

あのあと、もう一度お医者さんのところに行く機会があり、
さらに詳しく聞いた話と、
みせてもらったノートの記号を照らし合わせた結果、

1.私はスクリーニング検査で陽性反応が出た。
2.すでに確認検査のWB法を行い、
  その結果がp24バンドの出現だった。
3.p24バンドの出現は、非特異性反応(偽陽性)か、
  感染初期の疑い、の2つの可能性がある、
  ということが分かりました。

それで、感染初期の疑いというのに
とても恐怖を抱いてしまい、
この数日いままでの人生のなかで
一番怖い思いをしてすごしました。

でも、日本にいる彼
(もし私が感染初期なら、彼から以外考えられない)が
検査に行ってくれてその結果、陰性でした!!

これで私も感染初期という可能性がなくなったはずで、
ほんとうに心底ほっとしています。

もし自分が陽性だったら、
これ以上中国で留学を続けられなくなります。
わたしは調査研究のために中国に来ています。
もしわたしが研究途中で帰国したら、
家族はもとより、わたしのことを知る人は
一様に「なぜ?」と思うはずです。

そこが今回一番怖いと感じたところでした。
これ以上ここで研究を続けられなくなるとしたら、
研究テーマを変えるか、この職業を諦めるか・・・。

いずれにしても、
周りの人に説明できるような
嘘を用意しなきゃいけない、
と思ってしまいました。
そう思ってしまうようなところが、
この病気の特徴であり怖いところだと思います。

ほかの病気なら、
ある程度まわりの知人に
オープンにできる気がするけど、
この病気はそう思えません。

それはなんなんでしょうか?
予防できたかもしれないのに、気をつけなかった、
イコール自己責任だ、って
思ってしまうところがあるからでしょうか。

私は来月、もう一度確認検査を
受けなければなりません。
彼が陰性だったということで、
私のなかでは一応決着がついたのですが、
ほんとうに安心できるまでもう少しかかりそうです。

長々と書いてしまいすみません。
でも今回のことで、もし陽性ならビザがおりない、
というのは一種の差別なのではないかな、と
強く感じてしまいました。

今回は中国でのビザ申請が問題になりましたが、
ビザの申請や、永住権の申請に関して
HIVの検査を義務づけている国は
中国の他にも、たくさんあります。

HIV感染が判明した場合には、
検査が義務づけられている国では
多くの場合、入国できません。

観光で、ビザをとらずに入国したけれど
現地で風邪をひいて病院に行った際に
「HIVに感染しています」と申告したら
入国管理の部署に通報されて、
それ以降はその国には入国できなくなった、と
話してくれた患者さんも、
実際にいらっしゃいます。

もちろん、この規則が
「正しいかどうか」という点については、
この方がおっしゃっているように
はなはだ議論の余地があるのですが、
現実問題として、
「今日の暮らし」に直結します。

あまり知られていませんが、本当のことです。

次は、いただいた最後のメールです。

今日、再検査の結果がでまして
ようやく「陰性」が証明されました。
ほっとしています。

最初に「感染しているかも」と言われてから
再検査の結果がでるまでの
1ヶ月あまり、長かったです。

こんなに恐怖を感じたことはありませんでした。

これで、ようやく
こちらでの研究調査許可や
ビザの申請もできるようになりました。

偽陽性・判定保留がでるような検査方法は
不必要な恐怖感をもたらすものだと思うと同時に、
その間HIVについて色々な知識を得て、
予防に努めようという意識も生まれました。
人間は、自分がその恐怖に対面してみないと、
本当の予防意識は生まれてこないのかも。

本当に感染している人を見逃さないようにするために
検査には偽陽性・判定保留という
結果はつきものです。

この方のように、何度か検査を繰り返して
確認することもあります。
ともかく、すべては
「まず、検査を受けに行ってみる」
ところから始まります。

過去にどなたかと一度でも性的接触の経験があれば
HIVの検査を受ける十分な理由があります。
機会をみつけて、
ぜひ一度検査を受けていただければと思います。

さて、急なお知らせなのですが
本日(12月1日)の夜8時55分から20分くらい、
FMラジオ局J-WAVE (81.3MHz)の
Jam the Worldという番組の中で
HIVについての話をする機会をいただきました。

東京近郊に限られるのが残念ですが
もしよろしければ
お聞きになってみてください。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2006-12-01-FRI

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