PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙209 日本のHIV
たぶん今なら間に合う日本



こんにちは。

前回は今年の国際エイズ会議で
評判をよんだ、ふたりのビル
(ビル・クリントン元大統領とビル・ゲイツ氏)の
セッションのことをご紹介しました。

クリントン元大統領の話を聞くときにはいつも、
聴き手をそらさない話しぶりに感心するとともに
後々誰かが使いたくなるような決めぜりふを
とても上手に盛り込む方だなあと思うのですが、
今回も、またその印象を強くしました。

「亡くなる必要のない人々が
 HIVに感染して亡くなってしまう、というのが
 嫌なのです」
という彼の言葉は、今回の会議の初日の発言です。

これと、セッションの最後にお二人が述べた
「でも、この問題は幸せな結末へ向かっていくと思う」
という言葉は
その後の会議期間中、たくさんの人が引用していました。

また、HIVの仕事をしている者の間で
本気とも冗談ともつかないトーンで語られる言葉に
「困ったことがあったら、政府やWHOに頼むより
 ビル・ゲイツに手紙を書け」
というのがあります。

最近、ウォーレン・バフェットさんという
ビル・ゲイツさんと同じくらいお金持ちの
米国のとても有名な投資家が、
自分の資産を慈善事業に使いたい、と
今後ビル&メリンダ・ゲイツ財団に
4兆円を超す寄付をすることを発表しました。

個人が設立した財団が
このような大きな影響力を有していくことは
今後ますます増えていくことでしょうし、
それとともに、彼らの資金の分配についても
大変になっていくのだろうな、と思いました。

現在、世界的な傾向として
HIVの問題は、所得の低い国々の
社会的立場の弱い人々を救おう、という
論調で語られています。

今回の会議中も、
途上国の女性が自発的に感染を防ぐことができる、
と考えられているmicrobicide
(膣へ塗布するジェル状の薬で感染を予防するものです)
については、とてもたくさんの発表がありましたし、
Commercial sex workerと呼ばれる、
性的な接触によって生計をたてている人々や
麻薬を濫用している人々への対策についても
さまざまな援助や解決策について
たくさんの議論が繰り広げられていました。

いろんな意見を持つ人々が集うので、
会期中には
「欧米の製薬会社は儲けすぎている。
 本当に薬が必要な人々に手を差し伸べろ」
というような理由で、
ある製薬会社が展示していた発表ブースを
めちゃめちゃに壊してしまったグループがいて、
その後はとても屈強な警察官が
見るからに防弾チョッキ、な感じの装備で
身を固めて警備に当たるようになりました。

世界的な目でみれば、
HIVに感染していると自分で知っている人の数が
1万人ちょっとで
(これはトロント市内在住の
 HIV感染者と同じくらいの数です)、
治療薬も確実に手に入り、
社会的なサポートも整っている日本は
あまり問題もないような気すらしてきます。

でも、今国家存亡の大問題になっている国々も
HIV感染が社会的に「この程度」であった瞬間が
確実にあったはずです。

その時に十分な対策を講じることができずに
今日の大問題に至っていることを考えれば、
「今ならまだ間に合う」日本は、
この病気のことを多くの方々に知っていただく
絶妙のタイミングであるのだろうと思います。

帰ったら、また
ひとりキャンペーンの続きをやろうかな、と
思いながら戻ってきました。

では、今日はこの辺で。
次回は、検査を受ける方法について
もう一度ご紹介してみようと思います。

みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

2006-09-01-FRI

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