PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙204 日本のHIV
治療のゴール・野口さんからのメール。



こんにちは。

先月、北海道教育大学で教えている友人が
「HIVのことを学生たちに話してもらえるかな」と
声をかけてくれました。

20才前後の方にHIVのことを直接お話しできる
またとない機会を頂いて、喜んで伺いました。

当日は学生だけでなく、
「ほぼ日」でこの会のことを知った方も
来てくださいました。

その中のお一人、
北海道の高校の先生の野口由妃さんからは
以前から「ほぼ日」の連載について
折に触れて感想をいただいていたのですが、
今回、北海道教育大学釧路校で
初めてお目にかかることができました。

その後、
野口さんから、これまでも経験も踏まえた
当日の感想をいただいたので、
今日はそのご紹介をしようと思います。

私がAIDSについては考えはじめたのは、
学生の頃に大阪のFM802が主催する
エデュケーション・リーダー・キャンペーン
応募したのがきっかけでした。

若者どうしで
「AIDSについてみんなで考えよう!」
というキャンペーンは参加していてとても楽しく、
考えさせられることがたくさんありました。

その後もNGOのボランティアとして、
予防啓発や電話相談などに参加しています。
現在は高校教員として、
機会を見つけては生徒達に
AIDSについて話しています。

今回は、同僚の養護教諭を誘って
講演会に出かけました。
私は以前から本田さんのコラムのファンでしたし、
ボランティアをやっていても
お医者さんのお話を聞ける機会は
今まであまりなかったので、
とても楽しみに釧路に向かいました。

今回の講演でとても印象的だったのは、
「治療のゴール」という言葉でした。
HIVは治らない病気だけれど、
「ウィルス量をできるだけ減らすことが治療のゴール」
ということでした。

つい数年前までHIVは、
服薬によって
「できるだけAIDSの発症をおさえる」といった
消極的なものでしたが、
薬の開発も飛躍的に進み、
現在ではきちんと服薬を続ければ
寿命まで生きられると言われています。

治療には一応のゴールがあっても、
病気と共に生きていくことにはゴールがありません。
毎日欠かさず飲まなければならない薬や、
生涯にわたって支払わなければならない医療費、
さらに病気であることを隠して
仕事をしていかなければならない事情など、
さまざまな問題も起こってきます。

そんな中で本田先生は、
患者さんひとりひとりと
しっかり向き合って十分に話し合い、
治療方針を決めていくそうです。
だからこそ患者さんたちは
「自分の経験を他の人たちのために役立てたい」と
思えるようになっていくのでしょう。

このコラムや著作の中でも
患者さんたちはご自分の経験を
語ってくださっていますが、
その気持ちは本当に尊く、
勇気のいることだと思います。

その勇気に敬意を払いつつ、
知識を行動に移していけることが
感染拡大を防ぐ大きな鍵だと感じました。

HIVは、誰でも感染する可能性はあるし、
同じくらい誰にでも予防することは出来る病気です。

そして、感染した人もそうでない人も、
同じ時代の同じ国に生まれたものとして、
共に生きていける社会を築くことができれば、と
思います。

私も現実から目をそらさず、
今できることからやっていこうと改めて思いました。

企画してくださった北海道教育大学の北澤先生と
準備してくださった学生の皆さん、
そして本田先生、ありがとうございました。

野口さんがメールの中でおっしゃっている
「治療のゴール」というのは、
HIVの感染が判明して治療を必要とする場合、
「どうなれば、一応安心できるか」の
目安のようなものです。

HIVの治療薬を飲む理由は
血液中のHIVの量を「できるだけ抑える」ためです。

一般に、HIVに感染した人の血液1mlの中には
数万から数十万、もしくはそれ以上の
HIVのウィルスが泳いでいます。
治療を始めることで
このウィルスの数をできるだけ抑えたい、と
わたしたちは願っています。

現在の技術では血液1mlの中にいる
HIVのウィルスを50個まで
(ウィルスの単位はコピーなので、50コピーまで)
数えることができます。

ウィルスの数が50コピーよりも少なくなったとき、
今の技術では数えることができないので
「検出限界以下」と呼びます。
ウィルスの数が「検出限界以下」に達することが
HIVの治療を開始したときの当面の目標になります。

「検出限界以下」というのは、
数えられないくらい少ない量だ、ということなのですが、
いったん治療を止めれば、あっという間にまた
数万から数十万コピーのウィルスが
血液の中に現れてきます。

ですから、現在の治療では、
血液の中のウィルスを
数えられないくらい少なくすることはできるけれど
残念ながら、根絶させることはできないのです。

いったん「検出限界以下」というゴールに達した後は
この状態をできるだけ長く続けることができるよう、
引き続きお薬を飲みつづけることが必要になります。

これが、また大変な努力を必要とします。
野口さんがおっしゃる、
「病気と共に生きていくことにはゴールがありません。」
という言葉は、このことも踏まえたものです。

「ひとりキャンペーンを始めました。」と
ここで書いたときに
「手伝いますよ」、とメールをいただいたり
「『みんなの誤解』を印刷して、周囲に配りましたよ」
といったお知らせをいただき、
しみじみとうれしく思ったのですが、
野口さんも、
「そんなみずくさいこと言わないで。一緒にやりましょう」
とメールをくださいました。

野口さんとメールのやりとりをしている間、
教え子たちの健康を案じる
彼女のまっすぐで、とても暖かい言葉は
いつもとても印象的で、
わたしは、彼女はどんな方だろうかと思っていました。

実際にお目にかかった野口さんは、
わたしが想像していたよりも若くて
想像していたように穏やかな女性でした。
「ほぼ日」を通じて知り合えたことを、
とても感謝しています。

今回は野口さんの感想を通して
北海道教育大学でのことをご紹介いたしました。

次回は、今回の連載を読んで
HIVの抗体検査を受けよう、と決心した方からの
メールをぜひご紹介したいと思います。

では、今日はこの辺で。
みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

2006-07-14-FRI

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