PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙172 医療制度のしくみ・9
患者さんと保険会社と医療機関。



こんにちは。

前回は、米国で見かけた
患者さんと保険会社とのやりとりの一部を紹介しましたが、
今日は病院と保険会社との話にしようかと思います。

米国の保険会社は
医師個人または病院全体と契約を結んで、
自分の会社の保険に加入している患者さんが
その医療機関を受診した場合、
必要な経費を払う仕組みになっています。

多くの場合、
医療機関が必要だと考える医療の範囲と、
保険会社がこれで十分だ、と考える医療の範囲と、
さらに、患者さんが「自分に必要だ」と思う医療の範囲とは
必ずしも一致しません。

ですから、治療が終わった段階で
保険会社に医療機関がその費用を請求しても、
その満額が支払われることは、あまりないようです。

「この治療は、この患者さんに
 必ずしも必要でなかったと思われますので、
 この分に関しては
 保険金をお支払いすることはできません」

この時点では、既に治療は終わっているので
その治療に対しての保険金が支払われない、ということは
病院側の損益になります。

これは病院経営にとっては大打撃です。

たとえば
これは昔わたしが働いていた病院でのケースですが、
ある保険会社が、
病院から送られてきた請求額の1割について
支払いを拒んだために、
病院は11億円くらいの収入を
ふいにしてしまった年がありました。

このような損益を防ぐために、今、米国ではどこの病院でも
ケース・マネジャーという
看護師の資格のある専門職を雇っていて、
保険会社が支払いそうもない医療行為を未然に防ぐよう、
(それは主に医師に対して
入院期間の短縮を求めることが多いのですが)
細かくチェックしています。

保険会社が支払いそうもない医療行為、というのは
もちろん、その意見が正しいこともありますが、
時に、医師として
患者さんのためには必要だと思われることもあるので、
病院収入を優先するか、
患者さんへの医療効果を重視するか、と
医師は難しい決断を迫られることもあるようです。

また、医師と保険会社が合意しても、
その内容に患者さんが納得しない場合もあって、
その場合は、患者さんが双方との交渉に
臨むことになります。

時には、患者さんは自分の望む医療を受けるために、
現在加入している健康保険に
追加のお金を払って内容を変更したり、
保険会社を替えたりすることも必要になります。

というような訳で、
病院の中では
いつも、いろいろな、交渉ごとが渦巻いています。

米国のような民間の健康保険であっても、
日本のような公的な健康保険であっても、
医療施設から保険への請求書、
つまり医療費の高騰に関して
保険が破綻しそうだ、という状況はほぼ同じですから、
きっとそのうち日本でもケース・マネジャーという仕事が
病院の中で認知されていくんじゃないかな、
という気がします。

では、今日はこの辺で。
次回は、公衆衛生の授業の中で紹介された、
日本の医療事情についてご紹介しようかと思っています。

みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2003-07-02-WED

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