PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙164 医療制度のしくみ・1 PEW

こんにちは。

夏の終わりに日本に戻ってきてから
ときどき、米国で過ごした4年あまりの間の出来事を
思い出すことがあります。

今年の夏まで、わたしは、
まず内科、
それから老人科のトレーニングを受けていたのですが、
その仕事の場所は病院の中だけに限らず、
外来の診療所だったり、患者さんのお家だったり、
老人ホームだったりして、
いろいろな側面から
「病気」について考えることができました。

日本にいたときも
こういった場所で働く機会はありましたし、
米国にいたからできた、というような
とりわけ特別なことではありませんでした。

でも、そのようなことのほかに、
「こういったことを
日本の病院で勉強する機会は
あまりなかったなあ」と思うようなことを
学ぶこともありました。

今日から何回かは、
そのようなことについて
少しご紹介してみようかと思います。

「ねえ、PEWの講義、受けてみる?」
ある日、上司の先生から尋ねられました。

「PEWって何ですか?」

「公衆衛生とか医療経済とか
 健康保険制度なんかについての2週間のプログラム」

「そのピューっていうのは何の略なんですか?」

「よく知らない。
 確かこのプログラムのために
 寄付をしてくれた人の名前をとっているらしいけど、
 でも、違うかも」

名前の由来はよくわかりませんでしたが、
ともかく、医療制度の仕組みや医療経済のことについて
2週間、集中して教えてもらえるコースらしい、
ということはわかり、
面白そうなので行ってみることにました。

さて、そのPEWの初日、
教室には30人ばかりの
レジデントやフェローが集まっていました。
みんなトレーニング中の内科の医師たちです。

時間通りに教室に入ってきた先生は
「ようこそ。
 僕は内科医で、加えて公衆衛生の専門家です。
 ここの公衆衛生学部で働いています」
と自己紹介をしました。

「今日から2週間、
 みんなにいろんな角度からの事実と意見を聞いてもらって
 僕たちがどんな産業の中で働いているのか、ということを
 わかってもらいたいと思います」

「で、最初に、きみたちが
 どのくらいこれらの問題について認識しているか、
 ということを知るために
 この問題を解いてみてください」

そう言うと、彼はみんなに紙の束を配り始めました。

問題を見たレジデントたちは、
一様にため息をついています。
もちろん、わたしもです。

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・米国・カナダ・フランス・英国・日本の5カ国を
 国内総支出に対する医療費の割合が高い順に並べよ。


 《日本と米国が高いのかなあ》

 答え
 【1・米国14% 2・カナダ10%
  以下フランス・日本・英国の順】


・医療費の国内地域格差が生じる理由を選べ

 《どの選択肢もそれっぽいねえ》

 答え
 【そこにあった5つの選択肢はすべて正解でした】


・レジデント一人を養成するために
 大学病院が支出している費用はいくらか?


 《わたしたちに支払われる年収の2倍くらいかなあ》

 答え
 【それよりもずーっと多くて
  17万5000ドル(2200万円くらい)でした】


・米国民で健康保険を持っていない者はどのくらいいるか?

 《これは、たしか4000万人くらいだったはず》


 答え
 【4000万人。不法滞在者を含めればもっと多い】

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このほかにも、政府の機構のしくみや歴史的な出来事など
途方に暮れるような問題がたくさん出ました。

みんなで答え合わせをしながら、
先生は
「これから2週間にわたって、こういったことについて
 みんながじっくり考える機会をもつ、ということが
 このPEWのコースの目的です」
「みんな、楽しんでいってくださいね。
 このコースに出ている間は病院の仕事もしなくていいし、
 当直もないわけだし」
などと、のんびりと話しています。

楽しめ、といったって。

山のように渡された資料と
ぎっちり詰まった予定表を見ながら
わたしはだんだん
ブルーになってきました。


では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2002-12-15-SUN

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