PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙161 ほぼ日でやってみたいこと


こんにちは。

先日弟と話しているときに「ほぼ日」のことが話題になり、
こないだ書いていた話だけど、
どうして姉貴が「ほぼ日」で連載しているのか、
ということに興味をもつのは
あの新聞記者の人だけじゃないと思うよ。
俺も最初に聞いたときには
『何で?』とすごく不思議だったもん」
と言われました。

「どうしてか」、といえば、
それは
「糸井さんが誘ってくださったから」
なのですが、
「じゃあ、どうして糸井さんは誘ってくださったのか?」
と聞かれると
その理由は、よくわかりません。

理由はよくわからないけれど、
ここでわたしが
糸井さんからスペースをいただいているのは事実で、
また、「ほぼ日」の中で
わたしがやってみたい、と思っていることは、
3年半前に1回目を書いたときからずーっと同じです。

このことについては
昨年の今頃、これまでの連載の一部が
「ほぼ日ブックス」として出版されたときに、
その前書きの中で少し触れてみました。

あれから1年になりますが、
今でもその気持ちは同じままです。

「そんなつもりだったのか」と
お思いになる方もいらっしゃるかもしれませんが
今日は、「ほぼ日ブックス」の前書きを
もう一度ここでご紹介することにしようと思います。

ちょっと長いのですが、
もしよろしければ、ざっとご覧になってみてください。

◆           ◆           ◆

こんにちは。

このたびは
「ほぼ日ブックス・遥か彼方で働くひとよ」を
手にとって下さって、
どうもありがとうございます。

わたしが「ほぼ日刊イトイ新聞」に
スペースをいただいてから今日まで、
約2年半になります。
この間に掲載された
120あまりの「手紙」の中からいくつかを選び、
改めて書籍の形に再編集したものを
みなさまにお届けすることになりました。

わたしが内科医として働くようになって
今年で9年目になります。

今回の本の中でもご紹介していますが、
わたしが今の仕事に就きたいな、と思ったのは
この仕事が
目に見える形でのサービスのやりとりがあって、
その結果についても
後からある程度は確認できる、という特徴をもった
産業のひとつに思えたからでした。

しかし、実際に仕事を始めてみると、
患者さんと、病院で働く人たちとの間の
コミュニケーションの取り方は
思いのほか難しいものでした。

双方が共有しておいた方がいい、
からだに関する情報は山ほどあるというのに、
しかも、少し知っているだけで
大きな結果の違いを生み出すようなことが
たくさんあるというのに、
残念なことに
実際にその情報を必要とする人々には
それがうまく伝わっていなんだなあ、と
思うことがよくあります。

こう表現してしまうと、
「医師が
患者さんの大切な情報を独り占めにしてしまうとは、
ひどいじゃないか」と
お思いになる方もいらっしゃるかもしれません。

でも、実際に起きていることは、ちょっと違います。

わたしは、日本の病院で5年間働いた後、
アメリカに来て4年目になりました。

日本でも、アメリカでも、
わたしの周りで働いていた人たちは
その多くが、自分の患者さんに
少しでも病気について理解を深めてもらえるよう、
努力していました。

ある時、そんな同僚のひとりが
彼の患者さんへ
病気の説明をしているところに通りかかりました。

彼はとても信頼できる内科医で、
その説明も
病気の原因、必要な検査、治療法、
それから、今後気をつけるべきこと、など
わたしたちが教科書で学んだ内容に即した、
横で聞いていて感心するような
とてもすばらしいものでした。

「ああ、いいねえ」と思って通りすぎた
その日の午後、
たまたま、その説明を聞いていた患者さんと
話をする機会がありました。

「すごくいい主治医の先生で
よかったですね」と言ったわたしに、
彼女は、
「すごく熱心で、ありがたいんだけど、
何をおっしゃっているのか、難しくてよくわからないのよ」と
打ち明けてくれました。

医師の立場から見れば、
その時の彼の患者さんへの説明は
病気について必要なことをすべて網羅した、
しかも、できるだけわかりやすい言葉を選んだ、
とても「正しい」内容でした。

ところが、患者さんにとっては
「なんだか、難しい話」をずっと聞いていただけで、
結局、彼女には何も届けることはできませんでした。

こんなことがあってから、
医療のプロフェッショナルとして必要だと思う情報を
相手に向けてぶちまけるのではなく、
実際の生活に生かしてもらえる形で
届ける方法はないかなあ、と考えることが多くなりました。

わたしが「ほぼ日刊イトイ新聞」の存在を知ったのは
「ほぼ日」が創刊してから4ヶ月ほど経ったころでした。

いろんな人のいろんな考えを
これまでにない、
とても近い距離感をもって読むことのできる
このサイトのことが、
わたしはすぐに好きになりました。

それまで、知らない人に手紙を書いたことなど
一度もありませんでしたが、
ある日、つい、感想を書いて
ほぼ日の窓口postman@1101.comへ
メールを送ってしまいました。

それからしばらくしたある日、
糸井さんから
「病院のこととか
フィラデルフィアのことを書いてみない?」という
お誘いのメールが届きました。

どうしてまた
わたしに声をかけてくださることになったのか、
糸井さんに詳しくお話を伺ったことがないので
今でも、まだよくわかりません。

でも、ともかく
毎日たくさんの人がふらりとのぞきに来て、
しかも、これまでの媒体とはちょっと違った
親しみを持って内容を読んでくださる、という
「ほぼ日刊イトイ新聞」というのは、
わたしがずっとやりたいと思っていた
体や健康についての話をお伝えする場所として、
うってつけだと思えました。

「今すぐ役に立つ、というわけではないけれど
知っておくといいかもしれない、
わたしたちの体についての話」が
読んでくださる方々に届くといいな、と思いながら
毎回の「手紙」を書いています。

とは言うものの、
体のことばかりでは、
読んでくださる方はもちろんのこと
書いているわたしも、飽きてしまうので、
ときどき寄り道をしています。

この本では、
体のことに関してこれまで書いたものの中から
「薬について」「ミスを防ぐために」「HIV」の
3つのシリーズを選び、
その間に寄り道をしたときの「手紙」をいくつかはさむ、
という形をとることにしました。

「寄り道」の分は
これまでの手紙の中からとびとびに選択したので
前後のつながりが
少しわかりにくくなったところもあるかもしれません。
その際には
どうぞweb版「ほぼ日」をご覧になってください。

糸井さんからメールをいただいたことから始まった
「遥か彼方で働くひとよ」ですが、
連載が始まってからも、
折にふれ、糸井さんに相談にのっていただいています。

この本の中には
連載当時の糸井さんとわたしのメールのやり取りも
少し加えることにして、
「往復書簡」としてそれぞれの章末に入れました。

掲載された「手紙」のバックグラウンドが
糸井さんとの往復メールを通して
もう少し明らかになって、
読んでくださる方が
楽しんでいただけるようになればいいな、と
思います。

また、「ほぼ日」がいいな、と思えることのひとつに
読んでくださった方々から
いろいろな感想を寄せていただけることがあります。

「ほぼ日」を通じて、
これまで接点のなかった方の
感想や意見を聞かせていただけるのは
いつも、とても、うれしいものです。

中には
「『遥か彼方で働くひとよ』で読んだことが
実際の生活に役立ったよ」と知らせてくださる方もいます。

そんな時は
自分がやってみたかったことが
少しずつ実現しているような気がして、
本当にうれしくなります。

こういった気分で書いている「遥か彼方で働くひとよ」。
今回の書籍版もweb版と同じように
読んでくださる方に届くといいな、と
心から願っています。

2001-09-01
本田美和子

◆           ◆           ◆

というわけで、
わたしは「ほぼ日」での時間を
とても楽しみながら過ごしていて、
今後も、こんな感じで続けていけるといいな、と
思っています。

とは言っても、
次回、何についてご紹介していくか、については
まだ決めてなくて、これから考えます。

みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2002-11-05-TUE

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