PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
ニューヨークの病院からの手紙。

手紙153 訪問診療・8 ニューヨーク(5)
Home Health Aide その2



こんにちは。

ホーム・ヘルス・エイド、
ホーム・アテンダントと呼ばれる、
職業として、一人暮しのお年寄りの生活を助けている
女性たちのことを前回ご紹介しました。

多くのエイドは派遣会社に属していて、
お年寄りはその会社に報酬を払う仕組みになっています。
だいたい時給で13ドルから15ドル、
今の為替相場だと1500円から1700円くらいです。

住みこみで24時間面倒をみる場合には
180ドル程度、2万1000円で、
これだと、月に63万円になります。

もちろん、ニューヨークには
そのくらい、ぽんと払える資産家が
たくさんいるのは事実なのですが、
でも、すべてのお年寄りがそうではありません。

以前少し触れたことがありますが、
この国には、Medicare、Medicaidと呼ばれる
高齢者や低所得者向けの社会保障制度があります。

「看護ではない」、身の回りの世話をする
エイドに対しては、そのお年寄りが
Medicaid(低所得者むけ社会保障)の条件を満たす場合に、
生活の必要度に応じて、
部分的・または全額の補助が出ます。

その条件はとてもややこしいのですが、
ニューヨーク州の場合
その大まかな枠をかいつまんで言えば、原則として、
・65歳以上
・毎月の収入(年金など)が634ドル(7万4千円)以下
・持ち家、自家用車、葬式用の積み立て、などを除く資産が
 3800ドル(45万円)以下
の場合、Medicaidの受給資格を得ることができます。

さて、お年寄りがこれらの受給資格を満たす場合、
次にわたしたちには
ため息が出るような書類書きの仕事が待っています。

ニューヨーク市でエイドを派遣してもらうための書類は
『M11Q』(意味は知りません)と呼ばれています。

この中で、わたしたちは
お年寄りの現在の健康状態、診察や検査の結果、
飲んでる薬のリスト、日常生活の状態、
お年寄りが「できる」生活動作と「できない」生活動作、
医学的に必要と思われる補助をこまごまと説明し、
その最後には、このお年寄りに、
週に何日、1日何時間のエイドが必要かということを
切々と訴えなければなりません。

書類の書式と用語が何よりも大切なのは
どこの国の役所も同じです。

1日6時間のエイドの申請が
4時間に削られないようにするには
特別な専門用語をちりばめることが大切で、
わたしは今でもその道の専門家、
ソーシャル・ワーカーに目を通してもらって、
大丈夫かどうか確かめています。

それでも、やはり、
お年寄りが自分に必要と思う補助と
Medicaidが用意してくれる補助とに
差がでることはよくあって、
その場合には、
本人、または家族が
不足分のエイドの費用を自己負担することになります。

日常生活のサポート、というごく基本的なことについても、
お金というのは、大切なのだな、と
改めてしみじみ思います。

今日は少し細かい話になってしまいましたが、
決して安くはない、エイドの費用と
それを公的に助ける仕組みについてご紹介しました。

さて、このような制度があるんですよ、と
枠組みをご紹介するのは、割と簡単です。

でも、実際に往診に伺うと、
それだけでは説明しきれない
生活の中での軋轢を目にすることがあります。

次回はわたしが見かけたケースの中から
そのような例を少しご紹介しようかと思っています。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2002-08-04-SUN

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