PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
ニューヨークの病院からの手紙。

手紙118 ニューヨーク家探し・3 サブレット

こんにちは。

前回お伝えしましたように、
もらえるはずの病院宿舎の空きがないことが
間際になってわかり、
アパートの又貸し・サブレットをしながら
いつになるのか
はっきりしない空きを待つことになりました。

Village Voiceという地元紙のサイトでみつけた
いくつかのサブレットの持ち主に
おそるおそる電話をしてみました。

留守番電話にメッセージを残した、
その中のひとつの持ち主が
折り返し電話をくれました。

詳しい住所を聞くと、
そこは、病院から歩いて3分くらいの
とても便利なところでした。

「もし、興味があるなら見に来る?
 ほかにも電話をかけてきてる人がいるので
 できたら早いほうが良いと思うけど」

彼女の英語には、ちょっとアクセントがあって
おそらく外国人なのだろうと思えました。
話し方も穏やかで、良い感じだったので
ともかく部屋を見せてもらうだけでも、と
翌日の昼休みに見に行きました。

住所を頼りにたどり着いたそのアパートは
とんでもなく豪華な高層ビルでした。

すごいなあ、とびっくりしながら
受付の人に連絡をとってもらって、
中に入りました。

アパートの部屋から出てきたのは、
とても素敵な感じの女の人でした。
アパートは、リビングルームに、寝室が3つ。
しかも、イースト・リバーという
マンハッタンの東端を流れる川に面していて、
それぞれの窓からの眺めは
そのまま絵葉書やポスターになりそうです。

また、部屋や廊下には
たくさんの絵や写真が飾られていて
まるでギャラリーのようでした。

映画のような
こんなおしゃれな生活をしている人が
本当にいるんだなあ、とうっとりしながら、
彼女から詳しい話を聞きました。

いつもは、このアパートには
彼女と、2歳の子供、子供の面倒を見ている乳母の
3人が住んでいるのですが、
子供が父親のいるフランスへ乳母と行っている間
部屋が2つ空くので
誰かに貸したい、とサブレットの広告を出したのだそうです。

「昨日、見に来た人が一人いたんだけど、
 ちょっとやばい感じの若い男の人だったんで、断ったの。
 わたしも同じアパートの中に住むんだし、
 怪しい人は怖いから。」

わたしのことは、それほど怪しんでいないようでした。

すばらしいアパートだし、
何より、その持ち主がとても良い感じの人だったので
ここに住まわせてもらうのは、悪くない、と思いました。

「じゃあ、よろしくお願いします」と、
詳しい条件や生活のことについて話しているうちに、
互いのバックグラウンドに話が及びました。

「あなたが医者、って聞いて、
同じ仕事の人でよかったなあ、と思っていたのよ」と
彼女は自分のことを話してくれました。

ヨーロッパで生まれて、フランスで医師として働いた後
感染症の研究を始めて、
数年前からアメリカに招かれて
基礎研究を続けているのだそうです。

彼女の雰囲気や部屋の感じから
芸術家かなあ、と勝手に思いこんでいたのですが
大外れでした。

しかも、驚いたことには
この建物は
彼女が勤める大学の職員宿舎だというのです。

その学校・ロックフェラー大学は
野口英世が研究をしていたことで日本でも知られていますが、
現在は、
HIVのときにご紹介したDavid Ho博士もいらっしゃいます。

「世界のお金持ち」の名を冠するだけのことはある、
とても豪華な大学の宿舎に、
わたしは、うきうきしてきました。

こんなゴージャスなところに住むことができるのは
二度とないだろうな、と思いながら、
子供が帰ってくるまでの3週間あまり
彼女の部屋のひとつを借りて過ごすことになったわたしは、
とりあえずの落ち着き先が確保できて
ほっとしました。

では、今日はこの辺で。
みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

2001-10-07-SUN

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