PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙97 ニアミス・カンファレンス再び。
     4・枕



こんにちは。

ニアミス・カンファレンスの当日になりました。

このシリーズの最初に触れたように、
カンファレンスの部屋には
肺の専門家(呼吸器内科)、外科、放射線科、
倫理委員会の偉い先生方と
いつものレジデント達がたくさん集まりました。

だいぶ慣れてきた、とはいえ
発表の前はいつも気が重いものです。

アメリカで働くことになってから
自分で決めたきまりがいくつかあるのですが、
その第一番目は
「英語が下手なことについて、弁解しない」
ということでした。

これは、わたしを知るすべての人がご存知のように
決して、「わたしの英語に問題はない」
ということではありません。

伝統的・日本的・英語公教育を受けて育った
わたしの英語の圧倒的な問題点は
コミュニケーション・スキルの欠如です。

病院での医療情報のやりとりの多くは
口頭で行なわれます。
もちろん、電話も重要なツールです。

自分が相手の意思を十分くみとることができなかったり、
相手に自分の言いたいことが
全部は伝わらなかったり、というのは
仕事場では致命的です。

仕事上必要な知識や技術についての
自分の至らなさを、
「すみません。わたしの英語がうまくなくて」と
英語のせいにしてしまうことは、
自分が本当に向き合うべきものから
逃げているような気がして、何となく嫌だったのです。

わざわざ自分で「英語が下手です」と言わなくても
話している相手には、十分わかることですし。

でも、この街で過ごすのも3年目になると
日常の仕事で言葉に不自由することは
だんだん少なくなってきました。

もうそろそろ、自分の言葉についての問題を
(英語ではlanguage barrierというとても
わかりやすい呼び方をしています)あげつらっても、
聞いている人に「しゃれにならないぞ」と
居心地の悪い感じを抱かせることは
少ないんじゃないか、と思い
自分の気持ちを落ち着かせるためにも、
当初の決まりを破って、
ここから話を始めることにしました。

「今日は、たくさんの先生方にお集まりいただき
 ありがとうございます。」

「チーフレジデントのジェンから、
 このカンファレンスについての話を聞いた翌々日から
 わたしは休暇で日本に帰りました。」

「それから、今週の月曜日の夕食までの2週間あまり、
 日本語と日本食にどっぷり浸った幸せな時間を過ごして、
 フィラデルフィアに帰ってきたのは36時間前です。」

「日本がとても楽しかったので
 わたしは英語をすっかり忘れてしまいました。
 思い出しながら、ゆっくりお話ししますので
 もしわかりにくいところがありましたら、
 どうぞ途中でおっしゃってください。」

今、思い出しながら書いていても
よくもまあ、ぬけぬけとこんなことを言ったもんだ、と
自分で呆れてしまいますが、
これでわたしの気分はだいぶ楽になって、
本題に入ることができました。

結局、今日は「カンファレンスが始まりました」と
一行ですむ話が、こんなに長くなってしまって
すみませんでした。

次回は、本題のカンファレンスに。
では、みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

2001-05-20-SUN

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