PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙85 HIV 12 日和見感染2

こんにちは。

今日は、前回ご紹介した
免疫の力が低下した時に起きてくる感染症、
日和見感染の続きで
具体的にどんな予防が必要なのか、ということについて
お伝えしていこうと思います。

体を守る兵隊、免疫の力がだんだんなくなっていくと
外からいろいろな病原菌が入りこんできます。

その病気の起こりうる頻度や
治療の難しさ、予防できる可能性、
それからその感染症による死亡率の高さ、など
いろいろな要素を考え合わせて、
現在、免疫の状態つまりCD4の数に応じて
感染の予防のために
薬を飲んだほうがいいだろう、と考えられている
日和見感染症を起こす病原体は4つあります。


1.カリニ肺炎

AIDSの患者さんのなかで、
その頻度が最も高い日和見感染は
カリニ肺炎です。
この病気がすすむと、
体の中に酸素を取りこむことができなくなってしまう、
とても息が苦しくて、つらい肺炎です。

CD4の数が血液1μL中200個以下になってくると
カリニ肺炎を起こす可能性は
うんと高くなります。

でも、このカリニ肺炎は
予防薬を飲みつづけることで、
かなりの確率で感染を防ぐことができることも
わかっています。

CD4の数が血液1μL中200以下になった方には
カリニ肺炎の予防薬として、
日本ではバクタ、
アメリカではBactrimという商品名で売られている、
Trimethoprim-sulfamethoxazoleという、
とても長い名前の薬を
毎日1錠ずつ飲むことをお勧めしています。

この薬は、膀胱炎などにも使われる抗生物質で
値段もとても安くていいのですが、
成分に硫黄を含んでいるので
ひとによっては
湿疹ができたり、貧血を起こしたりすることがあります。

副作用が起きた時には
仕方がないので
別の薬を使わなければいけないのですが、
効き目を考えると、
やはりバクタのほうを使いたくなります。

ですから、
「死ぬほどひどい、というわけではない副作用のとき」
具体的には、湿疹程度の副作用の場合には
もうだいぶ前のことになりますが、
<手紙18 「 薬について」その4>でご紹介したように、
「脱感作療法」といって、
ごくごく少量から始めて、少しずつその量を増やしていき
徐々に体を薬に慣らしていく治療法を行います。

どうしても、バクタが飲めないひとの場合は、
dapsone、atovaquoneといった薬を飲んだり
pentamidineという薬を吸入したりするのですが、
効き目はバクタに劣ります。


2.トキソプラズマ脳炎

トキソプラズマは十分に火を通してない肉を食べたり、
ペット、砂場遊びなどを通じて
ひとに感染しますが、
普通の免疫力があれば、特に問題は起こりません。

でも、CD4の数が100以下になると
とくに、脳の中に大きな病変を作りやすくなります。
そして、その多くは
元気な時に感染していたトキソプラズマが
免疫の力が低下したことで
再び暴れ出したものらしい、と考えられます。

ですから、HIVの感染がわかった時点で
トキソプラズマの抗体を測っておくこと。
そして、もしその抗体が陽性なら
それは既にトキソプラズマに罹ったことがある、
という証拠ですから
CD4が100を切ったら、
すぐに予防を開始することが必要だと考えられています。

予防の薬はカリニ肺炎と同じバクタです。


3.非定型抗酸菌(MAC)感染症

非定型抗酸菌(MAC)という細菌は
大きく分けると、結核菌の仲間に入るのですが、
わたしたちの身の回りに普通にいる細菌です。

免疫の力が低下してくると、全身にこの菌が広がって
熱が出たり、下痢をおこしたり、
肝臓を傷めたりするようになります。

CD4の数が50以下になると
このMACを予防するための薬を飲んだほうがいい、と
考えられています。

Azithromycin(ジスロマックス)、
clarythromycin(クラリス)
といった抗生物質を使います。


4.結核

みなさまよくご存知の結核も
とても大切な日和見感染のひとつです。

日本で生まれたひとの場合は
子供の時にBCGを受けているので
その後、ツベルクリン反応テストを行った時に
普通の免疫力があれば
常に陽性の反応がでることが予想されます。

BCGを受けていないひとの場合は、
HIVの診断がついた時点で
ツベルクリン反応テストを行って、
これが陽性であれば
isoniazide、rifampin、pyrazinamideといった
結核の治療薬を飲むことが勧められています。
薬を飲む期間はその薬の種類によって変わってきます。

BCGを受けたことのあるひとの場合は
ツベルクリン反応テストでは
新しく結核に感染したのかどうか
判断することができません。

ですから、具体的に
結核を疑うような症状がないかどうかを
注意深く見守っていくことになります。
症状があれば、
痰を培養したりして結核の診断をつけ、
必要があれば治療を始めます。


5.そのほかの日和見感染


日和見感染を起こす病原菌は他にもまだまだありますが、
現在、予防が必要だ、と考えられているのは
上にご紹介した4つです。

そのほかの日和見感染には
サイトメガロウイルスによる、目の網膜の炎症や
カンジダというカビによって起こる、
口の中の炎症などがありますが
これらについては
予防のための薬を飲む必要はなく、
その症状が起こった時に個別に治療すればいい、と
考えられています。

以上、今日は日和見感染について
ご紹介してみました。

次回は、これまでご紹介しそびれていた、
このシリーズに関してお世話になった方々についての
お話などにしようと思っています。

では、みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

2001-03-22-THU

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