PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙43 カスタマーサポート

こんにちは。

「ほぼ日」を読んだり、メールをやりとりしたりと、
わたしのラップトップコンピュータは
毎日大活躍なのですが、
先日、発表用のスライドを作ろうと
職場に持っていってスイッチを入れたら
何だか、頼りなくて薄暗く画質も荒い
セーフモード、とかいう状態になってしまいました。

コンピュータのことは、ぜんぜんわからないのですが
それでも、これが超まずい状態だ、ということぐらいは
直感できます。

がっかりして家に帰って
マニュアルを探してみたのですが
セーフモードの直し方なんて、どこにもありません。

もう、自力でやるのはあきらめて
専門家に相談しようと決めて、
マニュアルに載っていた
サポートセンターに電話することにしました。

今使っているコンピュータは日本で買ったので、
サポートセンターは
関東地方の局番の電話番号しか載っていませんでした。

アメリカにも絶対にサポートセンターは
あるはずなのですが、それを探す気力もないし、
第一、もともとよくわからない分野の話を
英語でする面倒くささを考えると
これは、もう電話代には目をつぶって
日本の人と話そう、と電話をかけてみました。

持ってる機種をプッシュボタンで選んで
保留音を聞きながら、順番を待っていると
「大変お待たせいたしました。カスタマーサポートの…」と
担当の人がでてきました。

「あれ?」

丁寧で、頼りになりそうなプロフェッショナル・トーク。
でも、その日本語は英語のアクセントです。

アメリカ人っぽいな、と思いつつ
現在の事情を説明して、
何とかして元に戻したいとお願いしました。

「じゃあ、まずここを開いて設定を変えてみましょう」と、
復旧が始まりました。
いろいろなところをクリックして
その結果を待つ間、ちょっと時間があります。

その間、電話の両端にいるわたしたちは
少々手持ち無沙汰です。
沈黙に耐えられる時間は思いの外短くて、
待っている間に何となく世間話を始めました。

「で、今アメリカから電話してるんです」というと、
「アメリカのどこですか?
 僕は先週東海岸から帰ってきたばかりなんですよ」

やっぱり、アメリカの方でした。
その後、
20分ぐらいかかるハードディスクの掃除のやり方と、
そのサポートセンターには
3人の外国籍の方がいることや
一日中しゃべってるので、
ちょっとのどが痛くなることなどを教えてもらって
もし、その掃除がうまくいかなかったら
もう一度電話をして
別の方法をやってみる、ということを決めて
一旦電話を切りました。

20分後、立ち上がった画面は
やっぱりセーフモード。
2度目の電話をかけました。

「大変お待たせいたしました」。

出てきた担当の方の日本語は、
明瞭なインドのアクセント。

前回の記録を見直して、別の方法を薦めてくれました。
この方は、とてもはっきりしていて
「ただ、この方法もうまくいかない可能性が高いです」
「うまくいかない場合には、
 出荷状態にまで戻したほうがいいでしょう。」

3人しかいない、という
外国籍の方に続けてつながるなんて
すごい偶然だ、と思いながら
教えてもらった方法を試してみましたが
やはりだめ。

あきらめて、リカバリー用のCDをセットしました。
でも、このCDすらうまく立ち上げることができません。

3度目の電話をかけることになりました。

「お待たせしました」。

3人目は日本の方でした。
いずれの方もほんとうに頼りになる、
まさにプロ、という感じで
電話してよかったなあ、と思いながら
CDの読み込ませ方を教えてもらっていました。

コンピュータが読み込むのを待っている間、
また、沈黙に耐えきれずにちょっと話を始めて、
日本の外から電話していることに触れたところ
「じゃあ、ひとごとじゃない気がするので
 最後までいっしょにがんばりましょう。」
と励ましてくれました。

「ひとごとじゃない」ってどういうことだ?

おそらく事務的に仕事を進めなければいけない方のことを
詮索するのはまずいとは思ったのですが
この言葉の意味だけは、どうしても知りたい、と
失礼を承知で、たずねてみました。

その理由は、予想もしてないものでした。

そのカスターマーセンターの連絡先は
関東地方の市外局番なのですが
電話は自動的に、
成田空港から飛行機で10時間の都市に
転送されているんだそうです。

「ときどき担当したお客様から、
 お礼に食事でも、と、お誘いを受けることがあるのですが
 ちょっと遠いので、とお断りしてるんですよ」。

そりゃあ、かなり、遠い。

日本を離れて仕事をしている者同志の
なんだか不思議な連帯感を
「ひとごとじゃない」、と
言ってくださったんだなと納得しながら、
その後のとてもわかりやすい指示を受けて
わたしのコンピュータは
ようやく買ったときの状態に戻りました。

こうして再び「ほぼ日」を読んだり、
メールをやり取りできるようになって
ほんとうにうれしいです。

的確な指示を言葉でぴしっと伝えてくれる
信頼感あふれるプロの仕事に
かっこいいー、とちょっと憧れた一日でした。

では、今日はこの辺で。
みなさまどうぞお元気で。

あと、ここでこんなことを
お願いしていいものかどうか迷うのですが、
バックアップしてたはずのメールアドレスのファイルが
開けなくなったままでいます。
もし、ここを読んでる友達がいたら
すみませんが、アドレスをもう一度知らせてください。

本田美和子

2000-03-15-WED

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