PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙5 「ACLSという蘇生技術のこと」

患者さんの様子が急に悪化して
救命処置を行なわなければならなくなった
状態のことを「コード・ブルー」と呼びます。

何でブルーかというと、
患者さんが(そこにいあわせた医者もですけど)
蒼ざめてるかららしいです。
ちなみに火事のときは「コード・レッド」。

人が死にそうになっているときに
助けようと頑張る人たちのテンションが上がるのは
どこでも同じです。

この舞い上がっている状態の中で、
落ち着いて必要な行動がとれるようになるためには
まず、練習。

と、いうわけで
医師、看護婦、医学部の4年生など
病院内で働く人たちは、2年ごとに
BLS(basic life support)、
ACLS(advanced cardiac life support)
といった資格の講習を受けて
試験に合格しなければなりません。

わたしが初めてこの講習を受けたのは
当時勤めていた病院から初めての出張で行った
横須賀の米国海軍病院でした。
3日間缶詰で疲れたけど、最終日には
オフィサー用のプールで泳いだりして楽しく過ごしました。

この講習でしつこく繰り返されるテーマは、
「患者さんが死にそうなときに
まずやんなきゃいけないこと、考えなきゃいけないこと」。

たとえば、意識と呼吸、脈拍を確認する、ひとを呼ぶ、
心電図をつける、血圧を測る、心臓マッサージをする、
必要があれば気管に管をいれる(気管挿管といいます)、
できるだけ大きな静脈にラインを入れる(点滴ですね)。
心電図の形をもとに、診断をつける、薬を選ぶ、
電気ショックをかける。
そうこうしながら、
こんなことになった、もともとの原因について考える。

これらの手順は、アメリカ心臓病学会の
こんなことをずーっと考えている人たちが作ったもので、
数年毎に改訂されます。

このガイドラインに添った治療ができるように
シミュレーション用の人形を使ったりしながら
講習会で練習します。

もちろん、このとおりにやれば
すべて助けられるわけではなくて、うまくいかずに
患者さんが亡くなってしまうこともあります。

でも、目の前で死にそうになっている人を
なんとか助けようとするときに、
自分のやってることに落ち度がないか
不安になるのは、よくあることです。
こんなときに、数多くのデータに裏付けられた
やるべきこと、考えるべきことを頭の中に思い浮かべると、
自分を落ち着けることにもなって本当に助かります。

今度「ER」をご覧になるときには
「ほー、ACLSやっとる」、と思って見てください。
薬の量も合ってます、たぶん。

では、今日はこのへんで。
みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

1999-05-16-SUN

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