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いままでの記事 2006/03/14  
 
第4回 SクジMクジ、どちらを引いた?
糸井 岡田さんは、愛がないと
おっしゃっているわりには、
実際には、人の役に立っちゃってますよ。
岡田 はい。役に立つのは、いい気持ちです。
手ごたえもある。
でも、そんなに愛があるのかな、ぼくに?
「乗ってみたら燃料不足だった」
ということがあるので、心配です。
糸井 そんなこと、ぼくだって、
自信ないですよ。
岡田 「子どもが井戸に落ちそうになっていたら
 『危ない』と叫ぶだろうか」
というところまで設定を拡大させないと
「そうですね、愛です」
とは、なかなか言えないです。
ぼくはそんな、自分だけが大事な人間なんですよ。
そういう前提があるからこそ、
おせっかいに人に関われる、
という一面もあります。
糸井 ああ、なるほど。
それは、とてもおもしろいですね。
岡田 右足が「自分しか生きている価値がない」と
思っている。
ぼくは自分が死んでも世の中が存在するのが、
不条理じゃなくて不可解なんです。
でも、左足が
「そんなことないだろ」と言っている。
右足の軸足を持っているんですけれども、
それがあるからこそ左足で、
「なんでもいいから世の中の
 役に立ってる間だけ生きてたいな」
と思ってる。
この両方の足で、
それなりにバランスがとれているんですよ。
糸井 う〜ん。しかし、岡田さんは
自分の考えを鍛えあげるねぇ。
聞いていて、おもしろいですよ。
岡田 (ささやくように)暇だからでしょうか。

脳のエンジン、フル回転しすぎかもしれない。
ぼく、お酒とか、
意識がぼんやりする種類のものは
ぜんぶ嫌いなんです。
糸井 じゃあ、
「毛糸玉がこんなになっちゃってるのよ、
 ほぐして」
なぁんて、言われたら、どうします?
岡田 ほぐしますね。
糸井 ほぐしますか!
じゃ、農業は?
理不尽な雨とか、しょうがないことが
たくさん起こるようなことは‥‥
岡田 ダメです!
理不尽は全部ダメです。
そういうことは、
理不尽な状況で何でもできる
マゾの人がやってくれぇ!
糸井 ハハハハ。
マゾじゃないんですね?
岡田 どうも世の中は、みんなが自覚していないだけで、
SとMに、完全に分かれていると思います。
だいたい、人さまがテレビで
野球やサッカーをやってるのを
あんなに熱心に観ることができる人たちのことを
ぼくはさっぱり理解できなかったんです。でも、
「あいつらMだったんだ!」
とわかってすっきりしました(笑)。
ぼくはMじゃないから、
人が動くものを鑑賞していると、
なんだか腹が立ってくるんです。
糸井 それは、子どものときから?
岡田 こんなに極端になったのは、
30歳をすぎてからだと思います。
30までは、まだ、お芝居も観に行けたし、
コンサートも観ることができたんです。
いまはコンサートを観ていると、
「俺が前に出て歌いたい」という気持ちが
フツフツと出てきて、どうしようもなくなります。
糸井 Mというのは、つまり、
「痛い」ということで
生きている実感を感じる人たち、ですね。
岡田 はい。もしくは、
「主導権がないことで気が楽になる」
という人たちです。
Sは主導権を
どうしてもとらなければ気がすまなくて、
Mは主導権が
自分にあると心が安らかにならない、
という差があると思います。
糸井 でもね、「○○ファン」と呼ばれる人たちは、
選手やアイドル○○君を運転しているのは
自分だと思っていますよ。
岡田 そうなんですか!
糸井 イチローが打ってるときにさえ。
岡田 それは‥‥おもしろいなぁ!
糸井 うん。意外にね、冷酷なこと思ってんです。
「だーめだー!」とか。
岡田 では、どうして自分でやろうとしないんですか、
Mの人たちは。
糸井 うーん、きっと「下手をする」からでしょう。
上手くできないことは、嫌いなんですよ。
観てばっかりいる、というのは、
そういうことだと思う。
ですから、観てばかりいるようなMの人が
じつは王様かもしれないですね。
岡田 そうですね。
MはマスターのMとか、満足のMと
言いますし‥‥。
糸井 できることならぼくは、Mでいたいです。
岡田 選べればいいんですけれども、
MかSかは、生まれたときに引く
クジのような気がしますね。
(つづきます!)
 
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