SHIRU
まっ白いカミ。

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155:「Money Rotation Action」

 

その昔、毛深い私たちの祖先が
物々交換をしていた時代。
せっかく良いマンモスの肉をため込んでいても、
それはすぐに悪いマンモスの肉になってしまいました。
どんなに狩りの才能があっても、
さぼっていては貧乏になるばかり。
お金に消費期限があった時代でした。

その昔、貝殻が貨幣だった頃。
家族で潮干狩りに行くことは家計を助けるのみならず、
食卓も潤おす、楽しい造幣行為でした。
いま、どんぐりや貝殻やマンモスの肉を
銀行に持っていっても貯金してもらうことはできません。
近所のコンビニでは使えません。

難しい言葉でいうと金本位制が崩れたのち、
信用というものを背景にした、
不換紙幣というものを私たちは使っています。たしか。
つまり日本国政府に許された人だけが
原価で考えれば10円で製造している
眉間にイボのある男の印刷された
こんなかわいげのない茶色い紙だけが、
この国の信用でもって1万円ぴったりの価値を持つのです。

いったい1万円ぶんの価値とはなんなのか。
それは私が12時間働く時間。
それはバランタインが21年樽の中で眠る時間。
それは大阪まで新幹線で移動できる距離。
それはたこ焼きが25箱買える栄養。
それは電気で作るまばゆさ、熱さ。

交換する際に保存性、携帯性にすぐれた紙幣は
いつしかあらゆるものの取引に使える単位になりました。
そして単位をみつけると、計れるものには
なんでも押しつけたくなります。
しかもある面においてその単位は
あちらを削ればこちらにあてられる…という形をとっていて
あらゆるものが等価性を持っているように
錯覚しそうになることもあります。

1部屋少ない家に住めば、子供の教育費にあてられるし
煙草を1日1箱減らせば、 家族で月末にごはんを食べられます。
でも、だからって1万円のディナーを食べた時に、
咀嚼回数1回あたりの単価をだしたりはしないし。
ティナー10,000回がある男の生涯年収と一緒のとき、
その男の人生は7,000,000回の咀嚼と同じ価値だったと
いうことにはなりません。

先日、私の好きな荒井良二さんの絵が
5万円で売っていました。 私にとってその絵は、
まるで誰かを好きになった思いでのように、
部屋にあるだけでこれからずーっと
心を温め続けてくれる作品に思えました。
残念ながら買えなかったけれど、その時の気持ちは
「これが5万円で買えちゃっていいんだ!」 でした。
高いか安いかではなくて、買えるか買えないか、でした。
買おうと思えば買えてしまう値段だったことに驚いたのです。

だってそれが高いか安いかは、
私の財政による相対的なものはあるけれど
絵自体として値段なんてつけようがなくて
高いのか安いのかもわからないんです。
画家はパンを食べなくちゃ死んじゃうけれど、
その絵の価格はかかった食費と生活費の総計でもないし、
筆を握っていた時間給+キャンバス代でもないし、
その絵が好きだと思える瞬間に
絵の価値は存在するだけです。
その揺り動かされる心の振幅なんて計れないし
そもそもそんな人によって違うものをあらかじめ
数値化したり、買う人に保証することもできません。

お金があればできることもあるけれど
それはお金に価値があるんじゃなくて、
お金というツールがある時に
できることや考えられること、
その絵のかわいさを理解できることに。
お金というツールを手に入れるために
したことや考えたことに。
価値があるんだと思います。

たとえば電話はとても象徴的です。
海底の光ケーブルを通って、
物理的に何かが移動するわけでもなくて。
電話をとる前と切った後で地球上で変化しているのは
どこかの電子上に記録された数字と
目にみえない人の心模様だけです。
そこで 交わされた相手の違う同じ5分間の会話が
電話代の視点から等価値ではないように、
お金の視点から生まれる等価値性は錯覚なのです。

…長くなりましたけど。以下、この「MR運動」は
紙幣がツールとして循環していることを実証して、
娼婦を買うのも、病人に薬を買うのも、鼻の脂をとるのも
同じ1万円札であって、それぞれに楽しいことなんだろうという
あたりまえのことを体感する一種の集団芸術運動です。

紙幣を私達から意識的に飛び立たせることで、
逆に我々が貨幣制度の抱える錯覚から
自由に飛び立つことを目的としています。


「Money Rotation Action」
マネー・ローテーション(MR)運動の説明と概要。

 

1.ホストは1,000人のMR運動への参加者を募集する。

この芸術運動のホストとなるものはWWW上に
専用のウェブサイトを構築し、参加者の募集を行う。
このサイトでホストは運動の進行について随時報告を行い、
募集した参加者のメールアドレスについては
個人的に管理してMR運動以外に使用しないしないことを約束する。

1,000人の参加者が集まった時点で、
ホストは運動のMR運動の開始を宣言する。
同時に各参加者に参加ナンバーをメールで送信、
あわせて認証マークを発表する。
認証マークは誰もが書ける単純なものであることが望ましい。

※図例…

 

2.参加者はMR運動開始の翌々給料日までに紙幣を放流する。
 
運動開始メールを受信後、
参加者は3枚の紙幣に認証マークと参加ナンバーを記す。
使用する紙幣は最高額紙幣の1万円札とし、
記入場所は福沢諭吉翁の前額とする。
3枚の紙幣はMR運動開始月の翌々給料日までに
それぞれ異なる用途に使用しなければならない。

3枚の1万円札を使用後、
参加者はそれぞれ何の用途に使用したのかを
ホストにメールで通知する。

 

3.参加者、協力者で紙幣の飛び立ったことを体感する。

ホストは集まった1万円札の3,000通りの使用法を
ウェブサイト上で集計して発表する。
直接の参加者以外にも、運動に賛同する協力者を広く呼びかけ
放流された認証マーク付き紙幣の目撃情報を募集する。
できることなら通し番号を元に、お札の移動経緯や
入手経路をなるべく明らかにするよう努める。

参加者は認証マークのついた他参加者の紙幣を発見次第、
財政状況に関わらず1ヶ月以内に本人に返金しなければならない。
これは形式上、金が天下を回ったことを実証するためである。
返金された参加者は1ヶ月以内にその発見者に対して
本人にとって1万円相当の価値をもつと思われる何かを
有形、無形を問わずに贈り返さねばならない。

この取引はすべてホストが責任をもって仲介し、
その過程もまたウェブサイト上で公開されるものとする。

ある一定期間(ここでは1年を設定)が経過したところで
MR運動は終了とし、その旨をホストは参加者にメールする。

 

注1… 使用されるのは最高額紙幣となることから、
     学生および無職の方は上記の規約を熟読の上で、
     参加を考慮されることを望みます。

注2… この"MR運動"プログラムについての著作権を放棄します。

2000年9月9日
シルチョフ・ムサボリスキー


2000-09-25-MON

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