SHIRU
まっ白いカミ。

83枚目: 「秋の妄想」

 

おいしい栗を3キロもいただきまして
重曹を使って栗の渋皮煮を延々と作っていたら
アルミ鍋の底に穴があいちゃったりする秋冷の候。
皆様、如何お過ごしでしょうか?

シル邸では澄みきった空の下
毒物を持った女が庭に出没したりしています。

ヨシコ、46歳。

歳も性別も異なる彼女と私の接点は
彼女が私をこの世に産んだ人だったりすること。
花を愛する彼女の趣味は土いじり。
小さな庭は各種の花であふれて
日々草、竜胆、孔雀草、秋海棠…etc。
秋の風趣満点の杜草鵑(ホトトギス)も
そろそろ咲きはじめると、それはまあ
素敵なのですけれども…。

今回、問題になるのは彼女の手にある薬物。
その名も「アリの巣コロリ」です。
ネーミングだけで説明は不要でしょう。
つまりこの薬、アリを効率よく
ジェノサイドする為の殺虫剤であります。

ある日、予告も無しに
ヨシコが薬をアリの巣の上に散布しました。
あとで見に行くと白く粉の散った土の上に
おびただしい数のアリの死骸が重なり合っています。
南無三宝。

ところが数日後。

絶滅したかに思われた彼らが
驚くべき事をやってのけていた事が発覚します。

このままでは巣が全滅すると判断したのでしょう。
庭の対角線上。植木鉢の下にびっしり!と
卵が白く小山になって集められているのです。

生きている卵。未来の子供達だけは守ろうと
毒の流れてくる巣から、生き残ったアリ達が
卵を1つ1つ抱えて…彼らにしてみれば
マラソンのような距離を
安全地帯を求めて延々と往復したのです。

これには私、ちっぴり心動かされました。
ヨシコにしても母親として種族を超えて
感じ入る想いがあったのでしょう。
「ちょっぴり胸が痛むわあ」とか言いながら
残ったアリの巣コロリをぜんぶ卵にふりかけてます。
ひーとーでーなーしー

…と、口先では胸が痛むのですけれど
現実は芋虫をわりばしでつまんで捨てないと
花は咲かないし。私はベジタリアンでもなければ
あまり殺生を咎める気持ちはホントはありません。

そういえば昔、エドというところで
「生類憐れみの令」という
蚊を叩いたら君、死刑。的に無茶なルールが
施行されたという話を聞きました。
いまだってクジラをいじめるなという人がいたり
地球の裏側では、たぶん知性がある
子供達が餓死したり空爆をうけていたりしていて
無茶さ加減はあまり変わってない気もしますけれど…。
きっと私達がエドを思って笑うように
いずれ「無茶な時代だったねー20世紀。」
なーんて、アリの巣コロリの生活を
笑われる日がくるのでしょうね。
お恥ずかしい。

ああ、今回も例によって庭のありんこから
大きく話がとびました…

それでは、また。

シル shylph@ma4.justnet.ne.jp

from 『深夜特急ヒンデンブルク号』

1999-10-17-SUN

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