SHIRU
まっ白いカミ。

38枚目 『食料的見地から』

 

深夜3時。

牛乳たっぷりのコーヒーに
即席ポテトサラダ。

 

【つくりかた】

1.材料

じゃがりこ(サラダ味)  …1つ
お湯            …適量

2.調理

じゃがりこのふたを開けて
お湯を少し入れてこねると芋に!

と。何をしているんでしょう。
そんな毎日ですが、私は元気です。

おととい、高田馬場を散歩をしていたら
カンガルーの肉が特売で売っていました。

100グラムで400円。
相場を知らないのですが
普段なら500円はするそうです。

カンガルー肉はともかくとしても

どんなに偉そうな事を言ったり
小難しい話を知っていても
自分が食べているきゅうりや白菜の値段を知らない。
そういう人はやだなぁ

…と、 ある人が言っているのを聞いて
すごく納得した事があります。
以来。八百屋に普段は行かなくても
通りすがりにちょっと値段が気になるようになりました。

こないだ新聞に入っていた広告では
バナナが100グラム7円でした。7円です!
1キロ買って70円。10キロ買っても700円。
もし、バナナ人間を作ったとしても
せいぜい5,000円。

どういう経済システムを通じて
バナナ達が海を渡って来るのかは知りませんが
「これだけ安ければ庭に埋めても惜しくない…。」
と広告をみながらつい私は呟きました。

それをキッチンに居合わせた母親に聞き咎められ
「どうしてバナナを埋めるの!」と詰問されてしまいました。
すぐさま私は一條裕子さんの「わさび」(全4巻)を手渡し
バナナを埋める事で手に入る生活の潤いについて
学ばせたのですが、まだ釈然としない様子でした。

というのも。聞けば「バナナはかつて高級品で、
病気で学校を休んだ時にだけ食べられる果物だった。」
…そんな過去を抱えこんでいるらしいんです。

他にも聞いてみるとアイスクリームが登場したとか
生クリームのケーキが高級品だった話とか。
「ただ、貧乏だっただけじゃないの?」とも思ったのですが
本当に生クリームが珍しかったんだそうで。
そういえば矢沢永吉さんの激論集「成り上がり」にも
ほっぺについたクリームにそっと舌先をのばし
なめてしまうシーンがありました。

 「永吉、きょうはクリスマスイヴだけど、
   おまえの家はこういうの食えないだろう」
 オレは黙って見てた。
「欲しいか。ちょっとなめさしてやろうか」
「うんなめさして、なめさして!」とオレは言った。
 そいつは、「そうかなめたいか」と言って、
 パッとちぎってくれた。
 そこまではよかった。
 彼は、さも食べ飽きたという顔してるわけ。
 そのケーキを、ちぎって……。
 オレに投げた、ポンと。頬っぺたに、ベチャッとくっついた。
 その時、オレがどうしたと思う?
「てめえ、この野郎」と殴りかかる? 
 いや、ちがう。世の中って劇画じゃないんだ。
 オレは口惜しかったから、すぐにはなめなかった。
 けどそれをなめたんだ。
 落ちないでくれ、頬っぺたから。
 落ちないでくれさえすれば、
 あいつがいなくなってからなめられる。
 そいつが横を向いてる時に、舌をのばしてなめた。

「矢沢永吉激論集 成り上がり」 (角川文庫)

うーん。今ならコンビニで生クリームを買ってきて
泡立てればバスタブ一杯でも作れますのにね。
他にも。読み返して気づいたのですが…
お腹一杯食べたかったとかそういう話が
しょっちゅう出てきて考えさせられます。

つまらない映画をみた時に時間を無駄にした…と
憤るのと一緒で。
私は美味しくないモノでお腹一杯になると
なんともいえない口惜しさを感じます。

私の母はこんな時
「美味しくない。」→「捨てちゃえ。」
の間に「もったいない。」 を感じるそうです。
でも、 もったいないけど無理に食べたからって
元は取り返せません。
元が取れるのはお腹を膨らませる為に
食料を買っている場合だけです。

「何の為に食事をするの?」という質問の答えは
栄養を摂取する為…という生物的理由より
美味しさを楽しむためのほうが大きいと思うのです。
だから無理に食べたって下手をすると
お金を払って不快感を買ってる事になってしまいます。

 
[見事な栄養のなささ加減。]

少年科学雑誌の中で
「未来のひとたちはこれ1粒で
 3日間食事をとらなくてもへいきです。」
と語られていた未来とは全く違って
やってきたのは
何キロ食べようと餓死するような
甘味料を開発してみる世界でした。

いくら先生が
アフリカの子供達。が。
と口では言っていたって。

本音はアフリカの子供達より
うちのタマの方が大切で。
ダイエットフードを買って与えるし。
クラゲにスポイトでプランクトンをくっつけて
食用でもないカエルを飼っては
冷凍ネズミをチンして与えるぐらい
食べ物はたっぷり余ってます。

別にいい子ぶりたいわけじゃなくて。
ただの食べ物の話から
わずか一世代の間にあるギャップとか。
同じ時代にだってあるギャップについて
考えてみたかったのです。

なんだか。お昼休み前に読まれている方には
楽しくない話題、面目ないでござるよ。にんにん。

 

シル (shylph@ma4.justnet.ne.jp)

from 『深夜特急ヒンデンブルク号』

1999-06-11-FRI

BACK
戻る