SHIRU
まっ白いカミ。

33枚目:「日々雑記」

 

4/8 Sun

入学式だった。私は先輩としてオペラ部に新入生を獲得しないといけない。スーツ姿の新入生の海。私の声はひばりよりも高らかに響いた。しかしスーツ姿の一群は私の声が聞こえないかのように、次々とウサギ飛びのまま会館に向かうと消えていった。夜、私は蜂蜜を喉に塗って、涙で枕を濡らしながら、いつしか眠っていた。

 

4/9 Mon

プラスドライバーでオルゴールを開けようとした。私はグリップを握って右に回すのだけれど、軸がぐにっと柔らかくねじれてしまう。恐くなった私は部屋を飛び出そうとしてドアに駆け寄ったが、取っ手は掴むなり下にぐにゅと曲がって、反動でぷるんぷるんと揺れた。あまりに悔しくて噛みついてやったらオレンジグミの味がした。

 

4/10 Tue

番長の家に遊びに行った。僕が彼の部屋に入ると、番長はちょうど煙草を吸っている所だった。スピーカーからはガンズが爆音で鳴り響いている。学校だけでなく家でも煙草を吸っている、そんな彼のモノホンの不良ぶりに僕はいたく感動し、番長の手の甲にキスをして臣下の礼をとった。帰りには番長のお母さんがお土産にと、焼きたてのガチョウを持たせてくれた。

 

4/11 Wed

キキ子が遊びに来たので番長の家に行った事を話した。「行くなり煙草を吸っているんだ。超不良だよ!」興奮気味に話す私にキキ子は「そんなのカーテンの隙間から番長が見張ってタイミングあわせたに決まってんじゃん。」と言った。そしてレンジで暖めたガチョウを2人で食べた。冷蔵庫に豆板醤があった事を思い出し、ネギを刻んで中華風ソースを作った。

 

4/12 Thu

新学期の忙しさでしばらく会社の方に顔を出さなかったせいで、出勤すると俺の席はアボガドになっていた。午前中は耐えていたが、お尻が森のバター臭くなってしまったので午後は新人社員の椅子を奪った。夜はこの新人の歓迎会だ。宴席では部長の十八番「オスワルト白金触媒法によるアンモニア硝酸生成」が飛び出した。最初は面白いかもしれないが、もう見るのは7回目。いいかげんウンザリ!!

 

4/13 Fri

受注工事の件で担当役員全員を接待。恵比須ガーデンプレイスのノーパンしゃぶしゃぶに連れていった。脱衣所でみんなパンツまで脱いだらビニールに服を詰めて小脇に抱える。階段を一列に登って座敷に上がったら仲良くしゃぶしゃぶを食べ、話はすぐに誤解もなくまとまった。仕事は裸の付き合いで進めるに限る。しかし女性の社会進出に伴ってこんな形の接待は近い将来無くなるのだろう。

 

4/14 Sat

目覚めると肩からお好み焼きが生えていた。私は現代に生まれた天使に違いないと思って道に飛びだした。お好み焼きの羽をはばたかせると紅生姜がまだ朝の冷たい大気にきらきらと飛び散った。道に白墨で落書きをしていた子供達が面白そうに寄ってきたので、自慢げに羽をみせびらかす。どこからか血相をかえて飛んできた母親が3人揃って私に言った。「そんな汚いもの、子供達にみせないで下さい!」

 

 

シル (shylph@ma4.justnet.ne.jp)

from 『深夜特急ヒンデンブルク号』

1999-04-24-SAT

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