第1回
    最高にアツいパンダ本。

    ──
    田附さんから
    「友人のオザワくんがつくった、
     アツいパンダの写真集があるんだけど」
    というメールをいただいたとき、
    田附さんの言う「友人のオザワくん」が、
    にわかには、
    「小澤千一朗さん」と結びつかなくて。
    田附
    あ、そう?
    ──
    はい、編集者の小澤千一朗さんについては、
    お名前だけは存じ上げていて、
    つまり、かっこよくてストイックな
    スケボー雑誌『Sb』を発行し続けている、
    気合いの入ったストリート派の編集長‥‥
    というイメージだったので。
    小澤
    いえいえ。
    ──
    実際、そういう人だと思うんですけど、
    なので、なおさら、
    「え、オザワさんて‥‥あの小澤さん?
     なんで、パンダの写真集を?」
    と、最初は非常にいぶかしみました。
    田附
    そうだよね。
    ──
    小澤さんの愛くるしいパンダ本か‥‥と、
    さっそく拝見したところ、
    すぐに「これは、すごい」と思いました。

    なぜなら全ページ、
    つまり「奥付以外のすべてのページ」に、
    パンダが載っていたんです。
    小澤
    そういう本にしたかったんです。

    HELLO PANDA
    小澤千一朗 著 / トランスワールドジャパン株式会社 / 1,944円

    ──
    よけいなウンチクとかまったくなくて、
    とにかく愛くるしいパンダの写真だけ。

    そこで、いっぺんに納得しました。
    このストイック感、
    ああ、これは『Sb』と同じなんだと。
    田附
    そう、明らかに小澤くんの本なんだよ。
    ──
    ただ、今回その「素材」が
    「なぜパンダだったのか」については
    未だに意外なので、
    本日は、
    そのあたりからお聞かせいただければ。
    小澤
    それは、パンダが大好きだからです。
    ──
    話が早い(笑)。
    田附
    いや、ほら、俺も、
    小澤くんがパンダの本つくってるとか、
    ぜんぜん知らなくて。

    あれは、発売の10日前くらい?
    小澤
    そう、撮影で一緒になったんですけど、
    終わってごはん食べてるときに、
    「じつは今度、パンダの本を出すんだ」
    っていうか、
    「もう10日後に出るんだけど」って。
    田附
    そう。で「え、何で?」と。
    「何でパンダなの?」って。
    ──
    お付き合いの長い田附さんも
    小澤さんがパンダが好きだってことを、
    ご存じなかったんですか。
    田附
    知らない。で、聞いたら、
    和歌山県のアドベンチャーワールドに
    何年も通いつめて、
    パンダの写真を撮りまくっていて、
    まったくの匿名で、
    インスタにアップし続けてたらしくて、
    その時点で、
    フォロワーが数万人とかいたんだよ。
    ──
    うわ、すごい。でも、匿名で。
    小澤
    はい、友だちを全員ブロックして。
    ──
    ブロック‥‥どうしてそこまで(笑)。
    小澤
    パンダのことは大好きですが、
    知り合いに知られるのは照れくさくて。

    そこで、名前を登録せずに、
    誰が上げてるかわかんないインスタを、
    ひたすら、やってたんです。
    田附
    それ、何年くらいやってたの?
    小澤
    ええっとね、アドベンチャーワールドに
    行きだしたのは、けっこう前なんだけど、
    インスタをはじめたのは、2015年の頭?
    ──
    アップしてらっしゃったのは、
    アドベンチャーワールドのパンダ、だけ?
    小澤
    だけです。
    ──
    それは、どうしてですか?
    小澤
    僕、どこのパンダであろうが、
    わけへだてなく大好きなんですけど、
    なかでも、
    アドベンチャーワールドのパンダが、
    好きなんだと思います。
    ──
    上野動物園とかにも、いますが‥‥。
    先日一般公開されて話題になったり。
    小澤
    神戸の市立王子動物園にも1頭、
    タンタンという
    胴長のかわいいパンダがいます。
    田附
    それってさ、何か、どっかが違うの?

    上野のパンダと神戸のパンダと、
    アドベンチャーワールドのパンダと。
    小澤
    パンダが生きてるってこと自体には、
    何にも変わりはないけど、
    個人的には、
    アドベンチャーワールドのパンダが、
    いちばん「自由」な感じがする。
    ──
    自由。
    小澤
    もちろん野生のパンダとは違いますし、
    実際、中国の山のなかで、
    パンダに出会った経験もないですけど、
    僕がイメージしているパンダらしさが、
    すごくあると思っているんです。
    ──
    アドベンチャーワールドのパンダには。
    田附
    たしかに俺、上野動物園のパンダしか
    見たことないんだけど、
    あそこって、ガラス越しに見るじゃん?

    だから、
    いまいち愛情が持てないって言うかさ。
    小澤
    僕は持てるけど‥‥。
    ──
    さすが、わけへだてない(笑)。
    田附
    いや、俺は、いまいち持てないんだよ。

    で、持てない理由は、
    たぶん、パンダとの間に、柵があって、
    ガラスがあってって‥‥つまりさ、
    ちょっとさみしい距離感があるでしょ。
    ──
    だから、いまいち感があると。
    小澤
    まあ結局、パンダはパンダでしかないし、
    パンダ自身には
    まったく関係ないことなんだけど、
    田附くんの言うように、
    上野で物足りなく思っちゃうとしたら、
    僕たちは、
    あのガラスに信用されてないんだなって、
    そう感じる、人間のほうの都合で。
    ──
    なるほど。
    小澤
    ただ、その点アドベンチャーワールドは、
    ガラスの仕切りとかないんですよ。

    エサ投げたら当たっちゃうかもしれない。
    でも、アドベンチャーワールドの、
    彼らのスタイルとしては、
    あくまで、見ている人を信じてるんです。
    田附
    うん。
    小澤
    「それ、やっちゃダメ!」じゃなくて、
    「それ、やんないでしょ」という姿勢。

    そういう雰囲気をアドベンでは感じる。
    ──
    で、そういう方針の動物園、
    テーマパークだからこそ、
    パンダも自由に見える、と。
    小澤
    何ていうんですかね、
    パンダの「箱入り娘感」がないんです。

    いい意味で「ほったらかし」というか、
    「あつかいが雑」‥‥というか。
    田附
    俺、この本が信じられると思ったのは、
    小澤くんが、
    ずっと和歌山に通ってたってことでね。
    ──
    ああ、田附さんご自身も、
    もう何年も「東北」に通ってますしね。
    田附
    だって、ヘタしたら、
    1ヶ月に2回とか行ってたわけでしょ?
    小澤
    行ってた。で、これは別に、
    他の本を批判するわけじゃないけど、
    3日くらい行けば、
    1冊ぶんの写真くらいは撮れるんですよ。

    だけど、
    この本は毎月通ってつくったんです。
    ──
    それは、どうしてですか?
    小澤
    まぁ、好きだっていうのもありますが、
    でも、終わってから思えば、
    少なくとも1年、
    春夏秋冬の季節の彼らの姿を見ないと、
    距離なんて縮まるわけないなあと。
    ──
    パンダとの距離を遠ざけるのも、
    近づけるのも、
    自分たち人間しだいってことですか。
    小澤
    そうなんでしょうね。

    アドベンでも上野でも神戸でもどこでも、
    パンダはパンダで、
    ありのまま、そこにいるだけですから。
    田附
    どれくらい撮ったの?
    小澤
    16万枚くらい。
    そこから、260枚ちょっと選んで‥‥。
    ──
    じゅ、16万!?
    小澤
    カメラの中田健司さんにお願いしたのは、
    とにかく、撮り漏れがないようにって。
    ムービーを撮るノリで、
    えんえん
    シャッターを押し続けてくださいって。

    彼は、その期待に、
    みごと応えてくれました。タフでしたね。
    ──
    その熱量、そのことを知らずに見たけど、
    ものすごく伝わってきました。
    小澤
    うれしいです。
    ──
    「何だ、このパンダ本、パンダすぎる!」
    と思いましたから。
    小澤
    でも、その熱量を、
    なぜか文字にはしたくなかったんです。

    パンダは日本語しゃべれないわけだし、
    パンダは自分を説明できないわけだし、
    ただただ「写真」だけで、
    誰かが、どこかで、見つけてくれたら
    いいなあって思ってつくりました。
    田附
    アツいでしょ。
    ──
    はい、最高にアツいです。

    <つづきます>

    2018-01-12 FRI

    © HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN