BUSINESS
オトナ語の謎。
オレ的にはアグリーできかねるんだよね。

■■■  第18回 オトナの基本用語:その18  ■■■

当コーナーへ寄せられるメールは、
現役ビジネスマンから送られているものが多く、
文体としてすでにオトナ語が駆使されている。
ほとんどのみなさんはおもしろがって
わざとそうしてくださっているのだと思うが、
それにしても見事である。
すらすらとタイピングされている様が、
読みながら目に浮かぶようである。

そんななか、最近、
学生さんからのメールも増えてきた。

そういった学生さんたちもメールのなかで
オトナ語を使ってくださっているのであるが、
おもしろいことに、そういったメールは
やはりどこか付け焼き刃な印象があるのである。
なんというか、日常に根ざしていないのだ。
もちろん、それは当たり前のことではあるけれど。

読みながらちょっとひっかかるようなメールは
たいてい、最後のほうになって
「学生なので、こういう使い方で
 いいのかどうかわかりません」
みたいなことが書いてある。
文章がおかしいとか、そういったことではなく、
どこかに照れがあったり迷いがあったりする。
推敲のあとが見えすぎたり、
時間のゆとりが感じられすぎたりする。
一方、現役の人からとどくメールは
文体自体が崩れていてもドライな決断を感じる。
そこがつまり、非常に「オトナ」である。
おもしろいものだなあと思う。

もちろん、学生さんたちより届くメールが
メールとして劣っているというわけではない。
むしろ新鮮味があるし、気遣いは伝わってくるし、
率直にいって、フレッシュでなかなかよろしい、
といった感じで好感がもてる。

けれど、そういうフレッシュな学生さんたちも
社会に出て何年かすると
「いつも楽しく拝読しております。
 さて、このたび私の周囲に発見した
 オトナ語を投稿させていただきます」
といったメールをすらすらタイプするようになるのだろう。
どちらが正しいという話ではなく
純粋に事実として興味深く思う。

マナー用語などと違い、おおむねの「オトナ語」は
学校の授業や研修などで学ぶようなものではない。
実際の社会に過ごすうち皮膚より吸収さるるものである。
好むと好まざるにかかわらず、
いつの間にか人は「オトナ語」を学ぶ。
当然のことながら、それは悲しいことではない。

            〜おしまい〜

……終わってどうする。

全国のオフィスでがんばる諸先輩方、
お世話になっております。
たとえあなたと私が初対面でも
お世話になっております。
たとえあなたが元気いっぱいでも
お疲れさまです。
たとえあなたと会ったのが深夜でも
おはようございます。
たとえいまが深夜の2時でも
お先に失礼します。
どなた様か存じませんが
お世話様です。

社会に飛び交う謎めいたオトナ語を紹介する当コーナー、
寿退社した主婦のみなさんからも
アツい支持を受けていることで有名です。

合い言葉は「なるはや? 午後イチ? ペンディング?」
謎めいたオトナ語を叡智の光で照らせ。
よどんだ第三会議室の空気を潤す一陣の風、
それがすなわち「オトナ語の謎」!
ミッションの費用対効果を裏紙にまとめつつ、
五月雨式にエクスキューズしながら
手前どものにんげんが参上いたします。
兵隊と駒の最大公約数をとりながら、
ニアリーイコール、おしりまでご笑覧くださいませ。
あの人に、もいちど会わせてちょうだいませませ。


動きが鈍い
(提供者:ひでぽん)
■春先のイワナは動きが鈍い。
 否、そういう「動き」ではない。
 言葉の指す先がなんであるかというと、
 これがなんと数字である。
 新商品の売れ行きなどを見て、論じる言葉である。
 「思ったより、動きが鈍いですねえ」

出る
(提供者:P444)
■春先のイワナは背ビレから怪音波を出している。
 否、そういう「出る」ではないし、
 そもそもイワナは怪音波など出してはいない。
 言葉の指す先がなんであるかというと。
 これがなんと商品である。
 接客する店員がディスプレイした商品を
 いやみのないように紹介しながら言う言葉である。
 「こちらは先週入ったものですけど、よく出てますよー」

ドラスティック
(提供者:はる坊)
■激しく、徹底的に、激烈な、という様子を表す。
 なんでカタカナなのかという疑問は例によってタブー。
 なにぶん、字面が字面であるため、
 似たような言葉と誤解する上司が多いのが困りもの。
 「これによりドラスティックな市場変化が見込めるかと」
 「つまり、大逆転劇が待っているということだな」
 「いえ、そうではなく、ドラスティックな市場変化です」
 「要するに、家庭内の市場変化か?」
 「いえ、そうではなく……」

リスクヘッジ
(提供者:みどり)
■もともとは為替や株式の取引に使う言葉であるらしく、
 すげー損したらたいへんだから、
 そうならないようにうまくやっておくこと。危険回避。
 プロジェクトを進めるにあたって
 「失敗したらたいへんだからこうしておきます」
 などと言うと信頼を失うが
 「リスクヘッジとして3つの策を用意しています」
 などと言えば先方も安心である。

えこうぎょう
(提供者:ひらや、ふち、おまめ)
■電話などで社名を先方へ伝える場合、
 発音だけでは誤解が起こりやすい。
 たとえば「オトナこうぎょう」と言う場合、
 「工業」なのか「興業」なのかわからない。
 そこで、「えこうぎょうのほうの工業です」
 などと言う。まさに先人の知恵であるが、
 以前説明した「まえかぶ」などと組み合わせると
 新入社員には理解不能の呪文となる。
 「社名をちょうだいできますでしょうか?」
 「アトカブデオトナコウギョウ、
  コウギョウハエコウギョウノホウデス」
 同様に「科学」と「化学」を区別するための
 「ばけがく(化け学)」もある。

全員野球
(提供者:もっち)
■バッチコーイ! 野球はチームワークだ!
 会社だってチームワークだ! 全員野球だ!
 「ここはひとつ、全員野球で乗り切ろう!」
 「全員野球で臨むことになるからそのつもりで!」
 上司のテンションは高いが、
 部下が全員野球ファンだと思ったら大間違いである。
 野球ネタを連発する上司って多そうだなあ。

〜しておるのですが
(提供者:Jamy)
■「〜しております」と「〜しているのですが」が
 微妙に混じったこの言葉は文法的にどうなのか。
 また、こういう妙な言い回しって、
 ほかの人にすぐうつるんだよな。

島流し
(提供者:テフロー)
■オトナは時代劇めいた言い回しも大好きだ。
 左遷、すなわち「島流し」だ。
 「二課のあいつ、どうやら
  渡辺本部長の逆鱗に触れて島流しらしいぞ」
 そう言う上司の去年のベストワン映画は
 『たそがれ清兵衛』。

都落ち
(提供者:テフロー)
■オトナは時代劇めいた言い回しが大好きなんだってば。
 本社から左遷させられた人、すなわち「都落ち」だ。
 「あいつは都落ちだから、学歴は高いはずだぞ」
 そう言う上司が女優について話すときの口癖は
 「『たそがれ清兵衛』の宮沢りえはよかったなー」

腰巾着
(提供者:テフロー)
■オトナは時代劇めいた言い回しが染みついているのだ。
 有力者の取り巻き、すなわち「腰巾着」だ。
 「あいつは渡辺本部長の腰巾着だからな」
 そう言う上司が映画のウンチクを語る。
 「『たそがれ清兵衛』の原作は短編なんだけどな」

太鼓持ち
(提供者:あけがた)
■オトナは時代劇めいた言い回しを死守するのだ。
 有力者の取り巻き、ときには「太鼓持ち」だ。
 「あいつは渡辺本部長の太鼓持ちだからな」
 そう言う上司のウンチクが続いている。
 「『たそがれ清兵衛』のほかに、
  『だんまり弥助』とか『うらなり与右衛門』とか
  シリーズになっていてだな……」 

かばん持ち
(提供者:だいち)
■オトナは時代劇めいた、あ、これは時代劇じゃないか。
 有力者の取り巻き、あるいは上司の付き添い、
 称して「かばん持ち」である。
 「あいつも最初は渡辺本部長のかばん持ちだったのにな」
 そう言う上司が泥酔して藤沢周平を読めと言っている。
 「『蝉しぐれ』は読んだのか? ダメだ!
  『蝉しぐれ』を読んでないやつはダメだ!
  『用心棒日月抄』はどうだ? 読んでない?!
  ダメだ! おまえはぜんぜんダメだ!」

定時
(提供者:ほなみ)
■業務時間の始まりと終わりの時刻を指すが、
 終わりを指すことのほうが多いようである。
 「定時に帰れることなんかほとんどないよ」

定時ダッシュ
(提供者:モ)
■業務終了時刻の訪れとともにダッシュで帰る様。
 「今日は約束あるから、定時ダッシュなの」
 ちなみに定時退社を「定退」と呼ぶこともあるらしい。

ベルサッサ
(提供者:kitano、ぢょん、ゲン・リョウチュウ)
■そして、終業のベルと同時にサッサと帰ることを
 「ベルサッサ」と呼ぶとか呼ばないとか?!
 こりゃローカルだろうと思ってたら
 複数の投稿があったために掲載。
 ちなみにしばしば「ベルサ」と略されるとか。

……いそがしい?
(提供者:マキコ)
■ん? これのどこがオトナ語? 
 答えはそのシチュエーションに因る。
 オトナは、エレベーターのなかで
 半端な知り合いとふたりきりになったとき、
 その重い空気を打ち破るために
 四十八通りもの切り出しかたを身につけているのだ!
 エレベーターのドアが閉まり、しばしの沈黙。
 「……いそがしい?」
 見事である。ほかに「……どう?」や、
 「……いまなにやってんだっけ?」などが知られる。

お噂はかねがね。
(提供者:Cazy3)
■同僚の元上司や、元同僚、家族、
 あるいは、遠隔地の支社の人などと
 初めて顔を合わせたときなどに使う。
 なぜか「かねがね。」で終わってしまうことが多く、
 「うかがっております」的な言葉が省略される。
 省略の理由は不明だが、ひょっとしたら、
 「お噂をかねがね」うかがっていない場合があるからか?

いつもお電話では。
(提供者:Cazy3)
■電話でしか話したことがない人と
 初めて顔を会わせたときなどに使う。
 なぜか「お電話では。」で終わってしまうことが多く、
 「やり取りさせていただいてますが」
 といった言葉が省略されている。
 省略の理由は不明だが、ひょっとしたら、
 「いつもお電話で」やり取りしてる人だよな?
 という感じで自信がないからなのかも?

アマゾネス
(提供者:エミール)
■女性ばかりの会社などを指して
 男性社員が言いがちな言葉であるが、
 発想が中学生レベルであるといえる。
 「女子バスケ部のアマゾネス軍団がさ〜」
 というのとほとんど近い。
 いつの時代も、元気な女子が集まれば、
 それは男にとって「アマゾネス」。
 ガキの頃は、バカだったなぁ


本日はこのあたりで失礼させていただきます。
新しい一週間の始まりです。
徐々に暑くなってまいりましたが、
健康第一でがんばりましょう。
例によって投稿のほうもお待ちしております。
「こんなんどう?」という感じで
自由に気軽にメールしてください。
よろしくお願いいたします!

2003-07-07-MON

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