あの会社のお仕事。TOTO株式会社 篇

外国の人に褒められてうれしいものに、
日本のトイレがあると思います。
きれいで、快適で、デザインもよくて、
勝手に水まで流れたりして。
今や「くつろぎの空間」ですよね。
でも、そこって、ほんの何十年か前までは、
「暗い・汚い・寒い」の代名詞だった場所。
日本のトイレは、いつからこうなった?
このおもてなし感覚、日本独自なの?
仲畑貴志さんの名コピー
「おしりだって、洗ってほしい。」で有名な
「ウォシュレット」をはじめ、
さまざまなイノベーションを起こしてきた
TOTO株式会社の麻生泰一常務に、
トイレのお話、いろいろうかがってきました。
土を焼いてつくる便器が、
職人さんの手先で仕上げられていくところも、
うわあ、すごいなあって思います。
全部で5回、担当は「ほぼ日」奥野です。

>麻生泰一さんのプロフィール

第5回 必要とされるときが、必ず来る。
──
トイレの洗浄エンジンの構造っていうのは、
コンピュータかなんかで、
あれこれシュミレートするんですか?
麻生
ええ、いかに効率的に流すか、
その基本設計の部分はコンピュータですね。

でも、実験をしていると、
どうしても現実と計算が違ってくることが、
出てくるんです。
──
パソコンの画面と、実際の場面とでは。
麻生
その場合は人間が微妙にチューニングして、
結果をコンピュータに返してます。
──
職人技とテクノロジーとを、組み合わせて。
パーツの継ぎ目は、職人の手で丁寧になぞり、接着していく。
麻生
われわれの産業って、歴史をさかのぼれば、
紀元前からやっとるわけで、
熟練職人の手業による部分も大きいですし、
ローテクな会社に見えますが、
使わせていただいているのは、
東工大のツバメ(TSUBAME)という‥‥。
──
わ、あのすごいコンピュータ?
便器は、スパコンでつくられていましたか!
麻生
たかが便器、されど便器なんです。
──
でも、スーパーコンピュータで
水流までシュミレートしちゃうなんてのは、
ここ最近のことですよね?
麻生
そう。それまでは、ぜんぶ職人の手づくり。

どこにも、神さまみたいな職人がおってね、
調整ひとつにしても、
中途半端なパソコンやったら、
神さまの勘のほうがぜんぜん当たるんです。
──
なるほど。
麻生
それに、何と言いますか、
基本設計を大きく変更するときには
コンピュータじゃダメで、
やっぱり、人がやらんとしゃあないですわ。
──
そうなんですか。
麻生
AIといっても、まだまだ、
人間の発想の転換力には、かなわないです。
──
1年中、トイレの中を見つめているような、
そういう人の発想力には。
麻生
あるていどまでカタチが決まっとるのを
ブラッシュアップしていくには、
コンピュータはとても役に立つんですが、
何かを突破しようとするときの、
人間の発想力というのは絶対に必要ですね。
──
それまでと、まったく違う角度や発想から
トイレをつくりたいってときは。
麻生
とにかくガツンと変えたいのなら、人が要る。
あるていどカタチになったら、
そこからコンピュータで最適解を出してやる。
──
役割分担というか、適材適所というか。
麻生
そうそう、なかなか奥が深いんですわ。
トイレづくりちゅうのは。
──
ふだん、麻生さんがおトイレに入ったときに、
TOTOさんじゃない場合が、
当然、あるわけじゃないですか。日々。
麻生
ありますね。ええ。
──
そういう場合、
何か「学び」があったりするんですか?
麻生
他社の便器に座りながらね。ありますよ。

フィールドでの学び、ま、あるんだけど、
ただね、申しわけないんだけど、
まずは、いいところより、
悪いとこのほうが気になっちゃいますね。
──
あ、ご自分のところとの比較で。
麻生
基本的に、日本で展開しているトイレは
だいたい頭に入ってますから
「こういうつくりだけど、
 なるほど、座ってみたらやっぱりだな」
みたいな感想は、多いです。
腰掛け便器の使い方ラベル。昔のトイレに貼ってあったあった!
──
TOTOさんは創立100年とのことですが、
この先、さらに100年200年、
会社を続けていくなかで、
トイレも
さらなる進化を遂げていくのでしょうか?
麻生
進化していかなきゃいけないでしょうね。
──
日本のトイレの、いたれりつくせり感を
享受している者としては、
たとえば、自分が開発しろと言われたら、
これ以上どこを‥‥と思ってしまうので。
麻生
ひとつには、やはり、快適性でしょうね。
そこは、飽くなき追求ですよ。

「ウォシュレット」が公共化していったり、
デザインを洗練させていったり、
そういう方向は、もちろん、目指しますよ。
──
ええ。
麻生
目指すんですけど、トイレの快適性には、
まだまだ進化の余地はあると思ってます。
──
そうですか。
麻生
トイレというのは、詰まっても不快だし、
汚れても不快、
おしりが冷たくてもイヤなわけですよね。
──
はい。
麻生
いま、日本のトイレの最低ラインって、
どんどん高くなってきていますけど、
仮にね、これまでにないような
素晴らしい洗浄感の「ウォシュレット」を
開発できたとしたら、
こんどはそこが最低ラインになります。
──
で、それに慣れちゃうと‥‥。
麻生
もうね、ほかの洗浄便座なんかじゃあ、
おもしろくなくなるでしょう。

身体をきれいに保ちたいっていうのは、
人間の根源的な欲求ですから。
──
はい、汚れていてもいいやという人は、
ふつうは、いないですよね。
麻生
ですから、
もっと清潔に、もっと快適に‥‥という
わたしたちの追求は、
これからもずっと、続いていくでしょう。
──
TOTOさんの「ウォシュレット」では、
おしりへ向けて飛んでくる水の玉の中に
空気を混ぜたりとか、
なさっておられますけど、あれも‥‥。
麻生
ひとつには節水のためですが、
単純に節水だけをしようと思ったら、
「ウォシュレット」の穴の径を
ちいさくすれば、節水になるんです。

でも、それじゃ「浴び心地」が悪い。
──
つまり、快適性が損なわれる。
麻生
そこで「ウォシュレット」の水の出方を
「水玉連射方式」にして、
水を間引いて節水し、
さらに水の玉の中に空気を混ぜてやって、
一粒一粒の水玉を3割ふくらませて、
浴び心地のたっぷり感を向上させてます。

そうやって、
節水しつつ浴び心地をアップさせてます。
──
どんなに節水できたとしても、
快適性を損なうようなことはしない、と。
麻生
だって、現に、海外かどこかに行かれて、
「ウォシュレット」のないトイレばかりだと、
不快感がぬぐえなくて、
はやく日本に帰りたいなって思いません?
──
思います。おしりだけでも。
麻生
でしょ? ほんとですよ。
──
本日、麻生さんをはじめ
工場のみなさんにもお話をうかがって、
自社の製品や技術に対して、
ゆるぎない自信や誇りをお持ちで、
そのことが、
とっても、すばらしいなと思いました。

聞いてて気持ちよくなるといいますか。
麻生
やっぱり、今の時代のトイレを見ると、
デザインが良くて、清潔で、快適で、
居心地が良くて‥‥という方向ですね。

当然わたしたちも、トイレというのは、
そういう空間であるべきと思ってます。
──
はい。
麻生
であるとするならば、
われわれの活躍するところは必ずある。

そう思って、やってきました。
必要とされるときは必ず来る‥‥とね。
──
赤字だった40年あまり、
腰掛け便器をつくり続けてこられたときも、
その気持ちだったんでしょうね。
麻生
そうだと思います。

そうやって時間をかけてでも、
理念や理想を追い求め実現していくのが、
TOTOという会社の、
他にないところだろうなと思っています。
<終わります>
※「ウォシュレット」はTOTO株式会社の登録商標です。
2017-12-04-MON