あの会社のお仕事。TOTO株式会社 篇

外国の人に褒められてうれしいものに、
日本のトイレがあると思います。
きれいで、快適で、デザインもよくて、
勝手に水まで流れたりして。
今や「くつろぎの空間」ですよね。
でも、そこって、ほんの何十年か前までは、
「暗い・汚い・寒い」の代名詞だった場所。
日本のトイレは、いつからこうなった?
このおもてなし感覚、日本独自なの?
仲畑貴志さんの名コピー
「おしりだって、洗ってほしい。」で有名な
「ウォシュレット」をはじめ、
さまざまなイノベーションを起こしてきた
TOTO株式会社の麻生泰一常務に、
トイレのお話、いろいろうかがってきました。
土を焼いてつくる便器が、
職人さんの手先で仕上げられていくところも、
うわあ、すごいなあって思います。
全部で5回、担当は「ほぼ日」奥野です。

>麻生泰一さんのプロフィール

第4回 美しいものが、つくりたい。
──
いわゆる「便器の穴」をはじめ、
汚物を洗浄水で流すシステム全体のことを、
TOTOさんでは「洗浄エンジン」と。
麻生
そうです。洗浄エンジン。格好いいでしょ?
こちらが、トイレの洗浄エンジンの部分。ハイテクノロジーと熟練の手業の結晶。
──
はい、格好いいです。格好いいですし、
まさにそのとおりだと思いました。

いかに少ない水で効率よく流すために、
穴の形状ですとか、水の流し方を、
すごく細かく工夫してらっしゃるから。
麻生
自動車で言えば低燃費のエンジンです。
──
そこの能力を磨き込んでこられたのは、
節水への要求が高かったから、ですか。
麻生
そうです、そのとおりです。

1976年だったかな、
はじめて節水便器13リットルを出しました。
それまで「大」の場合は、
20リットルの水を流していたんですけどね。
──
それが、今では‥‥。
麻生
はい、標準で「4.8リットル」ですね。
少ないものでは
3.8リットルという便器も出ています。
──
すごい、20リットルの時代に比べたら、
5分の1以下じゃないですか。
麻生
そう、節水が社会問題になってきたのは、
1990年代に入ってからです。

アメリカで施行された法律によって、
便器に「6リットル規制」が入ったんです。
──
6リットルじゃなきゃダメ、と?
麻生
はい。でもじつは、規制が入る前から、
TOTOでは
6リットル便器を投入していたんです。

で、規制が入って、
各社6リットル便器をつくったわけですが、
なかには、しっかり流れないものも、
けっこうあったようです。
──
6リットルだと、水の量が少なすぎて。
麻生
でも、そこで、TOTOの6リットル便器は
しっかりと洗い流せたので、
アメリカで非常に高い信頼を得たんですね。
──
おお、なるほど。
麻生
すると今度は、水不足のカリフォルニアの
アーノルド・シュワルツネッガー知事、
ご存知シュワちゃん知事が、
「新規設置は、さらに20%節水のタイプ、
 つまり4.8リットルでないとダメよ」
と、言いはじめたんです。
──
じゃ、そのシュワちゃん基準にも合わせて。
麻生
そう、洗浄水を水平方向に撃ったりしてね、
汚れの下に
水を滑り込ませるような表面加工をして
汚れを落としやすくしたり、
死に水を少なくしたり、
さまざまな工夫をして、節水してきました。
──
そのように、時代の要請に合わせて、
節水のレベルを高めてこられた、と。
麻生
便器は、おもしろいですよ。

いろんな水流の試験をするわけですけど、
ぼくなんかね、
便器の中をクールクル回る水の流れをね、
いつまでも見てられますからね。
──
おもしろいんですか。
麻生
おもしろいし、美しいんです。
で、結局、美しい水流は洗浄力も高い。
──
美しい水が「いちばん持っていく」と。
麻生
持っていきます。上品にね。
で、上品に持っていくには美学が要る。
──
汚物を流す水流にも‥‥美学が。
麻生
ひいては便器の、エンジンの構造にもね。

つまり「ザッバーン!」みたいな、
力まかせに押し流すみたいな水流じゃあ、
あまりに下品だし、
うまいこと流れていかないんです。
──
へぇー、おもしろいです。
麻生
そこで便器の形状や水の撃ち方を工夫し、
水の流れに
縦旋回と横旋回を同時に起こしたりして、
できるだけ少ない水で、
エレガントに持っていく水流をつくる。

そうやってね、
最も効率のよい洗浄エンジンを目指して。
──
日夜、研究されていると。
麻生
そうです。
──
水の流れも「機能美」というところが、
おもしろいですね。

理にかなった水の流れは、
麻生さんの目に「美」を感じさせると。
麻生
ぼくだけじゃなくてね、
たぶん見てもらったらわかると思います。

で、もう少し突っ込んだ話をしますとね、
便器には3つの機能があって、
それが
「洗浄能力、排出能力、搬送能力」です。
──
ははあ。
麻生
洗浄能力は、言うまでもなく、
ボウルの中の汚れをしっかり落とす能力で、
水の撃ち方を工夫したり、
表面をガラス加工して汚れを落ちやすくしたり。

排出能力もわかるでしょ、便器から押し出す力。
──
ええ、そこまでは何となくイメージができます。
が、搬送能力というのは?
麻生
たとえばビルの配管というのは
われわれのコントロール外なんですけど、
そこに詰まりが生じても、
「トイレが詰まった、なんとかしてくれ」
と、うちに連絡が来るんです。

いまのビルはデザイン重視で、
ものすごく配管を引っ張り回したりして、
そんな迷路の中をね、
下水道へとつながる縦管まで、
きちんと汚物を運ばなきゃならんのです。
──
ビルの配管をうまく運んでいく仕事まで、
トイレ側でなんとかしようと?

TOTOさんの責任範囲ではないのに。
麻生
そうそう、がんばっとるわけですよ。

ややこしい説明は飛ばしますけどね、
搬送能力と節水とは矛盾しますから、
いかに搬送能力をキープしながら
節水を実現していくか、
そのために、
一年中、便器の中を見つめとる人間がね、
うちにはワンサカいるんです。
──
トイレを、じーっと見てらっしゃる人が。
麻生さんのように。
麻生
だってね、美しさと言ったら、
水の流れもそうですけど、
陶器そのものもね、本当に美しいんです。

みなさんから見れば、
まあ、ただの便器かもしれませんけど、
われわれからしたら、
ひとつひとつが、美しい芸術品ですよ。
見てて飽きないんです。
──
美しさについては、はい、そう思います。

さきほど、窯から出てきた陶器の便器を、
たくさん拝見したのですが、
つるつるぴかぴかしていて、
何でしょう、まるで
むきたてのゆでたまごかのような感じで。
麻生
でしょう?
窯から出てきたばかりの便器。本当に、きれいでつるつる。
──
便器に流す水の美しさと、
陶器そのものの美しさと。
麻生
だから、わたしたちは、
大きく言えばね、
美しいものがつくりたいんでしょうね。
──
デザインにしても、水流にしても。
麻生
そう。
ウットリするほど美しい便器を‥‥ね。
TOTOの「ネオレストNX」。いま、便器ってこんなに美しいのかと思いました。
<続きます>
※「ウォシュレット」はTOTO株式会社の登録商標です。
2017-12-03-SUN