第5回 プニョプニョピンの田中さん。


今日からは、コクヨでさまざまな文具を開発してきた
名物社員・田中茂一さんにお聞きします。
まずは、ユニバーサルデザインにも指定されている
とある「画びょう」の開発秘話から。
あんな小さなモノにも、苦労と工夫が詰まってました。
ほぼ日 田中さんは、コクヨで、これまでいろんな商品を
開発されてきた、
たいへんおもしろい方だと、お伺いしてきました。
田中 あの‥‥自分がおもしろいかどうかは
わからないのですが、
商品は、いろいろとつくっております(笑)。

ほぼ日 文房具ひとすじですか?
田中 いや、入社から7年間は
オフィス家具の開発をやっていたんですよ。

で、8年目から文具の開発に。
ほぼ日 それからは、ずっと文具で?
田中 ええ、それからはずっと文具で。
ほぼ日 あの、僕、ちょっと話がズレますけど、
くるくるメカを使ってたんです。
田中 ああ、はい。子ども向け学習デスクの。

ほぼ日 小学校に上がるまえに買ってもらったんですが、
思えば、そのときから
コクヨさんにはお世話になっていたんだなあと。
田中 あれは、テレビコマーシャルもよくて。
ほぼ日 ええ、ええ、横山やすしさんが

正味のはなし、コクヨ!
くるくるメカは、コクヨ!


‥‥みたいなセリフを
おっしゃっていた記憶があります。
田中 その他にも、武田鉄矢さんバージョンとか、
桂文珍さんバージョンとかもありましたね。
ほぼ日 ありました、ありました!
田中 当時、かなり人気だったみたいですよね。
ほぼ日 いま、You Tube でも見れるんですよ!
「くるくるメカ」と検索したら‥‥。
田中 ‥‥はぁ、あの、ぼくが就職活動したときにも
「なんだか親しみのある会社やな」と思って
志望した覚えがあるんですけど、
あの「くるくるメカ」のCMは、大きかったと思います。

コクヨの、そういうイメージをつくるのに。
ほぼ日 そうですか、ははぁ、なるほど!
田中 で、そろそろ、僕のつくった文具の話を
させていただきますけれども。
ほぼ日 あ、すみません「くるくるメカ」に夢中で(笑)。
田中 えーと、僕が開発した文具のなかで
わりと取材していただくことが多いのは、この画びょう。

「プニョプニョピン」というんですが。


安全に抜き差しできる画びょう・プニョプニョピン。
ほぼ日 ああー、知ってます、知ってます!
プニョプニョピンっていうんですか、これ。
田中 ゴム製のリングでカバーされていて、針が露出しておらず、
床に落ちたときなどにも、
とがっている針先が、上を向くことはありません。

ほぼ日 つまり、安全な画びょうだということですね。
田中 カベに差したときには、このような状態。

ほぼ日 あ、この姿も、見たことあります。
田中 ごらんのようにリング部分がつぶれますので、
引き抜くときにも、つまみやすいようになるんです。
ほぼ日 なるほど‥‥安全なだけでなく、便利でもあると。
なぜ、こういう画びょうを開発しようと?
田中 画びょうって、みなさん、子どものころから
何となくのイメージをお持ちだと思うんです。
ほぼ日 針に触ったら痛いとか、刺さっちゃったとか。
田中 そう。そういう、危なっかしいイメージを
改善したいなと思って、とりくみ始めたんです。
ほぼ日 ユニバーサルデザインでもあるんですよね。
田中 コンセプトは
刺したいときだけ針が出ればいい画びょう

ま、最初のうちは、
針が露出してなければいいんじゃないかと
単純に考えて、
いろんなカタチを考えたんですが‥‥。
ほぼ日 はー‥‥。このスケッチが
そのときのアイデアですか?

田中 ええ、これは、針がくるんと回転するアイディア。
ほぼ日 針が、中にしまえるんですね。
田中 刺すときは、まず針先をカベに引っかけて、
くるっとまわして針を出し、ぐっと押し込む。

で、抜くときも、
テコの原理が効きますから、簡単に抜ける。
ほぼ日 これは、商品化は‥‥?
田中 しませんでした。
ほぼ日 ははあ。こっちの丸形のは、別案ですか?


田中 そう、これは2本針のタイプですね。

カベに押し付けながら画びょうじたいをまわすと、
二股の針が出てきて、刺さるんです。
で、抜くときは、反対にまわせば、針が引っ込む。
ほぼ日 つまり、カベに刺さってないときは
針が引っ込んでいる状態、ということですね。

なるほど。これも商品化は‥‥?
田中 しませんでした。
ほぼ日 あの、そういう試行錯誤のなかから生まれたのが
さっきの「プニョプニョピン」なわけですけど‥‥。
田中 そうです。
ほぼ日 これら商品化されなかったアイディアとは、
どこが、ちがったんでしょうか。
田中 まず「画びょう」だっていうことが
直感的に、わからない
ですよね。

その、ボツになった2案の場合には。
ほぼ日 ああ、たしかに!
でも、わからないと‥‥何がダメですか。
田中 まず売れないでしょうね。
ほぼ日 あ、そうか。
田中 それに、危ないと思うんですよ。

いくら針が隠れているからとはいえ、
画びょうであることが、直感的にわからないと。

ほぼ日 ああー‥‥危ないからといって
針を見えなくしちゃったら、逆に危ないんだ。
田中 みなさん、画びょうのかたちって
「だいたい、こんなもんだ」というイメージを
持っていますでしょう。
ほぼ日 ええ、もう1種類しか知らないですよね。
田中 それを、極端にちがったかたちにしてしまうと
これは針でカベに留めるものだし、
刺さって危ないものだと、警戒できませんよね。
ほぼ日 つまり‥‥テコの原理で抜きやすいとか、
機能的に優れていても、
見ためから、本来の「刺す」という機能が
イメージできないと‥‥ダメだと。

売れ行きとしても、製品としても。
田中 その点「プニョプニョピン」のアイディアは
「何をする道具か」が、すぐにわかる。
ほぼ日 たしかに、そうです。
田中 画びょうであるという「見ため」はそのままで、
ゴム製のカバーをつけ、安全性を高めました。
ほぼ日 さらに「抜きやすい」という便利さも
プラスして。
田中 僕、大学が機械系の出身だったんで、
個人的には、
ボツ案のほうが、好きなんですよ。

堅くて、角張ってて、ギミックがあって。
ほぼ日 へぇー‥‥。
田中 逆に、採用案みたいにフニャフニャしたものは
あんまり信用できないというかね。
ほぼ日 ええ、なるほど。おもしろいですねぇ(笑)。
田中 でも、スケッチの段階では、
ボツ案がいいって言ってくれる人もいたんですが、
実際、サンプルを作ってみると
圧倒的に「プニョプニョピン」のほうが
評価が高かったんです。
ほぼ日 はぁ。
田中 モノになったときの説得力がちがいました。

ほぼ日 なるほど。
田中 その「プニョプニョピン」という名前もね、
積極的な理由があって、つけているんです。
ほぼ日 プニョプニョしてるから‥‥じゃないんですか?
田中 いや‥‥プニョプニョしてるからなんですが、
そのプニョプニョしてるんだということを、
あらかじめ、
わかってもらいたかったから、つけたんです。
ほぼ日 なるほど、それも、さっきのお話と同じですね。

従来の画びょうのイメージって
ぜんぜんプニョプニョしていない‥‥というか、
まったく、その逆ですもんね。
田中 お店で売ってるときには
プラスチックのケースに入っていますから、
まさか、こんなにプニョプニョしてるとは
思わないかもしれない。
ほぼ日 だから「プニョプニョ」を、名前につけたと。
田中 ええ、それまでのコクヨ製品は、
わりと質実剛健なネーミングが多かったんですが、
あえて「プニョプニョ」と。
ほぼ日 そうですか、あえて「プニョプニョ」と。

ははー‥‥さっきから、お互いに
プニョプニョ、プニョプニョと(笑)。
田中 あはははは、そうですねぇ。プニョプニョと(笑)。
  <つづきます>
2009-05-13-WED
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