ルールを原始的に。 ルディー和子さんと、お金と性と消費の話。
 
第4回 作り手と消費者の間を留める堰。
ルディー 日本の製造業って、極めて職人芸で、
だんだん、だんだん極めていきますよね。
それはほんとにすばらしいことだと思うんですけど、
やっぱり、その一方で、
ブランド作りというのを、
ずっとしていかなきゃならないはずで。
糸井 うん。
ルディー たとえばパナソニックや、
ソニーのテレビだとして、
消費者の理解できる技術っていうのは、
もうだいたい、ここまで来たら
終わりだというレベルってあるじゃないですか。
それ以上はやっぱりブランドとか、
ストーリーとか、
そういうのがやっぱり
想像力をかきたてるわけであると。
いくら作ってる本人が、
技術的に、いい、いい、って言ったって、
消費者にわからなければ
しょうがないじゃないか。
そういう世界的消費者調査があったんですけど、
ほんとにそうだと思う。
糸井 そうですよね。
消費者が社会を動かすっていうことが、
理屈ではもう何年も前から言われています。
学者はさんざん言ってますよね、
消費社会って。
ルディー はい。
糸井 なのに、それを信じてる人が
ぼくは少ないんだと思うんですよ。
ルディー で、企業は「顧客寄り」とか、
「顧客志向」って言うんですけど、
一体何を顧客志向って言ってるのか
ぜんぜんわからないんですよね。
糸井 そう。作ってる側には、
「ホントに、俺は欲しいのか?」
っていう疑問さえも、ないですよね。
だけどもうちょっとでね、
作り手と消費者の間を留めてる堰がね、
壊れてくれるような気がして。
壊れないうちに、
ぼくらが蓋開けてみたい、
って気がするんだけれど、
なかなか難しいですね。
ルディー いや、わたしはそこのレベルまで
ぜんぜんいってないです(笑)。
糸井 ルディーさんは
エスティ ローダーにいるときには、
そうやって研究なさってることを
実践で試せたわけですよね。
いまは、話したり教えたりする立場ですが、
試す機会っていうのはあるんですか。
「ほらね」っていう。
ルディー あんまりないんですけど、
例えばプロジェクトの人たちに
話をしてほしいっていうときに、
その人の声を聞きますよね。
そのときに、
「ああそうなんだ、
 こういうことで困ってるんだ」と。
それから、教えてるのも、
早稲田は、社会人のMBAなので、
みなさん社会人として、いろいろ問題を抱えている。
そういう人たちの声を聞いたりとか、
現場を感じ取るなかで、
「ほらね」を共有しているかもしれません。
コミュニケーションの中から知る、
という感じですね。
糸井 自分のことで言うと、
ぼくらはすごく小さな規模だけど、
全部実践できちゃう場所にいるんです。
ルディー はい。
糸井 「あのときは、普段言ってることと、
 ちがうことをやってたな」
っていうものは、必ず失敗するんですよ。
作り手都合で考えたことっていうのが、
もう数字やら反応に、ほんとによく現れる。
しょっちゅう「作り手都合で考えるな」
って言ってるのに、
やっちゃうんだよね、って後で笑うんですけど。
だから、その中で、さらに大胆な実験も
できるんじゃないかとか。
そういうことを、いまは、やりはじめてます。
リスクがあってやることだから、
零細企業としては、大変なんですけど。
ルディー はい。
糸井 でもまぁ、逆に言えば小さい企業だから
たかが知れてるんで、
試してるのはおもしろいですよ。
ルディー そうだと思います。
糸井 アメリカにいらしたその短い期間っていうのは、
どんなことをなさっていたんですか。
ルディー 大学の経理部で働いてました(笑)。
糸井 へぇ!
ルディー 結婚したてのときだったので、
英語もあまりよくわからなくて、
仕事もないし、困ったなと思っていたんです。
亡くなった主人が大学院に行くので、
私も同じ大学の職員の試験を受けたら
いままでの受験生のなかで、いちばん算数が良かったと
採用になりました。
日本人って算数すごいって(笑)。
それだけで経理部に入って、
大学の寄付金なんかの
経理をやってました。
糸井 はははは。
特に日本で得意だったわけじゃ?
数学の勉強をなさっていたんですか。
ルディー 算数は、まぁまぁですけど。
それこそ、ほんとに暗算が
上手だったんだと思うんですよね。
幾何とか、全然わかりませんから。
糸井 ははは。
もともと何の勉強なさってたんですか。
ルディー 最初はドイツ文学なんですよ。
いやいやもう、脳天気な学生で。
糸井 全然ちがうんだ!
ルディー それで、日本に帰ってきて働きはじめてから、
やっぱり、資格がないといけないと思って、
大学に行って経済をやって。
糸井 おもしろーい。
生きるために身につけたことなんですか、
あとで勉強したことは。
ルディー そうですね。働くためですね。
働きはじめて、これじゃ、
ちょっと上に上がれないなと。
糸井 ちょっとおもしろいですね、その辺。
興味のあることをやるのが好きで、
もう一個は食うために働かなきゃなんないし。
この二本立てですね。
ルディー ただ、マーケティングはやっぱり好きです。
買い物が好きな消費者なんです。
ほんとに目一杯消費者だったので、
マーケティングは人間研究って感じで、
とにかく好きだった。
それに、当時のことですから、
女性で仕事である程度、っていうと、
マーケティングがいちばんよかったんです。
エスティ ローダーの試験に通れたのは、
やっぱり、女性だったからだと思います。
化粧品会社ですから(笑)。
それでもう、マーケティング一筋、
っていうふうになったんですけど。
糸井 いや、そのこと自体がおもしろい。
ご主人はどんなことをなさっていたんだろう。
ルディー もともとは、人類学です。
ほんとは、大学で博士号を取ろう、
ってぐらいだったんですけど、
日本に来ていろいろやってたら、
仕事がおもしろいからといって、
自分で会社作ったりして。
たぶんそのとき、主人から人類学を
聞きかじっていたことが、
この本を書くにあたって、出てきたかな。
乗り移られたかなって感じも、
ちょっとするんですけども。
糸井 すっごく総合的ですね。
もともとドイツ文学だったって聞いて、
それはそれで、納得できますね。
マーケティングもなにも、
ものすごく大きいくくりで言うと哲学ですもんね。
ルディー そうですね。
人間のことを考えるってことなんで。
糸井 自分とは何か、だし、
人間とは何か、だし。
そこで、道具として
いろんなものが現れてくるだけで。
ルディー 自分でもいろいろ文献を読んで、
周りの人間を見てみると、
「ああ、あの人ほんとに、
 全然、いわゆる衝動とかなんかを、
 コントロールする
 論理的思考のない人だったんだ」とか、
「やっぱりいるんだ、そういう人、いっぱい」
とか思えてきて、
余計おもしろくなっちゃって。
糸井 おさる同士ですよね。
ぼくはそれをもうちょっと、
おさるじゃない状態で、
よく例えで考えたのは、
中学校の教室なんですよ。
ルディー はい。
糸井 中学校の教室で、
どんな場所で、どんな顔してたかっていうの、
その人を見るとだいたい
わかるじゃないですか。
ルディー はいはいはい。
糸井 「どうせそんなやつなんだよ」って思うと、
その後に博士になろうが大臣になろうが、
中学校の教室でガリ勉の場所に
いたやつが多いんですよ。
ルディー はい。
糸井 そうすると、
すっごい楽なんですよ。
それは、おさるで見るのとおんなじですよね。
ルディー おなじですね。
基本的に、ほんとに、
お金のことなんか、
まさに、ほんとに、変わってませんね、全然。
糸井 この話って、絶対お金の話の周辺ですから。
力のやりとりっていうのが、
人間と人間との関係性ですから。
弱い力も、強い力も、
力のやりとりですから、
そのときに、お金という力のやりとりを
してるんだよねっていうことを、
ぼくは、ルディーさんの本を、
ああ、興味あるのはその辺なんだろうな、
この人は、って思いながら
読んでたんです。
ということで、お金の話に入りましょうか。

(つづきます)
2010-07-15-THU
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