MONEY IS… vol.01 貧乏と芸術の間の千円札。 赤瀬川原平さんの、とても正直な「お金」の話。
糸井 千円札のコピー芸術が「通貨模造」という罪に
問われたわけですけど、
そもそも、きっかけって、何だったんですか?
赤瀬川 ようするに、やっぱり「子ども」なんだけど‥‥
ずっと貧乏でやってきたから、
「お金なんか、なければいいのに」って気持ちが
いつもどこかに、あったんです。
糸井 ええ、ええ。
赤瀬川 土地に値段があることも、おかしいなと思ってたし‥‥

お金って「理不尽だな」って思いが、まずあって、
お金って「にくらしいもの」だと感じてたんです。
糸井 なるほど。
赤瀬川 野菜なんかに値段があるのは、わかりますよ。
誰かがつくってるわけですから。

でも、「土地」というね、
もともと「誰のものでもなかったもの」に、
値段をつけるなんて、ずるいと思って。
糸井 「オレが最初に線を引いたんだ!」みたいな。
赤瀬川 そういう、お金に対する疑問が、まずあった。
そこに、当時の「左翼思想」が重なって。
糸井 そういう時代ですよね。
赤瀬川 ただ、ふつうは「大学を出た、頭のいい人」が
左翼になるはずなんだけど、
ぼくなんかは「素朴な左翼」というかね、
「貧乏だから左翼」というような、非常に‥‥。
糸井 絵に描いたような。
赤瀬川 そう、絵に描いたようなね、貧乏左翼。

あんまり得意じゃなかったんだけど、
本を読んだりすると
「共産主義というのは、お金のない世界だ」
みたいなことが書いてあるわけ。
糸井 ええ、ええ。
赤瀬川 すると「それは素晴らしい!」なんて
感化されてみたりね。
そんなのが、お金にまつわる最初のあたり。
きっかけといえるかどうか、わからないけど。
糸井 いや、もうそのへんから、
「千円札」には、つながってる気がしますね。
赤瀬川 そうですねぇ、うん。
糸井 芸術をはじめたのは‥‥。
赤瀬川 芸術は、子どものころの絵からなんだけど。

で、こっちが大人の「芸術」をはじめてみると、
そういう「社会制度」だけじゃなくて
人間の問題とか、いろいろ考えはじめるんですよ。
糸井 はい。
赤瀬川 そのなかでも、ずうっと興味があったのが
「偽物」というもの。
糸井 ほう、ほう、ニセモノ。
赤瀬川 本物と偽物。本物があって、偽物がある。
これって、どういう存在なんだろうと。
糸井 ええ。
赤瀬川 はじめは「人間の偽物」をつくろうとしてたんです。
でも、それは難しくて、
ちょっと、どうしようもなかったんですね。
糸井 人間の偽物。
赤瀬川 うん、そこで「お札なら、やりやすいな」って。
糸井 急ですねぇ(笑)。
赤瀬川 でも、お札って人工的なものだからね。
糸井 ええ、そうですけど。
赤瀬川 人間の偽物をつくるのは、難しいんですよ。
糸井 ええ、はい。それは、どういう‥‥。
赤瀬川 生物というのは、海水を身体のあちこちに溜めながら
海から丘へ上がってきたって話があるけど、
だったら、
海水をぎゅうーっと圧縮してヒト型に詰め込めば、
人間ができるんじゃないかってね。

まぁ、その考えはあまりにもアホらしいんで、
ポエムにして終わりにしました。
糸井 いやぁ、ポエムとしては、いいポエムですよ。
でも、そうやって、人間の偽物をつくるのが難しいから、
「お札の偽物」をつくっちゃった、と。
赤瀬川 やっぱり、いちばんわかりやすい「偽物」って
「お札」だったんですよね。

ところが、どうやら偽物はつくれないらしい。

だけど「偽札」をつくろうとしてるわけじゃないんだし、
印刷所だってあるんだから、
なんか似たものができるはずだ‥‥と
あちこち頼んだりとかしてたら、できちゃった。
糸井 できちゃった!
赤瀬川 そう。
糸井 すごい‥‥。
赤瀬川 できちゃったんですね。
糸井 その千円札、はじめは「手描き」でしたよね。
サイズも、ずいぶん大きな。
赤瀬川 そうですね、最初はきっちり「模写」してたんです。
手描きだし、大きくすれば問題ないわけですから。
糸井 ええ。
赤瀬川 でも、描いてるうちに、
一枚だけを拡大して「模写」するだけじゃ、
「お札」を描いたことにはならないなと
思いはじめたんです。
糸井 それは‥‥。
赤瀬川 やっぱり「お札」って「複数が命」というか‥‥。
細胞と同じで、
一枚だけあったってしょうがないわけでしょう。
糸井 はーーーーー‥‥。
「お札は複数が命」って、すごいな‥‥。
赤瀬川 複数であるところに、お札自体の生命が宿る、
というかね。
糸井 まさに資本主義の話ですね、それは。
赤瀬川 それで、やっぱり「印刷」しなきゃダメだって、
描きながら、思いはじめたんです。
糸井 ‥‥おもしろいです。
赤瀬川 絵描きの性分で、はじめは手で描いてたんだけど、
途中から、
「お札の成り代わりをつくろうとしてるけど、
 どうも、これはお札じゃないな」と。
糸井 印刷のほうは、写真ですか?
赤瀬川 そう。印刷所に、適当なお札を選んでもらって、
そのまま一色で刷ってもらったんです。
糸井 はー‥‥。
赤瀬川 で、やってみたら、あんのじょう。
「お札は複数あってのもの」でした、やっぱり。
糸井 はー‥‥。

<つづきます!>


2010-05-28-FRI