その漆 [7] アドリブって、ないんです。


糸井 音のバランスだって相当難しいですよね。
染五郎 ええ、ありますしね。
糸井 単純に新感線初めて見たときにビックリする、
あの殺陣のときの斬る音だとか。
染五郎 はい、これは音効といってますけど。
糸井 音効のほうですね。
染五郎 はい、効果ですね。効果音専門。
糸井 あれはキーボードですよね。
染五郎 キーボードですね。
糸井 あれももうすごいですねえ(笑)。
あれは何回聞いてもすごいですね。
染五郎 あれは今2人がかりになってますけども。
いわゆるキーボードで「ズバッ」とか
「カキーン」とか「ガシャ」とか
そういう音が入るんですけど、
それはもう本当に、稽古にずーっと立ち会って、
殺陣をある程度覚えないとできないですから。
糸井 音付けてるキーボードの画面見たいなあ。
それとか照明のスイッチングとか。
染五郎 スイッチングね。でも、どれぐらいあるんだろうな、
もう何百‥‥何百、千ぐらいいくのかなあ。

糸井 音効のキーボードの人って
指1本のタイミングだけじゃなくて、
音質、音色振り分けてますよね、
人間によっても。それとんでもないですよね。
染五郎 すごいですね。この新感線で使う効果音は、
ほとんどほかでは使わないらしいんで(笑)。
糸井 オリジナルで作るんだ。
あれ音量の調整もしてますよね、絶対。
染五郎 そうですね、してますね。
糸井 そのへんは染五郎さん見たことある?
染五郎 音響の調整というのは見たことないですけど、
音効さんは稽古場のときは、
演出家の方たちと一緒にいて、
見ながら音を入れていって。
糸井 稽古のときももう夢中で入れてるわけですよね。
で、上手になったりするわけですよね、きっと。
染五郎 そうですね。
バシッと合うようになってきたりします。
もちろん殺陣だけじゃなくて、
今は「バタッ」と入ったり、
「ドーン」と入ったり、
「カーン」って入ったりする場面もありますから。
糸井 てことは、音効さんまで
セリフひとつずつある程度覚えてるんでしょうね。
染五郎 そうですね。それはもうベッタリ稽古につきますから、
それはもうそれぐらいでないとできないことですよね。
糸井 それは照明さんなんかにも同じことはいえますよね。
染五郎 そうですね。
糸井 コンピュータの使い方で
何とかなるってことはないですか‥‥
あ、そうか、肉声で芝居してるわけだから
追えないですよね、コンピュータじゃ。
染五郎 追えないですねえ。
糸井 人の手か。
染五郎 まあ、スイッチングだと思いますけどね、
照明に関しては全部。
糸井 要するに、セットしてあって
Aパターン、Bパターンとずっとあって、今だ今だと。
染五郎 次、次、次、次って。
糸井 うわあ。
染五郎 だから、作るのが大変ですよね。作る仕込みが。
照明さんなんかいっつも大変ですよね。
糸井 それに、ゲキ×シネになってから
カメラのことも出てきちゃいましたね(笑)。
染五郎 ええ。だから、役者も逆に、
もうここ(の決まった位置)に
いないといけない。
照明がそこ用に作ってあるんで。
新感線ってけっこうアドリブが多いって
思われてる方もいると思うんですけど、
基本的に入る余地がないんですよね。
糸井 (笑)でも、入れてるんですか。
染五郎 無理くり入れる役者さんもいらっしゃいますけど(笑)、
ただ、やっぱり居どこやなんかは
もう絶対動かせないんで、
そういう意味では本当に計算され尽くされて。
糸井 フォーメーションってやつですよね。
アドリブが多いとか
自由に見えるとかっていうふうにまで見せる
段取りですよね、つまり(笑)。
染五郎 そうですね。計算が見えないぐらいの
計算をしてるようなところはありますよね。
糸井 もうそう思ってみると
この位置のひとつひとつは全部、
ピタッピタッと決まるわけですよね。
染五郎 舞台中向きに番号が振ってあって、
どセンターがゼロで、そこから上手、下手に
1、2、3、4、5ぐらいあるんですけど、
稽古のときは、じゃ3番で、
いや、2番にしようか、
じゃ1.5とか、そういう感じで。

糸井 じゃ、今だれがどこにいるっていうのは、
染五郎さんは今番号で言えば言える?
染五郎 番号で言えば、あそこは5番かな。
糸井 はぁー‥‥。
染五郎 秋山さんは1番かな。下手。
もう本当に緻密なんですよ。
糸井 そうでなかったらこの距離感とかの
一番いい味は出せない。
染五郎 いのうえさんは、
「映画的に作る」というふうに言われてて。
糸井 これ絵コンテ切ったりはしてあるんですか。
染五郎 それはもういのうえさんの頭の中ですけどもね。
糸井 絵コンテとしてはみんなにばらまかれてないんですね?
体で覚えろなんですね?
染五郎 もう本当に積もり積もっていくと、
「あれ? 2番だったか1番だったか‥‥
 あ、そうか、1番だ」とか。
糸井 似たような場面困るんだ、役者さんは。
染五郎 困りますねえ。
糸井 2幕と4幕に同じような場所で
しゃべるシーンがあったりすると、
「あ、こっちじゃなかった」というような
取り違えはありうるね。
染五郎 ありえますね。
また初日開いてから
その微妙な調整、修正があるので、
なかなかもう本当に、
まずは段取りをこなすということで
頭がいっぱいになりますね。
糸井 そういうことができる役者さん以外は
使われてないってことだね(笑)。
染五郎 そうですね。そういうとこありますね。
糸井 うわあ、そうかあ。
ある程度そうじゃない考えを持った人が
もしここに来ちゃったら、
「辞めさせてもらいます」ってことですよね。
染五郎 なっちゃうかもしれないですね。
またまた古田さんとかがもう
本当に、早いんですよね。
糸井 覚えるのが?
染五郎 ええ、そういうものがやっぱり。
糸井 古田さんの動きなんて僕らは観客席で見てると、
もう気ままに動いてるようにさえ‥‥
染五郎 いや、もう完璧に決まってますね。
演出されてます。
糸井 だろうなとは思うものの、
古田新太に関しては違うんじゃないかとかさ、
そんなことを思いたいみたいに、
もうブラブラして見えますよね。
染五郎 そうなんですけどね。
糸井 はぁー‥‥。染五郎さんが
いろんなよその劇団とかに参加してて、
とくにですか、新感線は。
染五郎 そうですね、とくにですね。
もうこれだけ演出家が椅子に座ってない
稽古っていうのも、そうそうないですね。
実際にセリフも言ってくださったり、
動いてくださったりするんで、
それがまた面白かったり
カッコよかったりするんですよね。
糸井 はぁー‥‥!
染五郎 そういう感覚でないと難しかったりしますよね。
それがカッコいいと思わなければ、
もう「何じゃ、それ」ってことになっちゃうので。
それがないところはやっぱりすごさですよね、
いのうえさんの。




2008-01-09-WED

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN