その陸 [6] 表も裏も、のチームワーク。


染五郎 カツラもけっこう本当にひとつひとつ
こだわって作ってましたからね。
高橋功亘さんって方が
ヘアメイクで入っておられるんですけど、
この方もやっぱり職人でして、
もうその僕の頭も、
もう舞台稽古初日ギリギリまでいろいろ工夫して、
「プランが、あたしのプランがある」って。
糸井 完全にオリジナルのヘアスタイルですよね(笑)。
こんなカツラ売ってないですよね(笑)。
染五郎 そうですね。
売ってないし、もうこの時代的にも
まったくそういうものはないんですけども、
でも、もうビジュアルで行くからみたいな感じで
オリジナルな。
糸井 そういう人が集まったっていうこと自体が‥‥
染五郎 集まるんですよ。で、舞台のスタッフも、
要するにこの場面への場面転換というのも、
本当にもう流れるような感じなので
何ともないじゃないですか。
糸井 うん、何ともない(笑)。
染五郎 でも、あそこに赤い柱があったり、
もちろん小道具なんてワサワサ出てるは、
提灯はああやって出て、
そこに火っていうか電気が入ってるは、
それだけのものをいつの間に?
っていうところがあったりするんですけど、
舞台監督にしても、もちろん照明にしても、
もちろんそこには演出ってものがありますけども、
そういうのがすごくもうそれぞれが、
もちろん小道具もこだわって作ってるんで、
それが集まるんですね。
糸井 役者さん以外のスタッフが
いるってことを感じますよね(笑)。
染五郎 うん。もう本当にこのスタッフは、
もう僕は日本一だと思ってますから。

糸井 どうしてそんな集まったんだろう。
染五郎 ねえ。いや、本当すごいですね。
本当にこだわりの塊みたいなのが。
ただ、お芝居自体は、
エネルギーだったりパワーだったり
ライブ感みたいな臨場感というものを感じられる、
ある意味勢いでというところを感じるんですけど、
緻密ですね、それぞれが。
糸井 緻密ですよね。
つまり、最初に殺陣の話をしたときもそうだけど、
間違ったら怪我するようなことばっかり
やってるわけだから。
染五郎 いや、本当そうですね。
ひとつ間違うと本当に危ないんですけど。
糸井 丁寧さと大胆さが両立してるんですよね。
染五郎 うん。で、稽古のときでも
いのうえさんがけっこうひとつひとつ
細かく作っていくんで、
通してみるとえらい運動量に
なってたりするんですけど(笑)、
でも、確かにやっぱりそういうふうにやったら
カッコいいし面白いしって、
やっぱりやる側は思っちゃうんですよね。
「じゃあ、やらなきゃいけないな」
っていうふうにやっぱり思っちゃうんで、
そのへんの妥協のなさというのが
作品全体のテンションにつながってる感じがしますね。
糸井 稽古の分量は多いほうですか。
染五郎 今回はひと月半弱ですけども、
かなりギリギリでしたね。
糸井 あ、そうですか。じゃ、
ホン(台本)は早くできてるんですね、ちゃんと。
染五郎 はい、早くできてました。
糸井 つまり、そこをちゃんとやってないと、
1か月半が無駄になっちゃうんだ。
ホンが遅れるってあるじゃないですか、よく(笑)。
染五郎 ありますねえ。
糸井 それはここではありえないですね。
染五郎 ありえない‥‥ありえないですね。
おそろしいことですね、それは。
糸井 できないですもんね、そのさっきの段取り全部。
殺陣から髪型から音楽から全部ですよね。
染五郎 できない、できないですねえ。
そういう意味ではもうひと月半前に
大まかなプランができてないと、
やっぱり道具にせよ照明にしろ、
作れないですからね。
前回『髑髏城の七人』という芝居をやってたときに、
白髪の長髪だったんですね。
殺陣の場面ではやっぱり髪が顔にかかるんで、
殺陣はまったく見えずにやってましたね。
糸井 うわあ。

染五郎 ただ、これを
「見えないんでなんとかしてほしい」
って言うのも逆に悔しいんですよね。
糸井 うんうん、意地でね。
染五郎 意地で。もう足数の感覚を体に覚えさせて、
殺陣の感覚を覚えさせてやってましたから、
ほとんど目つぶって
殺陣してるみたいな感じでしたけどね。
糸井 はぁー‥‥。
染五郎 逆に、それができたらカッコいいんじゃない?
みたいなふうに思っちゃうんで。
糸井 自分への約束でね。
染五郎 ええ。‥‥あ、このシーン、
(「シキブ」役高田聖子さん登場のシーン)
これも扇子にマイクが
ついてるんですよね(笑)。
糸井 あ、本当だ。本当だ。看板女優。
マイクの位置に関しては、
ちょっとみんなで相談して
ふざけてる感じがしますね(笑)。
染五郎 そうですね(笑)。
ここは振付けさせていただいたんです。
糸井 振付けの基礎になる部分というのは、
やっぱり自分が踊りを習ってたことですか。
染五郎 そうですね。もちろんその
引き出しの中だとは思うんですけども、
いわゆる古典的なというか歌舞伎を
意識したり日本舞踊を意識した振りにしないで、
やっぱり曲を聴いて出てくる振りをと思って付けてます。
それとか、自分にできない振りとか付けますね。
糸井 あ、こういうときは。
染五郎 ええ。音を聴いたりして、
このテンポでこの間でこう動けたら
カッコいいなとか思って。
糸井 え、それは自分にできないことなんですか。
染五郎 僕はできないけどやってくださいみたいな。
糸井 へぇー。
染五郎 で、できちゃったりするんですよね。
そうすると、付けた自分が
「あ、できた、できた」って
どこかで思いながら(笑)、
「そうそうそう、カッコいい、カッコいい」
とか思いながらやってます。
糸井 ああ、文体変えちゃうみたいなのものですね、自分の。
(高田聖子さんのカツラを見て)
巻貝みたいになってますね。
はぁー‥‥。
これ、衣装、髪型、ライティングみたいな人たちの
打ち合わせっていうのは、
どういうふうにやってんですかね。
稽古場にはいるんですか。
染五郎 ええ、稽古場でもやはり動きを見たりしながら、
あとはどういう役者さんかっていうのを見ながら
プランを考える。
もちろん事前のプランはあったりしますけれども、
また、芝居によって全然その人の見方ってのは
変わってくるので、
その人をイメージしてひとつの形が
出来上がってくるんですけどね。
糸井 なかなかそうなると
外部のスタッフというのは、起用しにくいですね。
相当わかってる人じゃないと。
たまにはあるんですか。
「照明さん変わりました」みたいなことは。
染五郎 えーと‥‥あると思いますね。
比較的今は固定されてますけれども、
やっぱりこのテイストがかなり個性的というか。
糸井 つまり、無理をし合って
生きてきた人たちでしょう。
染五郎 うんうん。そこはやっぱり
チームワークはいいですね、今。
糸井 これ、マイクはどういう‥‥
セリフのマイクはどうなってるんですか。
染五郎 耳の横についてるマイクがあって、
それで拾ってるんですけれども。
歌の場合はもっと口に近くないといけないので、
ああいう小道具を使っての
マイクになってるんですけどね。
糸井 あ、そういうことなんですか。
つまり、楽器の音に消されないように。
染五郎 そうなんです。拾っちゃうんで難しいみたいですけど、
まあ僕はもう散々、
携帯も骨伝導みたいなのができたんだから
骨伝導のマイクを開発してくれって。
汗で水没するんですよ、たまに。
糸井 マイクが(笑)!
染五郎 マイクが。水には弱いですからね、
汗が入り込むともうえらいこと。
この『朧』のときも何度か。
糸井 水没が?(笑)
染五郎 汗で水没ってありましたね。
もうそのときはえらい騒ぎ。
もう命綱みたいなものですからね。
糸井 え、つまり自分のセリフが
通らなくなっちゃうんだ。
染五郎 スピーカーも舞台向きに入ってるんですけど、
アッと思ったときには、
もう逆にメチャクチャ張って
しゃべったりして‥‥
糸井 肉声が聞こえるように。
染五郎 ええ。引っ込んだときにもう、
「音響さん、音響さん、音響さん」
って言って泣きすがって、
「換えるなら換えよう、
 新しいのに換えよう、換えよう」と言って、
急いで換えたりすることもありますね。
糸井 それは水没の経験があった人でないと
そんなことは思いつかないですね。
染五郎 そうですね。

糸井 初めてのときはどうでした?(笑)
聞こえてないこと自体を気づけないですよね。
染五郎 わかんないとこありますね。
だから音響さんももう、
これだけの人数マイク付けてるので、
そういう意味では、
すごく音響さんももう神経すり減らす
仕事だなあと思って(笑)。




2008-01-08-TUE

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN