#23 はじめてカメラを買ったんです。その4 ずれたって、いいじゃない!

講師

菅原 「GRでファインダーを覗いて撮ると、
 思ったのと違う写真になる、と」

司会

「そうなんですー。
 ずれちゃうんです」
「一眼レフでは
 そういうことはないような‥‥」
「なにをおっしゃっているのか、
 わたしにはさっぱり‥‥」
司会
シェフ 「うん、たしかにずれるよね」
先日、デパ地下で
おいしいお弁当を買ってきて、
食べる前に撮ろうと思ったんです。
そしたら、こうなりました。


これ、ファインダーの中には
ちゃんと収まってたんです‥‥。
菅原 ああ、なるほど。
でも、撮ってみたらずれてた。
私のやり方が悪いのかな。
菅原 いや、それは、そうなんですよ。
レンジファインダーって
言われるカメラの欠点なんですよ。
そうなんですか?
菅原 一眼レフっていうのは、
レンズを通した像が、
ミラーとプリズムを通って、
そのままのすがたでファインダーから見える。
でも、レンジファインダーは、
レンズに入る像と、
ファインダーに入る像が別なんですね。
で、遠いところは、ほぼ合うんですが、
近いところは、ずれが大きい。
冨田さんはお弁当を撮ろうとして、
近寄っているので、
見たものと写ったものに
ずれが生じたんですよ。
じゃあ‥‥慣れるしかないんでしょうか。
菅原 はい、ファインダーを使っている以上、
慣れるしかありません。
近づいたらちょっと下げて撮る、
ということになりますね。
シェフ あるいは、近くを撮るときは
液晶表示をオンにして確認するか。
菅原 むかしは、レンジファインダーは、
構造上、あまり近接撮影が
できなかったんです。
だから、ずれもそんなに気にならなかった。
ところが、今のカメラは
1センチまで近づけたりするので、
そうなったら、‥‥ずれるに決まってるよね。

シェフ そうか、ファインダーというものの
限界なんですね。
菅原 でもね、冨田さん。
ハイ!
菅原 前にも言ったと思うけど、
冨田さんは、ずれなんか気にせず
撮ったらいいんだよ?
シェフ 菅原さんは、とみちゃんに
いつもそのアドバイスですね。
菅原 いいじゃない、気にしなくって。
たぶん、気にしてないから
こういうのが撮れちゃうんですけどね(笑)。
菅原 いや、これはいろんな人の意見があるから
何とも言えないと思うんですけど、
これがちょっと暗くなったとしたら、
このちゃんと撮れてるって
冨田さんが思ってるほうより、いいと思う。
うーん。
シェフ ちゃんと撮れたっていうのは、
これですね。



で、もういちど、
こちらが、ずれちゃったほう。

菅原 何か雰囲気とか写真としても、
こっちの方がぼくはいいと思います。
これの方が何か、
トミさんの「美味しそう」がある気がします。
わたしも同感。
みんなに好かれるのはこっちの方なんですね‥‥。
菅原 もし、冨田さんが写真集を出されたとします。
シェフ それはないんじゃない。
菅原 もしも、ね(笑)。
そしたら、このずれた弁当のほうが
入ってても大丈夫かもしれないよ。
へえ!
シェフ たしかに、味はこっちの方があります。
彼女らしさが出てる。
(笑)。

うん。
菅原 写真て別に、枠に入ってなきゃいけない、
ってことはないですし、
別に失敗してもいいんですよ。
冨田さんのは、全然これでいいんです。
なんだー。
なんだー。
(笑)。
菅原 むしろこっちの方がいいです。
ぼくはこれが好きですよ。
シェフ 断然印象に残るのはこっちですよね。
菅原 たとえば、よく撮れた花の写真と
並べてみたらいいですよ。
ほら。


で、こっちはどう?

おお!
なるほど。
最初のほうが、いいですね。
シェフ なんか、ずれてるのが、
かっこよく見えてきた。
‥‥ほんと?
菅原マジックにかかってない?

わーい、あたしの写真集!
‥‥って、そんなわけがないでしょ!
でも、写真集ぽく見えてきました。
シェフ なんかね、面白いなあと思うのは、
自分で一番いいと思ったものって
そんなにたいしたことないんだなあって。
そうなんですよねー。
シェフ 「俺が俺が」っていうの、
よけいなんだね。
菅原 写真を撮る時は、
そのままでいいですよ。
ずれちゃっても、
あんまり気にしなくていいんです。
そのうえで「もうちょっとどうしたら
いいかな」って知識が役に立ちます。
暗くしたり明るくしたりっていうのは
そういうことですね。
「もうちょっと暗くなるといい感じかな」
って。
特に冨田さんの持っている
GRというカメラは、一眼レフと違って、
すみずみまでピントをあわせて
全体を写すのに向いているカメラです。
前に説明しましたね。
シェフ この回ですね。
菅原 GRはね、本当に不便なカメラなんですよ。
不便だからいいの。
へえ。
菅原 広角、単焦点、そして値段も不便。
不便なカメラは不便なまま
使った方がいいと思うんです。
同じことはトイカメラにも言えるよね。
トイカメラは玩具としてたのしめばよくて
「じょうずに撮る」なんて
考えないほうがいいんです。
シェフ 楽しくね。
菅原 トイカメラって、
もったいないなと思ってるのは、
トイカメラがいいなと思ってる人は、
感性、二重丸なんです。
でも探究心が足りないことが
あると思うんだ。
なるほど。
菅原 今って、技術が進化し過ぎちゃってて、
大事なものを結構捨てちゃってたり、
なくしちゃってたりすることがすごく多いんです、
カメラの場合。
でも、トイカメラの場合は
そういうことを全くやってないので、
大事なことも進歩を止めちゃってる分、
大事なことも残っちゃってるみたいな。
偶然なんです、それは。
意図的に残ってるんじゃなくて、
偶然残っちゃってるんですよ。
ロモ(LOMO)なんか、
周辺が落ちて(暗くなって)
可愛いって言うけど、
わざとじゃなくて
たまたま落ちちゃっただけなんですよ。

シェフ 性能的に光が取込み切れないので、
周りがこう、暗くなっちゃうんですね。
菅原 ホルガ(HOLGA)なんかも、
プラスチックでできてるから、
真ん中しかピントが合ってなくて、
周りはもう流れちゃってる。
でもその方が、撮る人が
何を見てるかがはっきりするじゃないですか。
そういう意味ですごくいい。
だけど、それだけで溺れちゃうと
つまらないんじゃないのかな。
結局、誰が撮っても
同じ写真になっちゃうんですよ。
写真というのはやっぱり撮った人、
全員違うはずじゃないですか。
今だってこんだけ違いますよね。
それがよくなっていけば、
おーってなるわけじゃないですか。
それがならないんだよね。
シェフ トイカメラだと。
菅原 みんな、一緒なんですよ。
ホルガはみんな、ホルガ。
ロモはみんな、ロモ。
そこで何とか工夫をして
個性を出そうと思って、
僕もやってみたんですけど、
そこで工夫しても意味がないなと思いました。
だったらこういうちゃんとしたカメラで
工夫してった方が、
ずっと楽しいよって、
ぼくは思うんですよ
(つづきます!)
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2008-07-02-WED