『ディア・ドクター』の  すてきな曖昧。 糸井重里×西川美和監督
最終回 ずーっと遊べます。
糸井 この対談をほんとにたのしみにしてたもんだから、
すみませんね、
ぼくがいっぱいしゃべってしまいました。
西川 いえ、とんでもない。
糸井 この機会に言っておきたいことがあれば‥‥。
西川 うーん‥‥
ぜんぜん余談なんですけど‥‥。
糸井 ええ、どうぞ。
西川 中学1年生のときに、
ひとりだけワープロを持ってる
友だちがいたんです。
糸井 ワープロを。
西川 その子がある日、自分のプロフィールを
ワープロで書いてきたんですね。
私、活字に対してすごい憧れがあったから、
まるでそれが印刷物のような
説得力を持ってるように見えて、
「すごい、うらやましい、私も作って」
とお願いして作ってもらったんです、
自分のプロフィールを。
生年月日とか趣味。
その中の「好みのタイプ」というところに、
糸井さんの名前を入れてたんですよ。
糸井 西川さんが、中学1年ですか。
西川 13のときです。
糸井 老けセンですね(笑)。
西川 あれは何だったんだろうって(笑)。
糸井 光栄ですと言いたいんですけど、
その幻想の在り方については興味ありますね。
西川 何を思ってたんだろう。
糸井 何かが、したかったんですかね。
西川 そうだったんでしょうか。
糸井 何年前です?
西川 20年とちょっと前。
糸井 ああ‥‥ぼくは遊んでるころです、やっぱり。
大人が遊んでるんです。
西川 そうか、
大人が遊んでいるっていう感じ。
糸井 それはぼくっていう意味じゃなくて、
その固有名詞はどうでもいいんですよ。
「大人が遊んでるなあ」っていうのを、
中学生が「いいなー」と思うのはいいですよね。
だから、好みのタイプで
よかったんじゃないですか(笑)。
西川 そうですね、本当に(笑)。
糸井 ずっと遊んでるんでしょうね。
ただ、今はだいぶ大人にはなってるんです。
おもしろいですよぉ、その大人のなり方は。
西川 そうですか、
うらやましいです。
糸井 カモンですよ。
60になってみろと言いたい。
西川 そうかあ。
糸井 ずーっと遊べます。
西川さんは、30越えた?
西川 はい。
糸井 じゃあ30年遊べますよ。
30代から30年というのは、
やれることも増えてくるし、
人がやらせてくれることも増えてきますから。
西川 なんとなくわかるのは、
20代より30代のほうがたのしいです、確実に。
糸井 そうでしょう?
戻りたいと思わないでしょう?
西川 ぜんぜん思わない。
糸井 それ、ずっとそうです。
西川 そうなんだ‥‥。
いや、今日はありがとうございました。
映画のこと、
ぜんぜん違う視点からの感想をうかがえて。
糸井 そんな意識はないんですけど(笑)。
西川 いよいよ手を抜けないんだなと思いました、
こういうふうに観てくれる方がいると。
糸井 そうですね、手は抜けないですね。
西川 ああいうふうに映画を作って
よかったなと思いました、本当に。
糸井 心づくしで作られたものを
ちゃんと味わうのが責任だと思うので。
ま、いい加減なものを、
ワサワサ食うのも好きなんですけどね。
だけど、これだけのものだったら、
やっぱりていねいに観たいですから。
西川 ありがとうございます。
糸井 こちらこそ、大変ありがとうございました。

(西川美和さんと糸井重里の対談は、これで終わりです。
 ご愛読いただき、ありがとうございました。
 連載中にはたくさんのメールをいただきました。
 最終回まで読んでのご感想も、お待ちしています!)

2009-09-17-THU


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