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第21回 ボス戦。
幾度挑んでも、幾度挑んでも、幾度挑んでも、
眼前に立ちはだかるボスに勝てないとき、
プレイヤーはひじょうに所在なくなるのである。
せわしなく考えを巡らし、さまざまな選択肢を試し、
それでもやっぱり勝てないとき、
プレイヤーは自分の拠りどころをなくし、
不安で不安でたまらなくなるのである。

たとえばこれがアクション性のない
ロールプレイングゲームなどであれば、
プレイヤーはさほど不安にならない。
なぜなら、そういった場合、
概ねキャラクターのレベルを上げることによって
活路を開くことができるからだ。
特殊な「倒しかた」を要求されるボス戦もあるが、
コマンド式のロールプレイングゲームでは
選択肢はさほど多くない。
レベルを上げて、手当たり次第に戦法を変えていると、
そのうち戦いの糸口をつかむことができる。
あとは、根気よくそれをくり返していれば、
いつかボスを倒すことができる。

ところが、『ピクミン2』などの
アクション性のあるゲームの場合は、
勝てないボス戦はプレイヤーをひどく不安にさせる。
なぜなら、そこにはふたつの要素があるからだ。
ひとつは、「倒しかたをつかむ」こと。
もうひとつは、「うまく操作する」こと。
両方がなければアクションゲームのボスは倒せない。

最後の着陸地点の最初の洞窟で、
幾度も幾度も僕はボスに挑んだ。
ところがまったくもって勝てなかった。
コントローラーを握る僕が落ち着かなかったのは、
前述したふたつの要素のうち、
自分にどちらが欠けているのかがわからなかったからだ。

おそらくこうするのではないか、という
「倒しかた」を僕は見出していた。
ボスの体力は少しずつ減っている。
たぶん、これをくり返せばいいのだろう。
ところが、そのダメージはあまりにも少なかった。
『ピクミン2』に登場するいくつかの生物は
時間が経つと体力を回復してしまう性質を持つ。
そのボスもそういった種類の生物だった。
僕は必死にオリマーを操作してダメージを与えるが、
すぐにボスは体力を回復してしまう。
それで僕は深夜に途方に暮れることとなった。

これは、「倒しかた」がまちがっているのか?
それとも、「うまく操作」できていないのか?

見極めるべく、僕は幾度もボスに挑んだ。
少しずつ少しずつダメージを与え、
回復されてもあきらめずに攻撃をくり返す。
けど、これは、どう考えても、きりがない。
どちらかがいけないのだ。
もっと「うまい倒しかた」があるのかもしれない。
もっと「うまく操作」しなければいけないのかもしれない。
答えが出ないまま、僕はボスに挑み続けた。

深夜にコントローラーを握りながら、僕は自問する。
これでいいのか? これで合ってるのか?

何度もリセットボタンを押しながら、
しだいに僕の考えは後ろ向きになっていく。
今日はここでやめておこうかと考えはじめる。
けれども、ボス戦をほかの日に持ち越すのは
とても腹立たしいことだ。
ここまでなんのために苦労してきたのか、
という気分になる。
自分を叱咤し、新しい気持ちでボスに挑む。
しかし、それでも勝てない。
すると僕のなかに、
もうひとつの後ろ向きな考えが育ち始める。
最初は振り払っていたが、
しだいにそのよくない考えは大きくなっていく。

僕は、手っ取り早く答えが知りたくなってしまう。
もういいから正解を教えろよ、という気分になってしまう。
簡単なことだ。いまやネット上には
ほとんどのゲームに対して攻略サイトが存在する。
そういったサイトを検索して調べていけば、
そのボスを倒す方法なんて、
拍子抜けするくらいあっさりと知ることができるだろう。

僕は、幾度も幾度もボスに挑みながら、
ひとりごとを言ったりする。
いま何時だよ、と思ったりする。
きっと、こういう瞬間にゲームをやめてしまう人は、
いるのだろうと思う。
古いアメリカのアニメであれば、
僕の右肩にぼわんと小さな悪魔が現れて、
こんなふうにささやくのだろう。
「もう、やめちゃえよ。
 それか、ネットで検索しちゃえよ」

くり返すとき、偶然に、攻撃のタイミングがずれた。
すると、ボスの体力ががくんと減った。
こういうときに背中を貫くびりびりとしたものが、
僕がゲームをプレイする意味である。
もう一度、ためす。変化をはっきりと認識する。
さらにもう一度くり返すが、
今度はタイミングを誤る。
いまのは、よくなかった。
そうじゃなくて、こうしなきゃ。
僕は、リセットボタンを押す。
けれども、このリセットは、
これまで何度もくり返したリセットとは、
意味がまったく違う。

起動画面を早送りしながら、
僕は頭のなかで手順を確認する。
念のため、こうしておいて、
あれに備えながら、このようにする。
イメージ。びりびりするようなイメージ。

さあ、対決だ。こっからが本番だぜ。
これまでのバトル? 遊びだよ、遊び。

わずか数回のくり返しで、
巨大なボスが身もだえしながら息絶えたとき、
僕の背中をびりびりした感覚が駆け上がって、
つむじのあたりから抜けていく。
緊張から弛緩に転じるときの、白い快感。

僕は右肩に現れた小さな悪魔を指先でつまみ、
顔の前に持ってきて、こんこんと説教をする。
「いいか、ゲームってのはな、あきらめちゃダメだ。
 安易に攻略本を見たり、
 検索するのも、よしたほうがいい。
 いいゲームには、きちんと解法がある。
 それをじっくり自分で考えるから、たのしいんだ」

しっぽのとがった小さな悪魔は
「さっきまでいらついてたくせに」
と捨てゼリフを吐いて、空中にぼわんと消える。
ゲームファンって、ほんとに勝手なものだと思う。

残る洞窟はあとふたつ。
それと、地上のパーツがいくつか。
どうやら僕はこのまま最後まで行く。

2004-12-01-WED


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