Sponsored by Nintendo.

 
イメージ  

 宮本茂が語る。
〜今思うこと、5年後のこと〜
 第4回 宮本茂が語る、イメージする5年後。



こんなにいっぱいお話を聞いても聞いても、
いつまでも話していてほしいと思ってしまう。
宮本茂が予定時間を大幅にオーバーしつつ語る、
貴重なインタビューの第4回目をお送りします。
噂じゃ今度のマリオはひと味違うって、ほんとですか?

イメージ

今、作っているマリオ(編集部註:ただいま開 発中のドルフィン用
「マリオ128」と仮に呼ばれているゲームソフトのこと)は、
今までのマリオよりもおとなっぽいらしい、って言われてます。
でも、その話にはちょっと誤解があってね。
 
「ドラえもん的展開」ってのが昔から嫌いだったんです。
いや、藤子さんが嫌いなわけじゃないんですよ。
ドラえもんという商品をつくったのは大したものだと思うけど、
印刷物なんかに、やたらと原色のピンクが多いんですよ。
小学校低学年くらいの子供にすごく好まれる色なんですって。
実際、その色は識別度がひときわ高いらしいんです、
そのくらいの年齢の子どもには。
それ聞くとね、「違うやろ」って思うわけですよ。

イメージ

ドラえもんというキャラクターが生まれたので、
デザインをどうするか、色は何色にしたらいいか、って
考えていくのではなくて、
マーケティングが先にあって色が決まるということが、
ぼくはいやで。
枠をはめてしまうことで、ドラえもんは、
さらに
低学年化していくわけですよね。
そういうことが、嫌いやったんですよ。
ところが、気がついたら、いつのまにか
マリオが同じような流れになってるのね。
シリーズのソフトが増えていくにつれて、
たくさんのひとがマリオを作ってるからね、
うちの若いスタッフがマリオを作ったり、
外の会社が、ゲームのキャラクターに
ライセンスしたマリオを使ったりしてるあいだに、
どんどんそうなっていったような気がしますね。
任天堂全体のマーケティングとして見たときにも、
「マリオはちっちゃい子向きのキャラクターにしていこう」という
ポジションが確立していったところがあってね、
漫画の扱いなんかも、どんどん低学年向きになっていったんです。


イメージ

マリオというキャラクターは、
ぼくが27歳のときに作ったんです。

そのときは、ぜんぜんそんな、作った自分が
恥ずかしくなるようなキャラクターじゃなかったし、
すでにいい大人の、マリオおじさんやったわけやし(笑)。
18歳くらいのお兄ちゃんたちが、
みんなでわいわいと遊んだゲームのつもりやったので、
それをね、無理に小学生向けに絞り込んでいってることには
違和感があったんですね。
例えば、「ヨッシー」というキャラクターを使った
「ヨッシーストーリー」の商品ならば、
ある程度はユーザーの年齢を絞り込んでいくことに
意味もあるし、それでいいと思うけれども、
ぼくのなかでのマリオは、もうちょっと違うものだったの。
なので、当時の感じに戻したい、ゲームの対象年齢も
あえてこちらから限定はしたくない、と思っていてね。

デザインそのものも、
ゲーム周辺のグラフィックまでトータルにみて、
もうちょっといいデザインにしよう、と思いました。
まずは、「Vサインはしないこと」って。
あと、意味のない作り笑いが多すぎるのでやめよう、とか。
Vサイン禁止は、ぼくが前からずっと言ってたことなんです(笑)。
うちの手塚が好きなもんで、最初のころのゲームでは入れてて、
ところが、それが後のゲームでもあまりにも浸透しすぎて、
マリオといえば必ず「最後はVサインで決めポーズ」になったんで、
そろそろVサインはやめようよって、今、話しています。

イメージ
まぁ、一般に任天堂が「子供っぽい」と言われるのも、
実はそのへんのことがひとつの要因になっていたりもしてね。
そういうお約束を大事にしてるからって言っても、
じゃあ、マリオがVサインすれば、
ちっちゃい子どものユーザーが取り込めるかというと、
決してそうでもないと思うんですよね。
これは、会社が京都にある欠点でもあるかもわからんけど。
 
「マリオ64」のときにも、その思いはすでにあったので、
デザインはかなり一新してんねんけど、
みんなは、そうは思ってないんですよね。
作り手側も、使ってるうちに、だんだんと戻っていっちゃって。


イメージ

だいたい、「中高生になったら任天堂は卒業する」っていう
イメージが出来てきたのは、最近のことじゃないですか。
昔はそうでもなかったんですよ。
そう思いませんか?

ところが、いまは
「任天堂は、ターゲットを小学生に絞って作ってるんですか?」
なんてひとから聞かれるの。

そのたびに、決してそんなことはない、って言ってるんだけど、
そう思われてる、ってことだけでも、すでに問題ですよねぇ。
そのなかで「卒業する」というイメージが出来あがったわけやし。

じゃ、その「卒業した」中高生たちに、
今、無理やり任天堂のほうを向いてよ、っていって
流れに逆らうようなことをしても、しょうがないと思うし。
離れていったひとたちを取り込むことばかり考えんと、
それでも、今、こんだけの数、任天堂の支持者がいるわけやから、
今、任天堂を遊んでる小学生たちが「卒業しない」ような
物作りを、ずっとし続けていけばね、
5年後、その子たちが「卒業」世代と言われる中高生になっても
任天堂のユーザーであるわけなんで。
そういうレンジで見ないとね。
付け焼き刃で、目先のことでね、
競合商品がどうの、とか、
任天堂のイメージは市場調査でこのように思われてる
というデータ結果が挙がっている
から、
ここの市場をこう開拓して、とか言われがちなんやけども、
それは、宣伝とか見た目の部分はすぐに変えられるけど、
商品作りというものは、そんなに短いスパンで
どんどん変えていけるものやないし、
それをやってると、見失うのよね。財産減るし。

イメージ
こないだのヨーロッパでの取材で、
「プレステ2が出てきたらどうなんですか?」って聞かれて、
ぼくがずっと言ってきたことは、
「どっちが力持ちかの力自慢の話をしても、
いやドルフィンのほうがもっとすごい!って話をしても、
負け惜しみだと受けとられるでしょ」
って(笑)。
それを言ってもしょうがないんでね。
強がってるように受けとられてもね。
なので、同じ土俵には乗らないようにしようと思ってますよ、って
聞かれる度に、何人ものひとに答えてきたの。
 
64のときにしても、別に「戦ってる」気分はなかったもん。
でも、今だに、みんなは戦わしたがるんですよね。
ビジネスでの話なんやから、お互いにどんどん
新しいものを出していくのは当たり前で、
そのことで、ゲームビジネス全体が元気になるのはええことや、
と思うけれどもね。
戦うんやったら、ぼく、これは前から言ってるんですけど、
戦う相手と同じハードのソフトを作ったらいいだけや、って
思うのでね。
だったら、それも含めて考えていこうかな、なんて言うと、
また「宣戦布告か!?」みたいに言われてしまうかな(笑)。

イメージ

今、ぼくが自分で現実にイメージしているのは、
5年後くらいのこと。
今ってほんとに、5年後の任天堂が、
もっときれいに言えば、業界がどうなっているか、っていう
ビジョンが、すごいいると思うんです。
うちの社長も、それは考えてはるやろうし。
それは絶対に、力勝負という次元では出来ひん話やし。
で、「目先の仕事を毎日コツコツとやりながら、
5年後の任天堂を考えてるんですよ」っていう話を、
ヨーロッパではしときました。
しょうがないし(笑)。
 
それは別に、煙に巻くつもりとちごて、
ほんとに自分自身のことで言ってもね、
5年後の自分自身、ということのほうが
大きいかもわからんけども、
5年後の自分は独立してるのか、5年後の自分は何を作ってるのか。
そのときゲーム機ってのはどうなっているのか、とか、
ゲーム機はパソコンに駆逐されてるのか、とか、
じゃあ、家庭用ゲーム機ってのはこれで終わるのか、とか。

いろんなこと言われてきてますけど、
そういうことじゃなくなってきたと思うのですよ。
ほんとに。

イメージ

一過性のもので、単なるブームとか、
飽きたら終わりよね、とかいう程度のレベルを
越えた普及になってきたと、ぼくは思うんです。
だから、「たまごっち」のブームが終わったら、
メーカーはどうするんでしょう?っていうような
スケールじゃ、なくなってきてるでしょ、今は。
それで、プレステ2をどう思うか、って聞かれてもね、
それは数ある選択肢のうちのひとつだし、
そして歴史の流れのなかのひとつになるわけで。
で、そのときに、
任天堂がまったく必要なくなった、っていうことに
ならないようにするのが、ぼくらの仕事なんで。


イメージ

そう考えると、今、明らかに、ゲームに驚きがない。
グラフィックにしか驚きがない、っていうか(笑)。
でも、細々とではあるけど、実現は出来てるんですよね。
ゲーム自体に驚きがあるものが出て来ていて、
それが、最近はプレイステーションのほうが多いやないか、って
言われることが、ぼくらには問題で。
じゃ、プレイステーションを作ってるひとたちに、
それがはっきり見えてるかというと、見えてない。
 
任天堂というところは、そのあたりを、
ハードも全部ひっくるめて、
その時代時代にボトボト落としていけるってのが、
強みであり、面白さなんでね。
そうすると、社長が言うように、
「次の高性能ゲーム機は、」っていう話だけを
任天堂がしてるのは、
あまりにも任天堂らしくない、面白さがない、
っていうことに、つながってくるんですよね。
すごくカンがいいんですよね、うちの社長は(笑)。
ようわかってはります。ゲームはしはらへんのにね(笑)。



あぁ、今回もこんなに中身の濃いインタビューを
お届けできることが、ほんとに嬉しい。自慢しちゃう。
宮本茂が語る、第4回。いかがでしたか?
次回はいよいよ、噂の高性能ゲーム機ドルフィンの話を
お届けします。絶対秘密の開発環境のなかで、許される
ギリギリまで教えてくれたとっておきの話!お楽しみに!!


1999-11-5-FRI

BACK
閉じる