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01 (第25回の1)
ファイアーエムブレム〜封印の剣〜
そのCMを誰が作ったか? 倉恒良彰インタビュー その1

“スタコラ逃げろ、ドツボにはまる”
 
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いまから12年前、1990年9月。
夕闇の中にすっくと立つ僧兵、尼僧、精悍な白い馬。
それはオペラの舞台。背景には巨大な盾と矛。
中世の甲冑や僧服を身にまとった50人あまりの人々が、
荘厳なフル・オーケストレーションにのって
完ぺきなオペラ唱法で歌いだす。
♪ファイアーエムブレム……
このゲームのコマーシャルを覚えている方、
多いのではないでしょうか。
じっさい、昨年行われたある会社が行った
「印象に残るゲームCM」の調査で
12年前のこのCMが、
ベスト10にランクインしているのです。
 
 
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なぜこのCMが、それほど記憶されているのか?
それは、ゲームのCMとしては
画期的な作り方をしていたからにほかなりません。
まず、「歌」でゲームの世界観を表現すべく
本物のオペラをゲームのCMに導入したこと、
そして、高尚に見える舞台をつくりながら
“かっこいい”ばかりでは“ない”表現をしていること。
そのことが、当時の話題をさらいました。
覚えていない、あるいは、まだ小さくて知らなかった、

という方は、まずはこれを見て・聞いてください。
12年前のCMです。

(ウインドウズメディアプレイヤーが必要です。
 インストールの方法については、
こちらをご覧ください)
 
任天堂ファミリーコンピュータのソフト
「ファイアーエムブレム 〜暗黒竜と光の剣〜」のCMです。
歌詞、聞き取れましたか? 書き起こしてみましょう。
こんなんです。
 
♪ファーイアーエムブレム
 手強いシミュレーション
 勝ってくるぞと 勇ましく
 危なくなったなら スタコラ逃げろ
 驕れる者は ドツボにはまる♪

 

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スタコラ。ドツボ。……ううむ。
オペラの歌詞にユーモアをぐぐっと入れることで
荘厳なゲームの世界観を身近なものに引き寄せたこのCMは
ゲームの大ヒットとあいまって
いまも語られる任天堂の名作のひとつになっています。
 
なぜ12年も前の話を持ちだしているのかって?
それは、来る3月29日に発売される
ファイアーエムブレムシリーズの第6作
任天堂ゲームボーイアドバンス専用ソフト
『ファイアーエムブレム〜封印の剣〜』の
CM(3月16日から4月7日までオンエア)に
ヒミツがあるのです。

 

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「そんなこと言われても、見ないとわからないよ〜」
その通りですね。それでは、とくべつに、
任天堂さんから入手した新作CMも公開しちゃいましょう!

こちらをクリックしてごらんください。
 
さあ、2つ見比べて、どうですか?
この2作をつなぐ裏には、どんなドラマがあるのでしょう?
 
樹の上の秘密基地、新シリーズは
「ファイアーエムブレム〜封印の剣」の
CM制作秘話と、ソフトの開発秘話をとりまぜて
お送りします。
まずは、CMをつくった
倉恒良彰さんのお話をお聞きしていきます。

 

 


イメージ ●プロフィール
【倉恒良彰 くらつね・よしあき】
米国海兵隊の演習風景をパロディにした
「ファミコンウォーズ」のCMから、
スチャダラパーを起用した
「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」など
印象に残る任天堂の多くの広告を制作してきた
クリエイティブ・ディレクター。現・任天堂企画部所属。
なかなか表に出てこなかった、謎の人物でもある。

 
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■12年前のCMの話からしましょうか。

 
ゲームのCMをつくるときには
まずROM(製品になる前の最終段階のもの)をプレイして
その世界をつかんだうえで、企画をするんです。
ところが「ファイアーエムブレム」にかんしては
あまりに面白すぎて、はまってしまって、
ラストで感動で泣いてたりして(笑)、
気がついたら「こんなCMをつくります」と
任天堂のエライ人にプレゼンテーションする日の、
3日前、だったんです。
ウハハハハ、て、笑い事じゃないですよ。
ほんとに3日前。
これは合宿して考えるしかない、ということで
演出家の金巻氏の家に行って、
コンを詰めて考えたんです。
中世、ヨーロッパ、王国、剣、……というようなことから
正攻法で行けばその世界を端的に表すような映像を撮る、
というような話になるんですけれど、
それにはあまりにも労力と予算がかかってしまう。
けっこう息詰まる三日間で、
なにかヒントはないかと古典にあたったり、
資料をむさぼるように読んだりしていたんですが
そのなかに、オペラのレーザーディスクがあったんですね。
見たのが、ヴェルディの「ナブッコ」です。
そのとき「これだ」と思った。
「ファイアーエムブレムの世界をオペラで歌わせたら
 面白いんじゃないだろうか?」
というのも、ゲームの音楽がとてもよくできていて、
もう、ひたすらやりこんでいましたから、
アタマについて離れないほどだったんです。
そこに歌詞をつけてみようと。
 
あの歌詞、面白いって言われますけれど、
ぼくとしては、かなり正直に
ゲームの世界を再現したつもりなんです。
「スタコラ逃げろ」というのは、ファイアーエムブレムを
大団円に持っていくためには、
途中で「退散する」ということが、
戦い方として重要になってくることを表しています。
それに、自分のキャラクターだけが強くなってしまって
回りがついてこなかったら、
戦いに挑んでも負けるわけですから
やっぱり「上手に逃げる」ことが大事なんですね。
「ドツボにはまる」というのは
これ、ゲームやっていただいたらわかると思いますが
一人が死んでしまうと
どこまで進んでいてもやりなおしになって、
延々と抜け出せなくなる。
正直な歌詞でしょう?(笑)

 

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■さて、実際に制作する段になって。
 
コンテをつくって歌詞をつくって
任天堂にプレゼンテーションしました。
その場で、非常に評価してもらって、
その場にいた全員で「これはいける」という確信が生まれ、
僕も「心に残るCMがつくれるぞ」と
決意を新たにしたんですが、
じつは、たいへんだったのは、そこからでした。
「ファイアーエムブレム」の第一作には
約50人もの登場人物がいます。
それを全員出して、歌わせたいというのが僕の考えです。
しかも、本物のオペラのムードを出すために
口パクはやめて、実際の歌手を使いたい。
となると、衣装もセットも本格的にしたい。
いまのようにCG合成が簡単にできる時代ではありません。
背景はどうする、照明はどうする、馬はどこで借りる、
だいいちオーケストラはどうしたらいい?
と、じつにたくさんの課題をクリアしないと
オペラでCMをつくる、なんてことができないんだと
わかってきたんです。
でも僕は「全部本もの」でやりたかった。
そこまでやって、はじめてこのコンセプトは活かされるし
ファイアーエムブレムの世界を伝えることができるわけです。

 

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これは新作の画像


出演はオペラの「二期会」にお願いすることになりました。
 
全員が歌える人たちです。
指揮者の役は、最初、それらしければいいだろうと
役者の方にお願いしようとしたんですが
やっぱり、何かが違うんですね。
それでプロの指揮者の方に来ていただいた。
オーケストラも、相談してみると、これだけの楽曲だと
少人数のものではなく、フルオーケストラでやりましょう、
ということになった。
もう、予算、音楽だけでン百万、の世界です。

 

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これは旧作の画像
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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衣装でも困りました。
甲冑ひとつにしてもたいへんなんです。
貸してくれるところがない。
アメリカやイタリアなら
そういう専門の会社もあるんでしょうが、
日本で、50人分の中世の衣装を
まとめて用意できるところなんてなかなかないわけです。
室町とか戦国時代の甲冑なら揃っても、
中世ヨーロッパのものはない。
でも、探しに探して、
甲冑の衣装専門の業者をみつけることができた。
本物の金属では、とてもじゃないけど重くて
声が出なくなるので、あれ、シリコンなどでつくられた
精巧な「衣装」なんですよ。
馬は動物プロダクションから借りて、
これで人馬は集まった。
 
こんどは撮影の演出です。
たとえば、色調。
僕らが目指したのはオペラ・ナブッコの世界ですから、
重厚で、威厳のある、それらしい色で撮りたいわけです。
誰に頼んだらその色が出るか? 周りにはいない。
そこで、黒澤明監督と長く仕事をしてきて、
黒澤さんが晩年は「黒澤の目」として重用した
佐野武治さんという方にお願いしました。
美術の雲も、背景の雲は舞台美術で雲を描かせたら日本一、
という人にお願いしている。贅沢でしょう?(笑)
CM撮影、ましてやゲームのCMでは絶対に考えられない
スタッフを集めて、撮影したのが、
12年前の、あのCMだったんです。

 

 


FCソフト『ファイアーエムブレム』CMスタッフ
●クリエイティブ・ディレクター 倉恒良彰(第一企画株式会社)
●プロデューサー 永井健(21インコーポレーション)
●アシスタントプロデューサー 植田直樹(21インコーポレーション)
●プロダクションマネージャー 柿谷実(21インコーポレーション)
●演出 金巻康朗(21インコーポレーション)
●撮影 押切隆世(アドラン)
●照明 佐野武治(テイク・ツー)
●舞台照明 宮下順一(株式会社共立)
●美術 金井大道具株式会社
●背景 アトリエ雲
●衣装 アトリエHINODE
●甲冑 アトリエカオス
●出演 二期会
●音楽 秋田新一郎(HELLO GOOD−BYE)
●動物 湘南動物企画
●ロケ地 千葉県市原市市民会館大ホール
※所属・会社・団体名等はすべて当時のものです。


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これも新作の画像

■なぜオペラだったのか。2002年ににつながるもの。
 
1990年というのは
スーパーファミコン登場の年ですが、まだ、
当時のゲームは2Dで、ユーザーが想像力をたくましくして
世界観を自分たちでつくりあげていく、という時代でした。
いまはゲームの中にムービー(動画)がふんだんに入って
世界観を伝えやすくなっているけれど、その役割を
広告が代わりにしなければいけなかった時代です。
そういう思いで、ファイアーエムブレムの世界を
動きのある「オペラ」の世界に持ち込みました。
このゲームのヒットで、
「歌をゲームのCMに」という構想が広がって、
のちにスチャダラパーが歌った
「ゼルダの伝説」へとつながります。
その前に米国海兵隊に歌わせたCM
「ファミコンウォーズ」もあって、、
歌で世界観をあらわす三部作になっていて、
それがいまオンエアしている
『ファイアーエムブレム〜封印の剣〜』
のCMにつなっていくんですが、
そのあたりの話は、これから、ゆっくりしましょう。

 

 


GBAソフト『ファイアーエムブレム〜封印の剣』CMスタッフ
●クリエイティブ・ディレクター 倉恒良彰
●CMプランナー 森本昭彦(ASATSUーDK)
 清藤祐一(ASATSUーDK)
●プロデューサー 柿谷実(21インコーポレーション)
●プロダクションマネージャー 加賀谷雅之(21インコーポレーション)
 黒川幸佑(21インコーポレーション)
●演出 轟木一騎(21インコーポレーション)
●撮影 西村幸男
●照明 上木實
●美術 清水明彦
●衣装 アトリエHINODE
●甲冑 アトリエカオス
●メイク ラピス
●出演 二期会/谷口賢志/森脇恵里子
●キャスティング エム・キャスト
●動物 アドニス動物企画
●CG 白組
●編集 IMAGICA

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「ファミコンウォーズ」のCMも
「ゼルダの伝説」のCMにも
いまにつながるドラマがあった。
そのあたりのお話や、最新作ファイアーエムブレムのCMの
撮影裏話など、については、
次回からのお楽しみにさせてください。
次回は、倉恒さんのお話とともに、
ソフト開発を行った任天堂開発第一部
西村健太郎さん、インテリジェントシステムズの
成広通(なりひろ・とおる)さんのお話も
お届けしますよ!
更新は来週末の予定。どうぞお楽しみに!
 
  2002-03-16
 
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