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02 トランプ・下の巻
時間も空間も環境も越える
個人に訴えるものとしては
トランプほど強いものはないのかもしれない

 
イメージ 任天堂、というと
キューブ、64、ファミコンなどを
連想しますが
その歴史をひもとけば
ボードゲームや電子トーイなど、
じつにさまざまなものを
世に送り出しています。
それらの源流となるゲームの元祖、トランプと花札は
いまも任天堂の名前をつけて
売り場に並んでいます。
昭和46年に入社し、
トランプや花札をはじめ
さまざまな玩具のデザインを手がけてこられた
任天堂デザイナー第一号、
山田孝久さんのお話を伺います。
 
 
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山田孝久さん
 
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こちらが表面
こんにちは、山田です。
前回はトランプの裏面のデザインについてお話しましたが
今日は表(おもて)面の話をしましょう。
表は、数字やマーク、
キングやクイーンがプリントされている面です。
このデザインは
昔からある、同じパターンです。
ずっと変わらない。
ひとつの伝統みたいなものですね。

 
──もともとは誰が考えたんですか?
 
それだけは、わかりません(笑)。
きっと外国版を参考にアレンジして
任天堂が最初にデザインしたと思うんですよ。
それを他の業者が真似して作ったから、
日本のトランプは
だいたいこのパターンで定着したんですね。
まあ各社で、キングやクィーンなどの
顔の角度などが微妙に違いますが。

 
──そこに置いてあるものはなんですか?
さっきからとても気になっていたんですが(笑)。
 
トランプの木(き)版です。
相当古いものですよ。
昔はこれを使って印刷していたんです。
おそらくこの版ひとつが
4色のうちの1版なのかもしれないね。

 
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手彫りのトランプ木版
 
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おそらくこの版はアカ版

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
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──ああ、アカとかスミ版の。
版画の世界だ。
そうか。当時はこうだったんだ。
これは手彫りですよね。
はぁー、すごい。
 
相当昔ですよ、これを使っていたのは。
表面に関してはね、
トランプの担当を長くやっていると
お客様からいろんな質問が来るんです。
たとえば、なんで数字が13までなの、とかね。

 
(笑)
 
──そういえば、わかりませんね。
数字って、だいたい10進法か12進法ですし。
 
区切りのいい10か、
暦や時間などの考えかたで12。
日本の花札だと、12進法なんですよ。
12か月で札が構成されている。
13って、ちょっと半端なかんじがします。

 
──そうですね。
 
そういった質問に答えるため、ということもあって、
いろいろ研究したんです。
トランプのこと、花札のこと。
で、13はね、どうも暦みたいなんですね。

 
──暦? 12ではなく13が暦?
 
トランプは、ジョーカーを除けば、合計52枚。
1年間がまさしく52週なんです。

 
──おお。
 
だから、ひとつの季節が13週なんですよ。
3か月分がね。
放送業界でもよく
番組が13週でワンクールとか、いいますね。
こういった西洋暦の数字のとらえかたから
13というのが出てきたんですね。

 
──おもしろい(笑)。
そういえば、外国製のスケジュール帳には
年間を通しての週数が
カレンダーに書いてあったりします。
 
あとはね、
ババ抜きはどうして「ババ」っていうのか(笑)。
ジョーカー抜きやわな、普通なら。

 
──なんでババというんだ。
ジョーカーなのに(笑)。
 
じつは、ジョーカーそのものは
日本で作られたものなんですよ。

 
──えっ。そうなんですか?
だからさっきの52週に
ジョーカーが含まれていないんだ。
 
タロットカードあたりからの流れでできたものかと
思ったけど、そうでもない。
ジョーカーっていうのは、日本人が
作ったものらしいです。
昔、海外に行った日本人が
ババ抜きみたいなトランプゲームを
やっているのを見ていた。

 
──ええ、ええ。
 
引いてはいけないカード、
いまでいう「ババ」ですね、は
なにかと思って見ていたら
クイーンだったらしいんですよ。
西洋では4枚あるクイーンのうち、
1枚をはずして遊ぶらしいんです。
3枚なんですね、クイーンが。
そして1枚だけ最後に残る。これが「ババ」だと。
それを持っている人が負けというルールです。
これをオールドメイドと呼ぶんです。

 
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西洋ではクイーンがババに


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
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──はぁーっ。
クイーンのオールドメイド、年をとったメイドさん。
だからおばあさんで
ババになったと(笑)。
 
おばあさんをひとりはずして「抜いて」遊ぶから
ババ抜きだと、こういうわけです。
名前だけはそのままで
日本ではジョーカーを勝手に作り出して
ジョーカーを使ってババ抜きするようになった。

 
──トランプはまったくそのまま
西洋のものかと思ったら
そうじゃないんですね。
じゃあ、逆に
いまの西洋のトランプに、ジョーカーは?
 
ありますよ。
逆輸入っていうんですかね(笑)、
逆に定着しちゃったっていう、そういう説があるんです。
日本のマンガや映画などの
トランプのカットには
ババ抜きが使われることが多いらしいですよ。
それだけ日本人はババ抜きが好きだと
いうことなのかな。
じつに一般的なゲームになった。
わかりやすいからね。

 
──ちっちゃい子どももできますしね。
でも、トランプのゲームの「流行り」はありますね。
ババ抜きが流行った時期とか、
ポーカーが流行った時期。
 
そうですね。いちばん記憶に新しいのは
大富豪ゲームですね。
大フィーバーだったんですよ、あれ。

 
──僕もやりました。
何年かに一度、トランプのブームが来ますね。
 
そして、一度流行ると
2、3年の間ずーっと流行ってるね。

 
──流行ると長いですよね、トランプって。
トランプの遊びかたは
いったい何種類ぐらいあるんですか。
 
たくさんありますよ。
2、30は軽く超えますね。

 
──知らない遊びもたくさんある(笑)。
 
代表的なものでも
あまり知られていないものが多いですね。
バカラなんかがそうですね。
日本ではあまりポピュラーではないですけど、
ラスベガスあたりだとよくやっていますよね。
ギャンブルに使われるぐらいだから
奥の深いゲームでは
あるんでしょうがね。

 
──単純かつ奥が深いんですよね。
 
駈け引きがありますからね。
ポーカーとか、ブリッジぐらいなら
オーソドックスですから
ほとんどの人はできるんじゃないかな。

 
──いまの子どもたちって、できるのかな。
 
あまり知らないでしょうね。
家族で遊ぶということ自体が
ないのかもしれません。
遊びは友達同士でやっちゃうものだから、
テレビゲームのほうが
とっつきやすいでしょう。
64(NINTENDO 64)で
4人対戦のゲームが流行っていますが、
たぶん、昔はトランプでやっていたことが、
そうなったんですね、きっと。

 
──逆に、パソコンには、
ひとりで遊ぶトランプが必ず入っていますよね(笑)。
 
ああ、入ってますね(笑)。
単純なやつが。
時間つぶしみたいな感じでね。
絵柄も普遍的なら遊びかたも普遍的。
世界も時間も超えられるからね。
個人に訴えかけるのには、これ以上に強いものは
ないのかもしれないね。

 
──この図柄は、誰に聞いても
「トランプ」ですものね。
スペード、クラブ、ハート、ダイヤの
4つの紋章にはなにか意味があるのですか。
 
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4つの紋章

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ダイヤのキング
 
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日本出身のジョーカー
昔の西洋の職業をあらわすという説があります。
あと、キングのうちダイヤだけが
なぜ横を向いているのか。

 
──あ、ほんとだ。これだけ真横を向いている。
 
それぞれのキングやクイーンには
モデルがいたらしいですね。
フランスのトランプを見ますと、
それが誰なのか、全部名前が書いてあります。
ルイ何世とか、カール大帝とかね。
ダイヤのキングはジュリアス・シーザーだそうです。
なぜ横を向いているのかなど、くわしいことは
NOM(Nintendo Online Magazine)のページ

https://www.nintendo.co.jp/nom/9909/teach/page01.html
で、どうぞ。
 
──ジョーカーは? 
おもしろい図柄ですよね。
 
ジョーカーには
昼と夜があるんです。

 
──ジョーカーが日本で生まれたのは
意外でしたね。
 
いかにも向こうのもののような顔をして(笑)。
 
──ハートのジャックが
ハートマークを見つめているのには
なにか意味がありますか?
 
恋をしているからとか(笑)。
いやー。そこまでは知りませんわ。
でもきっとなにかあるんでしょうね。
モデルがいたということで、
それぞれのおもしろいエピソードが
たくさんあるんだと思います。

 
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ハートのジャック


 
 
 
 
 
 
 
 
 

──そういう質問がいろいろ寄せられるんですね。
山田さんはお電話で答えたりして
くださってるわけですね。
 
はい。そういうこともあります。
わからないことが多いですけどね、
どうしても。
ああ、そうだ。ひとつ、おもしろい質問を
いただいたことがあるんです。
トランプの値段はどうやって決めるの、と
いうものなんですよ(笑)。
同じようなデザインなのに、と。

 
──すごい(笑)。なるほど。
 
800円もありゃ1,000円もあると(笑)。
600円もあるじゃない、と。

 
──そういえばそうですね。
 
これは、基本的にはやっぱり
裏面デザインの
印刷の色数によって違うんですよ。
2色刷りか4色刷りかによって
値段が変わってくる、ということです。

 
──製作費用が違うんですね。
 
トランプを入れるケースが違うから、
ということもあります。
ケースにもいろいろ種類がありますので。
あとは、トランプそのものの素材。
紙とかプラスチックとかやね。
そして最後に、フィーリング、
というのもやっぱり(笑)。

 
──(笑)フィーリング。
 
フィーリングというのは
やっぱり大事なんですよ。
デザインにおいても値段においても、
何においてもね(笑)。

 
  
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ジャック、クイーン、キングの
あのアンニュイな顔はいまでこそ
スタンダードだけど
発売当初はたいへんなインパクトだったのでしょうね。
歴史上のモデル、暦、職業と、
西洋文化に密着したカードだったところに
日本の生んだ誇るべきジョーカーが加わって
家庭に浸透していったのですね。
さて、次回は花札の巻。
かっこいい札がたっくさん登場しますよ。
お楽しみに!
 
  2001-06-29
 
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