今年『ナイン』は大当たりする!
去年は知らなかったくせに、応援します。


シェフ
初日まであと3日ですよ!

べ3
そうですよあと3日ですよ!
シェフさん宿手配しました?

シェフ
シアターBRAVA!の目の前の
宿をおさえましたよ!
べっかむ3新幹線は?

べ3
まだです!
だいじょうぶですよ、
5日の下りの新幹線なら。
(のんびり)

シェフ
ま、大丈夫かもしんないけどさ、
あのう、読者のみなさまも、
うかうかしてると売れちゃいますから、
公演チケットはお早めに。

べ3
大阪の「ほぼ日」枠は
学生席は売り切れとなり、
初日、8日、楽日はもう
ぎりぎりだそうです。

シェフ
おすすめは7日(土)の18時の回と
9日(月)の19時の回だそうです。
くわしくはこちらをごらんください!

べ3
そうだ、去年、観たかたから
ものすんごく熱いおたよりを
いただきましたので
ちょっと長いですけど紹介しますね。
=
昨年、観たんですよ、『ナイン』。
そりゃあもう、美しく夢のような舞台でした。
なんといっても舞台美術が素晴らしい。
物語自体、グイドという映画監督の妄想と
現実が絡まり合って進んでいるのですが、
見ているこちらが、彼のイマジネーションと
同調しているかのような錯覚を覚えるほど。
スパのシーンは、フェリー二の映画
『甘い生活』の泉を思わせ、
これを目の前で見られるというだけでも、
もう夢心地です。
そして、女性たちが素晴らしい。
男性的魅力と才能に溢れた男性を
夫に持つ、理知的な妻。
全身全霊をかけてグイドを愛し、
彼の愛を渇望する妖艶な女。
グイドを才能を心底から認め、
戦友として彼を愛するプロデューサー。
芸能界の荒波の中を生き抜いてきた、
強い意志を持つ女優。
……などなど、どの女性たちも
魅力的に描かれています。
もちろん、演じる女優さんたちの個性が加わり、
全キャラクターがリアルに描かれ、
彼女たちの魂を感じることができる作品。
女性なら、絶対に彼をとりまく
誰かに自分の身を重ねて見られ、
それらすべてが重なり合って、
観客それぞれの中で作品が昇華されていくような。
そんな心地にさえなるミュージカルでした。

ああ、こんないい女たちに愛されるグイドは、
さぞかし魅力的な男性に違いない!
と思っていたら、今回の別所さんの起用。
なるほど! と膝を打ってしまいました。
湧き上がる情熱、匂い立つ色気、
満ちあふれる人間的魅力、
そのすべてを兼ね備えた男性なんて、
なかなかいませんからね。
昨年以上に楽しみになってきてますよ。

ちなみに、ルヴォー氏といえば、
現在ブロードウェイで、
彼の演出作品が2つも上演されているんです。
ひとつは、ミュージカル
『屋根の上のヴァイオリン弾き』。
そしてもうひとつは、ストレートプレイ
『ガラスの動物園』。
じつは、昨日までNYにいた私は、
この2作品観たさに渡米してたのです。
感想はといえば、そりゃあもう、
どちらも最高の出来でしたよ。
ストーリーはどちらも、
けっして楽しいとはいえない暗さや
物悲しさを抱えているんだけれど、
そこに焦点をあててはおらず、
登場人物それぞれのなかにある心の動き、
喜び、悲しみ、怒り、葛藤、悩み、
不安とか、そういったものを
丁寧に丁寧に描き出すことで、
すごく深みのあるものに仕上げておりました。
どちらも、超メジャー作品ですけれど、
ルヴォー氏はこれまでの上演されていたものに
捕らわれることなく、
戯曲そのものとルヴォー氏が向かい合い、
自らの視点で読み込み、
解体し、構築し直して作り上げている、
とでもいいましょうか。
けっして古くない、と感じさせるんですよね。
すばらしい演出家だと、
あらためて実感させられました。ほんと。

それだけに、やはり昨年の
空席状況はほんと残念でなりません。
こんなに素晴らしい演出家が
日本で作品を作り上げているんだから、
観ないと損! ですよ。
もしかしたら、バンデラスが出演した
ブロードウェイ版よりもさらにさらに
進化を重ねたすごいものが
観られるのかもしれないと、
期待感に胸躍らせてます。
ああ、なんだか興奮し過ぎて
長くなってしまいました。
すみません。
最後に、『ナイン』を取り上げるところが、
やはりほぼ日って素敵、と付け加えておきます。
ブラヴォー!

(MLさん)

べ3
ありがとうございます!
今回 は、MLさんも絶賛されていた
美しく夢のような舞台、『ナイン』の
舞台美術についてレポートいたします!

               
第十回 巨大壁画の女神が出現?!
               

4月29日、東京での最後の稽古。
演出家は今回のリハーサル中に何度か口にしたことを、
最後の稽古場でも繰り返し、締めくくりました。
「今までぼくが知るなかで、
 このカンパニーはいちばんだ!」
そして演出家はそのまま大阪へ。
キャストは30日と1日に別れての移動です。

大阪シアターBRAVA! では、
すでにセットが建ち上がっています!
美術はスコット・パスク。
衣裳・小道具はヴィッキー・モーティマー。
ヴィッキーは演出のデヴィッド・ルヴォーとともに、
tptでずっとコンビを組んできた世界的才能です。
昨年日本では、野田秀樹さんの『赤鬼』
(ロンドン・ヴァージョン)も手がけています。

『ナイン THE MUSICAL』のセットは、
一見とてもシンプルです。
でもよく見ると、現代と古代がミックスされた、
不思議な雰囲気を漂わせています。
そして、後半にはスペクタクルが‥‥

初演時に来日したブロードウェイのスタッフは、
日本人スタッフがたった3日でセットを
建て込んだことに驚きの声を上げました。
「彼らは天才だ!
 ブロードウェイでは最低1週間はかかるのに!!」
しかも巨大壁画「三美神」の出来ばえには、
ブロードウェイよりすばらしい、と。

「三美神(スリー・グレイセス)」というのは、
イタリア・ルネサンスの巨匠ボッティチェリが
ローマ神話を題材に描いた、
『プリマヴェーラ(春)』のなかの三人の女神です。
『プリマヴェーラ(春)』 左側の手をつなぐ三人が「三美神」。左から、愛・貞節・美の女神。
キューピッドが矢で射ようとしているのは、中央の女神で貞節の不確かさを表しているそうです。

『ナイン THE MUSICAL』の後半、
この巨大壁画「三美神」(約12メートル!)が出現し、
さらに大量の水(なんと11トン!!)を使っての
スペクタクル・シーンがあります。
演出家はこの大量の水について、
三美神の「哀しみの涙」であり、
映画監督グイドが女性たちから得た、
「芸術的ひらめきの洪水」とも言います。
(ここは見せ場のひとつです、
 これから観てくださるかた、
 このシーンしっかり観ていてくださいね、
 同時にいろんなことが起きてますから!)

で、なぜ、ボッティチェリなのか?
それは観客席のひとりひとりの想像力に
まかされることだと思います。
ですが、絵画に疎かったぼくが、
先に知っていればもっと楽しめたと思うことを
おせっかいながらお話ししちゃいます。

『ナイン』の舞台はイタリア。
ローマ法王のお膝元、カトリックの国です。
「ローマ」も「カトリック」も、
とくにユダヤ人を中心とする芸術文化圏からは、
嫌悪や憎悪の対象とされてきました。
ローマ・カトリックには、
男性優位の最も保守的な宗教として、
女性の地位向上を妨げて来た歴史があります。
(『ダ・ヴィンチ・コード』がそういう話でした!)

カトリックの社会に生きたボッティチェリが、
ローマ神話の世界を題材に選んだのは、
厳格な宗教規範と正面衝突することを避けつつ、
女性美を思い切り描く手段だったからでしょう。
そして『プリマヴェーラ』のなかに、
春の訪れと喜び、愛と人生を、
芸術的寓意を込めて表現したのです。

ボッティチェリの「三美神」は、
女性美の象徴であるとともに、
映画監督グイド・コンティーニの
芸術を創り出す魂の象徴として、
『ナイン』の舞台美術に選ばれたのだと思います。


また、「三美神」は、
グイドが求める三人の女性にぴたりと重なります。
愛人カルラ、妻ルイザ、女優クラウディア。
幼少から厳しいカトリックの教育を受けたグイドが、
人生の難関に打ちあたるたび救いを求めたのは、
教会が教えた神さまではなく、「女神たち」でした。

女性を讃えるミュージカルであり、
世界でいちばんセクシーなミュージカル──
デヴィッド・ルヴォー演出の『ナイン』にとって、
ボッティチェリの「三美神」は、
これ以上ないと言える象徴です。

(「三美神」以外にも、3という数は、
 『ナイン』には意味深い数字のようです。
 前半、甘い妄想に漂うグイドは、
 「きみとさえいれば」と歌いながら、
 3人の女性──ルイザ・カルラ・クラウディアに
 囲まれます。
 できてもいない映画の構想を披露する場面では、
 3人の女性──リリアン・リナ・ネクロフォラスに
 追いつめられます。
 その構想に登場するのは、
 3匹のカプチン・モンキー──
 カトリック僧に似たサル、だったり‥‥)


セットの「三美神」を描いたのは、
美術工房拓人の松本さん。(正座している人です)
「ランちゃん、スーちゃん、ミキちゃん、
 (三美神をこう呼んでます)調子はどうですか?
 ちょっとキズモノになって帰って来たなー、
 大人になっちゃたねぇ」

去年秋のとある深夜、
壁画から水が湧き出るシーンのテストのため、
松本さんは脚立の上から大きなじょうろで
水をかけていました。
巨大な壁画は何パーツも分かれているので、
継ぎ目に凸凹があると、
水は飛び跳ねて壁をつたっていきません。
「あっスーちゃんがやばい!」
「ランちゃんは問題なし!」
時間に追われ緊迫した状況のなか、
現場が和んだことを思い出しました。
ブロードウェイを超えた、
日本の「天才」スタッフのひとりです。



昨年秋のステージ写真(撮影=星野尚彦)です。
さあ、あとすこしで初日を迎えます。

(つづきます!)


2005-05-03-TUE
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