SUPER FOLK SONGとSUPER FOLK SONG RETURNED 前編 誰に向かって、書いたのか?
矢野顕子さん作曲+歌/糸井重里作詞の
「SUPER FOLK SONG」の続編となる
「SUPER FOLK SONG RETURNED」が
このたび発表されました。
そこで、37年という時間を経て2作目を作詞した
糸井重里に話を訊くことにしました。
(聞き手はほぼ日スガノがつとめます。後編はこちら
「SUPER FOLK SONG」をご存知ないみなさんも、
まずは2曲の歌詞をお読みください。







── (聞き手 ほぼ日スガノ)
最初の「SUPER FOLK SONG」が発表されたのが
1980年のアルバム、
糸井さんの「Penguinism」です。
そこからじつに37年経ってるんですが。
糸井 そうなんですか!
── はい。
そこから37年を経て書かれたのが
このたび発表された
「SUPER FOLK SONG RETURNED」です。
糸井 はぁぁ、そんなに経ちますか。
※註
「SUPER FOLK SONG」は、
1980年に発売された
糸井重里の「Penguinism」の収録曲でした。
谷岡ヤスジさんの漫画の風景となる「村(ソン)」を
描くように糸井が書いた言葉に、
矢野さんはひと晩で曲をつけたといいます。
映画『SUPER FOLK SONG〜ピアノが愛した女』の
予告映像で、
矢野さんが歌うこの曲をお聴きいただけます。
矢野さんがどういう曲をつけたのか、
どう歌ったのかを、ぜひごらんになってみてください。
── 1980年の「SUPER FOLK SONG」は
ミドリとマサルが駆け落ちする話でした。
ロミオとジュリエットになぞった、
恋愛のはじめの、
いわゆる「ほれたはれた」のドラマが
描かれていました。
糸井 はい、そうですね。
── 勢いあまって駆け出したふたりを、
どうかみなさんでハッピーエンドにしてください、
という歌だったと思います。
糸井 はい、はい。
── でも、今回の
「SUPER FOLK SONG RETURNED」は、
おなじ「ハッピーエンドにしてください」でも、
ちょっとようすがちがいます。
※註
続編となる「SUPER FOLK SONG RETURNED」は、
矢野顕子さんの40周年記念コンサートツアー
「ふたりでジャンボリー」の
糸井重里ゲストのステージで発表され、
2017年9月18日に配信リリースが開始されました。
11月29日に発売される
7年ぶり5作目の矢野さんの弾き語りアルバム
「Soft Landing」にも収録されます。
アルバムの予告映像で、歌の一部を
お聴きいただけます。
糸井 そうですね、そりゃあ、37年も経っていますし。
けれども単純に、1作目のこの子たちが
「その後どうなったかな?」と考えたら、
自然とこう書くことになるとぼくは思ってます。
まずは「あんがい別れてなかったんだ」ということが
ありますよね。
── 別れてないですね。
糸井 ま、別れてないことを前提にしてしか、
続きは書けないですからね。
だとしたら何があったんだろう? 
それを書いたら、自然とこうなります。
── 矢野さんと糸井さんの作った「春咲小紅」の歌詞が、
2作めの「SUPER FOLK SONG RETURNED」に
顔を出します。
散りばめられた懐かしい言葉を聴いて、
糸井さんと矢野さんの長年の友情を
勝手に感じてしまいました。
糸井 うん、この歌はみんなが知ってるし、
なにしろ作家がいっしょだから、
「長年つきあってきたね」という気持ちが
入ってしまいますね。
── じんとしました。
糸井 こういう仕事は楽しいですよ、ほんとうに。
1作めの「SUPER FOLK SONG」を作ったときから
おもしろかったけれども、
2作めの歌の構造を1作めに似せたところから、
遊びとしておもしろかった。
1曲めの「SUPER FOLK SONG」は
I READ THE NEWS TODAY OH BOYという歌詞から
はじまるけど、それはビートルズです。
── A Day In The Lifeですね。
そして2作目には、おなじくビートルズの
When I'm sixty fourが出てきます。
糸井 これで、おんなじ舞台、劇場でやりますよ、
ということを示してるんです。
これを入れようと思っただけで
ぼくはもう、にやにやしはじめていました。
「さて、どうしようかなぁ」なんて思いながら、
頭の一行をそのまま書いたので、
あとはどんどん作れたというわけです。
── 頭の一行というのは、まったく同じ、
「恋に遠慮はいらないけれど」ですよね?
糸井 それを書けば、あとは書けると思った。
── おんなじ一行で。
糸井 出てきちゃうんですよ。
── はぁぁ〜。
次の「愛だフナだも 顔をだす」のところで、
ああ、このふたりにはいろんなことがあったんだ、
ということがわかります。
糸井 ええ、わかりますね。
フナっていうのが
ワナじゃないかな、とかね。
── 怖いですね。
女性の年齢と、過ぎた歳月をあらわすのに
「ふくよかマダムのジュリエット」という
表現をなさいましたが、これは
すごくリアルに感じてしまいました。
このふくよか像は、なぜ想像できたんですか?
ミドリちゃんは、ふくよかになる要素があった、と?
糸井 あるでしょう。
村会議員の娘さんだったし、
もともと裕福だったんじゃないでしょうか。
青春時代の脂肪細胞があるタイプ
だったのかもしれない。
お金持ってる自覚もあって、
ブタの貯金箱もあてにしてたよね。
── こわしていいわ、と自信満々でしたが。
糸井 おとなになると、
ブタの貯金箱なんかじゃ、
焼け石に水だということがわかります。
「いざとなったら」といいながら、
それじゃ稼ぐための屋台のひとつも
作れやしないんです。
── 夢物語だったものが、
どんどんリアルになっていきますね。
そういう意味で、もうひとついいと思った歌詞が、
「ふたりたたずむ ダイニング」です。
糸井 ああ、これはもう、
1980年の自分には書けないですね。
長いつきあいのふたりがどこで「いる」のかは、
けっこうポイントで、
やっぱりダイニングです。
しかも「ふたり」ですから、
子どもたちは巣立っているわけですよ。
── 歌詞の少し前に
「一姫二太郎」が出てきますので、
お子さんはいるわけです。
糸井 三は猫。
── 三は猫。犬もいる。
こういうものを書くときは、
登場人物が動くシーンが見えるものですか?
糸井 画が浮かんで、それを追いかけていきます。
あるいは、字が字を呼んできます。
それが両方まざっている感じでしょうか。
── 言葉が言葉を呼ぶ‥‥。
糸井 そして、やっぱり助かるのは、
「春咲小紅」の歌詞を散りばめたこと。
── 「春先小紅」の歌詞を、
なぜポイントポイントに入れたんですか?
糸井 「春咲小紅」を入れたほうが
みんなが喜ぶからです。
── みんな?
糸井 この、時間が経ったというテーマの歌に、
「春咲小紅」の歌詞を見つけたら、
うれしくないですか? 
── 私は、とてもうれしいです。
感動が倍になります。
糸井 そうでしょ? 
そこが土台で保証されているから、
作ってて手応えがあるのです。
そのうれしさがあります。
── ええっと、そのうれしさというのは──、
つまり、糸井さんは、
聴く人のことを考えて書くんですか? 
糸井 そりゃあそうですよ。
聴く人のことを考えて書いていますよ。
あたりまえでしょう。
── !!!!
糸井 自分たちのことなんて考えてないですよ。
聴く人が「うわぁ」と言ってくれる姿、
それだけを考えて書いています。

後編につづきます)

この「SUPER FOLK SONG RETURNED」を含む、
7年ぶり5作目の矢野さんの弾き語りアルバム
『Soft Landing』は11月29日に発売されます。
Amazonでのお買い求め(ご予約)はこちらからどうぞ。
2017-09-25-MON