粘菌のはなし。
毎週菌曜日に「きのこのはなし。」
連載してくださっている
“きのこ・粘菌写真家”である新井文彦さんが、
またまた書籍を出版されます。
今回はなんとこどもの本。
しかも粘菌の!
タイトルは
『もりの ほうせき ねんきん』です。



うつくしくも不気味な
粘菌の写真が大盤振る舞いの本は、
こどもの本ともいいながら、
まるで粘菌写真集のよう。



これを記念して、またまたちょっとの間、
菌曜日に「粘菌のはなし。」も
短期連載してくれることになりました。



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▶︎新井文彦さんプロフィール
『もりの ほうせき ねんきん』編 その5 ルリホコリの仲間
2016年4月の始めのこと。
『粘菌生活のススメ』の出版準備は、
順調に進んでいました。



本の内容には満足していたのですが、
実は、ひとつだけ、心残りがあったんです。



悪魔的美しさを誇るルリホコリ系の写真を、
載せていることは載せているものの、
それは、粘菌研究者・川上新一博士所有の、
標本を撮影した写真だったんです。



ルリホコリの仲間は、好雪性粘菌と言って、
雪国で多く見られる種類なんです。
変形体は、主に雪の下で活動していて、
春になって雪が解けると子実体をつくるという、
いわば、粘菌界の異端児(笑)。



できるなら、標本ではなく、
フィールドで撮影したルリホコリの写真を載せたい!



撮影のタイムリミットは、すでにギリギリ。
印刷会社に入稿したデータは標本の写真ですが、
数日後に出る色校正を戻すときに写真を差し替える!
という荒業を仕掛けるわけです。



つてをいろいろたどった結果、
筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所で、
毎年4月に発生が確認されているという情報を入手。
早速連絡してみると、なんと、その年に限って、
天候不順で発生が確認できてない、とのこと。



しかしながら、諦めきれず、
3人の大学院生が探索に協力してくださるとのことで、
雪が残る菅平高原へ向かったのでした。



4人で筑波大学の広大な敷地、
そして、近くのスキー場周辺を探すも、
やはり、見つからず……。
諦めて帰ろうとしたそのとき、
ふふふ、と、女神が微笑みました。



なんと、筑波大学の研究棟の真横、
ぼくが車を停めていた場所の真ん前の雑木林で、
ルリホコリの仲間が見つかったんです!
手伝っていただいた3人の大学院生には、
感謝の言葉しかありません。



いやあ、感激しましたねえ。
特に、マクロレンズを使ってアップで撮影したとき。
目に前にあるのは、まさに、瑠璃色の宝石です。
何枚シャッターを切ったことか。



粘った甲斐あって『粘菌生活のススメ』に、
フィールドで撮影したルリホコリの仲間の写真を、
載せることができました。



今回、『もりの ほうせき ねんきん』という、
子ども向けの粘菌の本を出すにあたり、
一番最初に考えたことは、ごく単純に、
粘菌という生きものがいることを知ってほしい、
ということでした。



粘菌という生きものを知れば、
粘菌が気になり、粘菌が生きている環境が気になり……、
という感じで、子どもたちが、少しでも、
自然に興味を持ってくれたらいいなあ、と思ったわけで。



そして、粘菌という生きものを紹介するなら、
美しい子実体の姿を見てもらうのがいちばん。
ぱっと思い浮かんだのがルリホコリの仲間でした。
まさに、宝石のように美しいですから。



もちろん、大人も同じこと。
粘菌という生きものを通して自然を見ることで、
今までと違った自然が見えること間違いなしです。



粘菌という生きものに少しでも興味を持ったら、
ぜひ、野外で、本物の粘菌を探してみてください。



探しやすいのは、粘菌の子実体です。
梅雨の晴れ間、あるいは、梅雨明けすぐくらいに、
木がたくさんあるような場所へ行き、
倒木、枯れた立木、生木のウロなどを探すといいかも。
木に顔を近づけて、じっくり見てみてください。



気づいてないだけで、
粘菌は、けっこう身近にいるんです。
その宝石のように美しい粘菌は、
筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所の、
駐車スペースの真ん前にいたのでした。
一番最初の写真は、見つけた場所で撮影したもの。
この写真はルリホコリの仲間が発生している落枝を日影に移し、
フラッシュ3灯使って撮影しました。
これまた美しい、コンテリルリホコリ。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。
シロイトルリホコリ。
「球」の直径は2mmほど。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。
キンルリホコリ。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。




ひらがなだけのタイトルで
こどもの本の顔をしていますが、
むしろおとなが楽しんでしまう本かもしれません。



粘菌は、少々不気味な造形でもあるので、
ページをめくりたいような
めくりたくないような気持ちになりますが、
めくるとめくるめく粘菌のうつくしさに
息がとまります。
めくれどもめくれども、
ぷりっぷりの粘菌、キラッキラの粘菌が
これでもかと現れるのです。



印刷会社のベテラン製版ディレクター
(写真や絵の印刷を調整する専門家)
が、満を持して仕上げた、粘菌写真集です。
あ、もちろん粘菌の知識も
わかりやすく身につきます。
そこは、こども用の本ですから、実用です!



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南方熊楠の研究などで有名な不思議な菌、粘菌。
この粘菌についてのくわしい話と、
新井さんのうつくしい写真を組み合わせた
「粘菌入門書」です。

阿寒はじめ森のなかできのこの写真をとるかたわらで、
粘菌の写真もたくさん撮影していた新井さん。
ゲラがとどいたところで、
「ほぼ日」の乗組員に見せていたら、
ぎゃー! とか、ひゃー! とか、声があがりました。
いままで見たこともない形状の物体(粘菌)は、
不気味なんだけど
目が離せないという中毒性のある写真です。

森の不思議を堪能できる一冊ですよ~!



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【いままでの更新】

『粘菌生活のススメ。』編

第一回 粘菌って何? 2016-05-06-FRI

第二回 変形体こそ、粘菌なのだ! 2016-05-13-FRI

第三回 単細胞は、賢いのだ! 2016-05-20-FRI

第四回 単細胞は、素敵な粘菌生活を! 2016-05-27-FRI



『もりの ほうせき ねんきん』編

その1 ホソエノヌカホコリ 2018-04-27-FRI

その2 マメホコリ 2018-05-04-FRI

その3 タマツノホコリ 2018-05-11-FRI

その4 サビムラサキホコリ 2018-05-18-FRI
2018-05-25-FRI