奈良美智インタビュー  NOWHERE MAN  IN THE SPACESHIP  ひとりぼっちの絵描き。
糸井 いまは、那須塩原にいるんですよね。
もう、どのくらい経つんですか。
奈良 4年です。
糸井 もう動かない感じ?
奈良 うーん、なんか、ほかにもスタジオをつくって、
ある程度制作したら、ほかに移って制作する、
みたいなことをやったら
たのしいかなとも思ってる。
糸井 動きをつけながら。
ああ、それ、いい考えだね。
奈良 うん。
糸井 そうか。
ずーっと同じ場所にいる理由っていうのは
そんなにはないんですもんね。
奈良 まったくないですね。
那須塩原にいるのも、
そこじゃなきゃダメだったわけでもなくて、
東京から1時間くらいで行けるところで
土地が安かったからだから。
大きな絵を描ける広さが必要だったからね。
糸井 ほんとは、どこでもできる。
奈良 基本、どこにいても、
「部屋の中」が自分のスペースなんで、
窓の外の景色はどこでもいい。
アメリカでも、ドイツでも、日本でも。
糸井 ああー。
奈良 窓の中に自分のスペースがあれば、
なんでもできる。
糸井 不便はないわけだ。
奈良 不便はない。
いまはインターネットもあるし。
iPodがあれば、CD持っていく必要もないし。
糸井 そういえば、こないだね、
北海道の森に行ってたんですよ。
奈良 うん。
糸井 阿寒の森に。たった2日なんですけど。
それで、森の中できのこ狩りしてたら、
人間の興味がすっと消えたんですよ。
そこでは、音楽もいらなかったなあ。
奈良 ふーーん。
糸井 あ、人間がいないのって
こんなにおもしろいのかって思った。
深い森の中に入っていくと、
なんていうか、毒キノコひとつひとつまで
ぜんぶがかわいいんですよ。
で、逆に、都会にいるときって、
「人間」が自然なのかなって思ったり。
奈良 あー。うん、うん。
糸井 そういうことをひさびさに経験して、
ちょっとびっくりしましたね、あの森は。
奈良 ぼくね、子どものとき田舎だったから、
似たような体験を
子どものときにしてるかもしれない。
糸井 ああー。
奈良 そういう、音楽もいらなくて、
その自然の中で、こう、
きのこを見つけてたときの感情みたいなものは。
糸井 音楽もいらないんだよね。
「森の中を、そこにぴったりの音楽を
 聴きながら歩いたらたのしいだろうな」
って思うのは、都会の発想で。
奈良 そうですね。
糸井 入っちゃったら。
奈良 いらないですよね。
糸井 いらないですよね。
奈良 音楽が欲しくなるのは、学校入ったりとかして、
人とコミュニケーションをとるようになって、
こう、人がつくるものをほしがるからなんだよね。
糸井 うん、人ですよ。
奈良 だから、人がいないところに行っちゃうと、
逆にいらなくなっちゃう。
糸井 そうですね。
そういう体験はさすがに
奈良さんも少なくなってるでしょ。
奈良 どうなんだろう。
糸井 ああ、でも、部屋の窓を閉め切ると、
あなたは「ひとりぼっち」だからなぁ。
奈良 そうですね。
だから、いつも、どこに行っても、
窓はなきゃいけないんです。
糸井 ああ、なるほど。
奈良 で、その中で、夜、絵を描いてると、
外からここを見ると
どう見えるんだろうって想像するんです。
それがどの町でも、どの場所でも、
夜、窓を閉めて、絵を描いていると、
なんか、自分が宇宙船の中にいて、
そこでひとり絵を描いてるような気分になる。
外から見ると窓から光が漏れていて、
ほかに町もないようなところに
自分の宇宙船だけが浮いてる。
その中で自分が絵を描いてるんだ、
みたいな妄想に入っていくことがよくある。
糸井 ‥‥その妄想はすてきだねぇ。
奈良 船長になったみたいな(笑)。
糸井 そういう「ひとりぼっち」は、
「ひとりぼっち」のベテランじゃないと、
無理だね。
奈良 そうかもしんない(笑)。
糸井 なんていうんだろう、
奈良さんのその、修練を積んだ「ひとり」具合。
たぶん、知らないけど、ずっと昔から、
ドイツにいたときも、
その「ひとり」があったんだろうなと思って。
それ、ぼくちょっと、今日聞いたから、
真似してみたいです。
奈良 あ、ほんと(笑)。
糸井 北海道の森の話に戻るけどね、
恥ずかしいんだけど、
森の中で川を見てるときに、
涙が出てきたんです。
奈良 うん。
糸井 なんか、自分が純粋ぶって
そんなことを言ってるように
聞こえるかもしれないけど、違うんだよ。
出ちゃったんだよ、涙が。
で、いまの、部屋があって、
そこに窓さえあればっていう、
奈良さんの「ひとりぼっち」を聞いて、
ちょっとそれに近い涙が出たんです。
奈良 ほんと(笑)。
糸井 なんていうんだろう、
表現ですらない、なにかがいまあった気がした。
あなたはもう、そういうところでは
達人みたいなものなんだろう。
奈良 いや、そんなことはない(笑)。
糸井 でも、そういう気持ちで、
宇宙船の窓の中で、ひとり、
絵にぶつけていくんでしょうね。
奈良 うん、うん、そうです。
なんかそういう状況で絵を描いてると
いい絵が描けるのは、たしか。
To Be Continued......


2010-11-29-MON

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN