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| 糸井 |
絵を描いて、
「いいね」って言われる回数が増えると、
このままやってていいんだ、って、
肯定される気がしますよね。
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| 奈良 |
そうですね。
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| 糸井 |
これで食っていけるかもしれないな、
みたいな期待だって、当然、出てくる。
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| 奈良 |
うーん、でも、やっぱり、
食っていくっていうことと
自分の絵を結びつけて考えるようになったのは、
ほんとに、つい最近。
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| 糸井 |
それは、実際に食べられているときでさえ、
ちゃんと結びつけて考えてはいないってこと？
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| 奈良 |
うん。
「これで食えてるんだ」って、
すごく冷静に考えられるようになったのは、
やっぱり、最近です。
それまでは、なんていうか、すごく苦しくて。
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| 糸井 |
じゃあ、たとえばその、
バイトしながら描いてるほうが自然。
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| 奈良 |
そうですね。
バイトすると、ラク。
バイトしているときのほうが、
お金をつかうにもラクです。
だって、紙に線を引くくらい、
自分はすごく簡単にできるから。
なんか、それが、昔もいまも、
同じ紙と鉛筆をつかってるのに、
値段が違うっていうことが、
自分にはよくわからない。
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| 糸井 |
うん、うん。
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| 奈良 |
たとえば発注する側からすると
当たり前のことなのかもしれないけど、
自分では、まったく実感がないから、
たとえば前は1000円もらってたのに、
急に１万円くれるって言われたら、
なんか‥‥‥‥。
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| 糸井 |
ああ、わかんないよね。
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| 奈良 |
うん。
それが、たとえば、ふつうに
「この仕事は時給800円」って言われたら、
あ、オレも時給800円でやってて、
みんなも時給800円なんだっていうので
すごくわかりやすいんだけど。
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| 糸井 |
ああー。
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| 奈良 |
そうやってお金をもらったとすると、
すごく安心してお金もつかえる。
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| 糸井 |
そうか、そうか。
バイトしてるときは、
その意味で、すごくラクなんだね。
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| 奈良 |
もう、めっちゃラク。
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| 糸井 |
そうかぁ。
好きなこと仕事にするっていうのは、
そういうことなんだなぁ。
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| 奈良 |
そう。だから、なかなか（笑）。
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| 糸井 |
でね、似た職業で、
イラストレーターっていうのがあるんだよ。
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| 奈良 |
イラストレーターは、
考え方としてはシンプルだと思いますよ。
つまり、向こうから、こういうことをして
って言われて、引き受けるわけだから。
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| 糸井 |
そうですね。
そうすると、ありがとうって言われるのも、
そこにお金が発生するのも、
非常にこう、わかりやすいよね。
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| 奈良 |
うん。
だから、こういうことをいうと
イラストレーターの方に
失礼かもしれないけど、
イラストレーターをバイトだと思えば、
ぼくもできるような気がする。
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| 糸井 |
バイトでイラストレーターをして
ほんとうの気持ちとしては画家である
ってことも、ありうるわけだよね。
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| 奈良 |
そうですね、うーんと‥‥。
ぼく、自分をイラストレーターだとは
思ってないんだけど。
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| 糸井 |
うん。
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| 奈良 |
たとえば、この絵をＣＤのジャケットに
つかいたいんですとか言われたら、
そのＣＤのために描くわけじゃなくて、
その絵を渡すわけじゃない？
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| 糸井 |
なるほど、なるほど。
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| 奈良 |
でも、そこの差って自分で思ってるだけで
ふつうの人から見るとイラストレーターと
同じだなと思ったりもする。
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| 糸井 |
うん。
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| 奈良 |
あるいは、その本のために
あらためて描くっていう場合もあるんだけど、
その本からきちんと
インスパイアされて描くときは、
イラストとは違うなって感じることもある。
この絵は、きっと頼まれなくても、
描いたんじゃないかなって思えたり。
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| 糸井 |
ははぁー。
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| 奈良 |
だから、他の人にはどう映るかわからないけど、
自分の中では、分けてるっていうか、
分かれてるっていうか。
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| 糸井 |
だって、イラストレーターの人にしても、
頼まれたものはぜんぶやるっていう人もいるし、
ちゃんと選んで納得できるものだけを
やるっていう姿勢だってあるわけだもんね。
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| 奈良 |
そうですね。
だから、職業としてどうであろうと、
好きで描くか、描かないかの
違いなんじゃないかなぁとも思う。
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| 糸井 |
で、奈良さんは、どこかの時点で、
自分はイラストレーターじゃないんだなって、
決めているわけですよね。
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| 奈良 |
うーん。
イラストレーターをやっていくには、
器用じゃないとダメなんじゃないかな。
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| 糸井 |
オレは向いてないと思った？
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| 奈良 |
向いてないですね。
あの、23歳くらいのころだったかな、
あるテレビのドラマのなかで、
主人公のイラストレーターが描く絵が
実際に必要だっていうので
描いてくれって頼まれたことがあるんです。
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| 糸井 |
ほう。
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| 奈良 |
で、当時、学生でしょ。
学生だから、ほんとバイト感覚で、
あ、できるできると思って引き受けて、
描いたんです。天女の絵を描いた。
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| 糸井 |
うん。
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| 奈良 |
それで、持って行ったら、
ここもうちょっとこうしてくれとか、
ああしてくれとか、言われて、
そしたら、急にできなくなっちゃった。
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| 糸井 |
あーー。
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| 奈良 |
いつもの感じでいいよ、
って言われたから描いてきたのに、
どういうことだろう、みたいに思って、
で、けっきょく、その仕事は
友だちに渡して自分はやめちゃったんです。
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| 糸井 |
直しかけはしたんですか。
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| 奈良 |
いや、直せなかった。
直すことの意味がわかんなくて。
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| 糸井 |
なるほどね。
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| 奈良 |
いつも描いてるのと
同じでいいんだったらできると思った。
でも、いつも描いてるものに、
注文をつけられると、
それはぼくにはできないから、
代わりにできる人を
責任持って探しますって言って。
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| 糸井 |
いちばん真面目な対応をしたわけですよね。
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| 奈良 |
そう。大人の対応を（笑）。
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| 糸井 |
怒りもあったんですか。
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| 奈良 |
怒りはね、なくて、
やっぱり、オレは才能ないなと思った。
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| 糸井 |
そっちに向かうんだ（笑）。
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| 奈良 |
そっちに向かって。
オレ、けっこうネガティブです。
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| 糸井 |
ネガティブっていうか、引くんだね。
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| 奈良 |
うん。引きます。
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| 糸井 |
はーーー。
To Be Continued...... |
