13/52 スヴァールバル諸島
スヴァールバル諸島へ
出発しよう!
名も無き山
上下左右がわからない。方角・遠近感・天地の境目など、すべて識別不能。視界はせいぜい数十センチ。いま動いたら、ヤバい――。ここはノルウェー、スヴァールバル諸島。人が定住する地としては最北に位置する。冬はマイナス30度を下回る極地で、石川直樹は完全な「白」に包まれた。――ホワイトアウト。以前、北極圏で遭遇したときは無闇に歩きまわり、完全に方角を見失った。あとから足跡を確認したら、ぐるぐる渦を描いていただけで、まったく前に進んでいなかった。だから、いまは「待つ」だけだ。ただひたすらに、じっと‥‥。どれくらいの時間が経っただろう。徐々に視界が利くようになってくる。と、目の前に何かが見えてきた。黒い。反射的にシャッターを切る。「山」だった。それは、名も無き山だった。
2011-01-31-MON