映画『モテキ』を、 ほめさせてください。(c)2011映画『モテキ』製作委員会
大根仁さんプロフィール 大根仁監督 × 糸井重里

第5回 麻生久美子さんのすごさと、     リリー・フランキーさんのリアリティ。
糸井 長澤まさみさんのサイズ感がわかってからは、
麻生久美子さんの量感もよーくわかるんですよ。
麻生さんの役は、ええと‥‥
大根 るみ子です。
糸井 そう、るみ子。
るみ子のセリフもまた、
麻生さんの大きさの人の言葉なんですよ。

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大根 そうですね。
糸井 いいんですよ、それがまた。
大根 麻生さんって、
すごくきれいですてきな女優さんという
イメージがあって、それはたしかにそうなんです。
ただ、まあ‥‥
これは載せられない発言になると思うんですけど、
ぼくの中で麻生さんは、
「ふつうの女性の最高峰」なんですよ。
糸井 ああ‥‥。
大根 女優としてのきれいさというよりも、
「あ、ふつうにいる人だ」みたいな。
「なのに、なんだこのかわいさは」みたいな。
糸井 圧倒しないんですよね。
大根 そうそうそう。
そこがいいっていうのを、ぼくはずっと思ってて。
糸井 それ、ぜんぜん大丈夫ですよ。
載せられないことじゃないです。
「ふつうの女性の最高峰」って、すごいですよ。
大根 うん、そうですよね。
糸井 で、そのふつうさが魅力になるセリフが、
この映画ではちゃんとあてがわれていたんです。
だから、幻想で麻生さんを見てる人は、
「あのセリフは気の毒だ」と思うかもしれない。
でもそうじゃなくて、
あのすさまじいセリフを
あんなに上手に言えるってところが
麻生さんのすごさなわけで。
あれはやっぱり、
どこかでご本人と一致するセリフなんですよね。
大根 これはぼくの勝手な想像ですけど、
麻生さんは映画のあの役に近い経験が
けっこうあったんじゃないかと。
実際の麻生さんは、もっと、こう、
めんどくさい恋愛をしてたんじゃないかなって。
糸井 るみ子という役は、
どっぷりと、めんどくさい恋をしてましたねぇ。
大根 はい。
糸井 ああいう設定は‥‥なんて言うんだろう、
「ここまでだったら見た目とセリフの誤解もOK」
っていうのを決めるのは、監督じゃないですか。
つまり、きれいな女優さんに
メガネをかけさせただけで簡単に「ブス」と
記号化しちゃって、
「わだすでええのがしら」
っていうようなセリフを言わせるパターン。
よくあるそれは、許せないですよね?
大根 はい、許せないですね(笑)。
糸井 だけど今回、麻生さんに、
あの激情的なセリフを言わせるのはOKだと、
監督は決めたわけですよね。
大根 はい。
糸井 そのさじ加減が、絶妙でした。
もう‥‥たまんなかったよ、麻生さん(笑)。
大根 そうですか(笑)。
糸井 すごくよかった、切ない。
大根 るみ子がかわいそうっていう感想は、
けっこう多いんです。
でも彼女はぜんぶ自分から誘ってるんですよ。
糸井 ああー、そうでしたね。
「落とし穴を掘るのは、女」というのが、
ぼくの原則なんですが、
あの映画でもたしかにそうでしたよね。
なるほどなあ‥‥。
リリーさんは、どうでした?
大根 リリー・フランキーさん。
墨さんですね。

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糸井 墨さんのセリフって、
どのくらい脚本なんですか?
大根 ああ、えーと、
リリーさんは脚本通りやってくれないんですよ。
糸井 (笑)
大根 かならずちょっと変えます。
でもそれは、いわゆる役者が
「ここは、こうしたほうがいいだろう」
っていうのとはまったく違うんです。
役づくりのポリシーとかじゃない。
本人は脚本通りに言おうとしてるんだけど、
出てくる言葉が脚本通りじゃないという
珍しいパターンなんですよ。
糸井 ただ、覚えてない(笑)。
大根 そうそう(笑)。
ものすごく入れ込んでやってるわけじゃないんで、
「たしかこんなこと書いてあったはず」
っていうぐらいでやるんです、リリーさんは。
だから毎回セリフが違う。
気づいたスタッフが「これまずいですよ」
って言うんだけど、
「いや、毎回おもしろいから大丈夫」って。
糸井 相手が受けにくいことを
言ってるわけじゃないんですよね。
大根 そうなんです、
むしろ相手は受けやすくなるくらいです。
糸井 じゃあ、
脚本のままでないことは確かですか。
大根 はい、
脚本のままでないことは確かです。
糸井 すごかったなぁ、あのリアリティは。
大根 ちょっと今回のリリーさんには、
ビックリしましたね。
糸井 うん。
大根 まあ、ドラマのときのキャラクターと
違っちゃってるんですけど(笑)。
糸井 あ、ほんとだ(笑)。
大根 「あれ? 墨さん、こんな人だった?」
糸井 そうだそうだ、違うわ。
今回のはなんかね、ペーソスがある。
大根 そうなんですよ、ペーソスが。
糸井 映画ではその感じをやりたかったんでしょうね。
大根 でも、ずっと断られてたんですよ、
リリーさんには。
「もうやりたくない」って。
糸井 あ、そうでしたか。
よかったですね、じゃあ。
あの人がいないと大変ですよ、今回。
大根 そうなんですよ。
リリーさんには助けられました。
糸井 だって、ほかに誰があの役やれる?
ちょっといないでしょう。
大根 いませんね。
糸井 リアリティがありながら役者っぽくない芝居。
大根 はい。
糸井 それでいて、浮かない。
大根 そうなんですよね‥‥
なんですかね? あの人。
糸井 なんなんですかね?
とりあえず、絵よりうまいよね。
大根 (笑)

(つづきます)

2011-10-10-MON


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