愛と言うには  ちょっと足りない。  『モテキ』をめぐる、とても自由な座談会。

第8回 幸せになりやがれ!

糸井 まあ、久保さん、
お城の扉の隙間からでもけっこうなので、
引き続きよろしくお願いします(笑)。
どうでしょう、作家さんから逆に質問とか。
久保 ‥‥じゃあ、
『モテキ』を途中まで読んだときに、
どんな終わり方になると思いました?
糸井 あー、その想像が難しかったんです。
ハマケンはどう思った?
ハマケン うーん、主人公の幸世が、
どんどん幸せになるとは思いませんでした。
久保 ですよね。
ハマケン おまえなんか全員からフラれちまえ
って思ったんですけど。
一同 (笑)
ハマケン 甘えて、フラれて、だれもいなくなれ!
って思いました。
久保 あはははは。
ハマケン これで幸世が誰かと幸せになったら、
ちょっとウソっぽい感じというか。
糸井 森山さんはどうですか、最後の想像は。
森山 そうですね、
うまくいくはずはないと思ってました。
糸井 おおー、そうですか。
久保 うん。
糸井 そっかぁ。
いやね、ぼくだけは、そこがちがうんですよ。
おさめちゃっていいやと思った。
平凡な幸せみたいなところに、
いっちゃえばいいと思ってた。
ハマケン へえー、そうですか。
糸井 いろいろありますけどこれにしときますか!
って感じで、最後は白い家かなんかに住んでて。
久保 あはははは。
糸井 幸せになりやがれ!
久保 なりやがれ(笑)。
なるほど。
糸井 おれはもう、そっちでいいから、
一発ほんとによかったぁって
思わせてくれみたいな。
久保 すみません、思わせませんでした(笑)。
糸井 うん。
だからもしも4巻で終わらなかったら、
おれみたいな読者は寸止めの状態で
6巻、7巻、8巻って
ずーっと読み続けるんだと思った。
久保 いつか白い家がたつまで(笑)。
糸井 そういう平凡な結末でいいやって思ったのは、
いわば、お見合いなんですよ。
久保 お見合い。
糸井 お見合いでいっしょに暮らす異性に出会うって、
それはそれであるじゃないですか。
久保 はい、ありますね。
糸井 それに近いような終わり方もあるのかなぁ
っていうふうに思ったんです、おれは。
きっと大人だからね、
「そういうもんだよ」
という言い方が自分にあったりするんですよ。
久保 わかります。
糸井 おやじの見方なんだ、きっと。
久保 (笑)
糸井 極端に言うと、
「誰といっしょになろうが、そこからだよ」
みたいなところもあるじゃないですか。
久保 はい。
糸井 で、これは見つけるまでの物語。
久保 そうですね。
わたしが描ける、
全力の疾走の物語はここまでだったんです。
糸井 それをエンターテイメントにできたっていうのが、
やっぱりすごいんですよ。
森山 ほんと、全体的に、
前振りのないお見合いをしてるような、
そういう作品ですよね。
久保 前振りのない(笑)。
森山 ぼくはいままで、
「森山さんの好みのタイプは?」って訊かれて、
ちゃんと答えられたためしがないんです。
でも、この幸世は、
どんな女性が好きかはわからないにせよ、
こんなにざっくばらんな女性たちと関わることを
前向きに望んでいますよね。
それってある意味、素直な感情だなあと思って。
糸井 ざっくばらんな女性たち(笑)。
森山 幸世はすごく素直で正直だと思います。
結局、好みのタイプなんて関係ないんですよね。
ハマケン そうそう、そうだ。
森山 もう、スパーンと障子を開けたら
相手が鎮座してた、みたいな。
久保 はははは。
森山 だから、前振りのない、
お見合い写真を見てないお見合いですよ。
飛び込んだら女性がいる、っていう。
それでも幸世は相手と関わることを
求めてますよね。
糸井 うん。
久保 とくに最後は、自分からいってほしかったんです。
最終回を描いていて、けっこう悩んだんですよ。
ここまで舟を漕いできたけど、
自分はどこに向かってるんだろう?
だいたいの方向はこっちだけど、
ほんとにたどり着くのはどこなんだろう?
誰かに何かを言われないと
幸世は次へ行けないのか?
いや、わたしが幸世にがんばってもらいたいのは、
そういうことじゃない。
誰かに大事なセリフなんかを言われなくても、
自分はこういくんだ、
っていうものを見つけてもらいたくて。
ハマケン うん、うん。
久保 誰に何を言われても、
誰にも何にも言われなくても、
幸世の人生は
変わらないものであってもらいたいっていう。
助言してくれる人もたくさんいるし、
やさしくしてくれる人もいるけど、
そうじゃないところで、
幸世が動いていくことが大事だなぁって。
糸井 あの、それは、
久保さんの人生決意表明みたいなものですか。
久保 え。
糸井 主人公の話じゃなくて、
ご自分の話をしてるように聞こえたんで。
久保 ‥‥描きながら、
自分のカウンセリングでもありました(笑)。
一同 (笑)
久保 バンッ(扉を閉める仕草)。
一同 ああーーー(笑)。
糸井 いや、それは新しいっていうか、
描きにくいところにちゃんとつっこめましたねぇ。

(つづきます!)

2010-07-26-MON


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(C)「モテキ」久保ミツロウ/講談社