第6回 消去法
あのね、よく
インタビューなんかでも質問されるのが、
「どんな使命感があって、
 『A』や『A2』を撮ったんですか?」
っていうことなんですけど。
糸井 ああ、多いでしょうね。
はい。やっぱり、取材する人も、
相手がオウムのドキュメンタリーを撮った人で、
もとはテレビの番組制作会社にいて
映画を撮るためにそこを辞めてみたいなことが
経歴に書いてあると、
そう訊きたくなっちゃうんですね。
それはよくわかります。
でも、ぼく自身の認識としては
そういうわかりやすい使命感に
基づいて動いてきたわけではないんです。
『A』にしても、所属していた番組制作会社から
契約を解除されてからも撮り続けた理由は、
きっと他の局でテレビ番組として
放映してもらえるだろうと思っていたんです。
ひとりになっても撮り続けるぜみたいな、
そんな雄々しい姿勢じゃなくて、
でも、他の局や制作会社を回っても、
結局はどこからも相手にしてもらえなかった。
糸井 うん。
しょうがないから
昔やってた自主映画しかないかなと思って
自主映画にしたという、
いってみれば消去法なんですよ。
で、ふと考えるとぼくの人生って
これまでずっと消去法できているんですね。
大学時代には映画を撮っていた。
当時の自主映画って役者がいませんから、
劇研にもいたぼくは
役者をやることも多かったんですね。
その勢いもあって、大学を出てからは
新劇の劇団の養成所に入った。
糸井 あ、そうなんですか。
はい。
劇団養成所に3年間、行きましたね。
でもそこが潰れちゃったんで、
地方で児童演劇をやったり、
シティボーイズが旗揚げをするときに
スタッフというか
付き人みたいな感じで手伝ったり。
糸井 へええ。
そんな時期もあったりしたんですけど、
けっきょく二十九になったときに
自分は芝居が下手だってやっと気づいて。
じゃ、何しようかというところで、
今度は不動産会社でサラリーマンを
2年間やったんですよ。
当時はバブル真っ盛りでしたからね、
会社ではみんなダブルのスーツ着てね、
どう見てもカタギじゃないだろう
みたいな雰囲気の会社で、
やっぱり馴染めなくて。
そういうときに、たまたま新聞で
テレコムジャパンという
テレビ番組の制作会社が人を募集していて。
さすがにもう、映画を志す年でもないけど、
テレビだったらどうにかなるかな、
ドラマでもつくりたいな、
と思ってそこに入るわけです。
ところが入ってみたら
「ドラマ? うちはドキュメンタリーだよ」
って言われるわけです。
糸井 (笑)

ドキュメンタリーなんてまったく興味がないし、
見てもいなかったけれど、
でも、まあ、やってみたら
おもしろいかもしれないなと思って
ドキュメンタリーをつくりはじめた。
そんななかで『A』がはじまって、
テレビ番組になるだろうと思ったらだめで、
しかたなく映画になっちゃった。
糸井 しょうがないから、の連続なんですね。
はい。
で、『A』が映画になったから、
そこからは映画監督として
やっていけるのかと思ったけれど、
お客が入らないからやっていけない。
だから今度は本を書いた。
もう、ことごとく、消去法なんですよね。
なんというか、がんばって
ここまできたという感じでもないんです。
糸井 だけど、
ほんとはみんなそうなんだっていう
気もするんですよ。
そうなのかなあ。
糸井 うん。
たとえば、あの萩本欽一さんだってね、
「不本意な仕事しかやってこなかった」
っておっしゃってるんです。
だから、その、何かを成し遂げた人が
「望んでやった」っていうのは、
どうもぼくね、
あとから言ってる気がするんですよ。
ああ。うん、そうかもしれない。
糸井 それこそね、ミスユニバースになった、
みたいな人の話は別ですよ。
それは、投票されるために
立候補しなきゃいけませんから。
でも、きちんと立候補するような場面って
人生の中でそんなにしょっちゅうはない。
だから、逆にいえば、
立候補するのが平気な人って、
きっと、ちゃんと出世してますよ。
はい(笑)。
糸井 いわゆるITバブルの人たちって、
立候補するのが大好きとはいわないまでも
平気なんですよ。
昔でいうと、弁論部みたいな人たちで。
ああ、うんうん、いますね。
生徒会にふつうに立候補できるような人たち。
糸井 そう。そういう人たちは、いる。
でも、多くの人たちは、みんな、
森さんみたいに進んできてるんじゃないかな。
そうか‥‥。
そう言ってもらうと気が楽になるんですけどね。
やっぱり、経歴と作品だけを見られると、
ものすごく使命感とか目的意識が
ある人だというふうに思われがちなんですよね。
でも、じつは、べつに、
だめだったらだめでいいと思ってたし、
『A』をつくってるときも、これ1本撮ったら、
田舎に帰って就職しようと思ってましたしね。

糸井 というか、使命感だけで
『A』をつくっていたとしたら、
怖いですよ、それは。
あ、かもしれないですね。
 
(続きます)

2007-02-21-WED


 
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN