COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●お蔵出し月光庵
その2 はじめてのときってさ。

糸井 一番タバコが旨いのって
何てったって映画館から出たときとか、
長い嫌な、喫煙できない会議が終ったあととか、
矢野顕子とのセッションの後とか(笑)。
あっこちゃんのリハをやる前にやめてれば
何の問題もなかったんだよなあ。
鈴木 俺たち6人(ムーンライダーズ)が
禁煙した話、したよね?
あっこちゃんがコーラスで参加したときの。
糸井 ああ、知ってる、知ってる。
鈴木 まあ、しゃくだからね。
しゃくっていうのも変だけど、
「きっとタバコ吸わない人っていうのは、
 ちょっとでもタバコの匂いがしただけでわかるよね」
って話になって、
「よーし、“俺たちも男だ”じゃないけど、
 俺たちにも意地があるから朝から吸うのをやめよう」
って吸わなかったの。
糸井 その日、(禁断症状で)バカだったでしょ?
鈴木 バカだったよ。
バカっていうか、
みんないろいろ対策を練って持ってきてるのよ。
禁煙パイポだとか、飴とか、いろいろ考えて。
あっこちゃん絡みの禁煙はイベントだね。
どうなるのか、っていうのを本人たちも
楽しみにしてる。
でも、ダメ。
いらついてきて、1人消え、2人消え、3人消えで、
みんな駐車場で吸いはじめてさ。でもまあ、
「なんで俺たち、こんな駐車場で吸ってんのかな」
っていうのを楽しめたから、いいけど。
でも、たしかに、禁煙してると、
空気はきれいになったなって感じるよね。
糸井 感じる。
鈴木 たった7、8時間で世界が変わるね。
「スタジオって空気きれいなんだなあ」
って。
で、あっこちゃんが来て、歌入れて帰った瞬間に、
モクモクモク〜〜っと
約10本くらいの煙がたった(笑)。
糸井 それがおいしいんだよー。
鈴木 でも、それは、ほんとにおいしいわけじゃないんだよ。
ただの中毒なんだよー(笑)。
糸井 そうなのよ。
要するに、煙が出て、“タバコ”って名前がついてて、
そのタバコっていう別のものとして
認識されてるという事実が
これが人間の歴史の中にもう1つ瘤のように
できてしまったけど、
ヘロイン、コカイン・・・・
っていうふうに指折りで数えて・・・・
鈴木 (タバコとコカインなどは)いっしょくただと。
それの法律で許可されているもののひとつだ、と。
糸井 しかも、タバコは産業として確立しちゃったから、
そこの働いている人口はどうするのよ、
ってこともあるじゃない。
それと、喫煙を文化論的に考えると、
それをやってきたってことは、
必要だったってことでもあるんだよ。
つまり何かの形で“悪”は必要なのよ。
鈴木 (笑)体に悪いものは必要だと。
糸井 そう。
鈴木 最初にタバコが世界中に流れ出さないでさー、
じかにマリファナだったら、
(マリファナが)商業として成り立ってたかもよ。
糸井 (タバコは)基本的にネイティブ・アメリカンが
回し飲みしたところに起源があるんでしょ?
そういうところをもっと調べて欲しいね。
その人たちは案外楽しく吸ってたかもしれないよ。
その中毒を“思し召し”みたいにしてさ。
鈴木 ああ。聖なるものだったりしてね。
糸井 で、あとポイントは“まずい”ってことなんだって。
「最初に吸ったときのこと覚えてますか?」
ってことなのよ。
鈴木 最初に吸ったときはまずかったね。
糸井 そうなのよ、まずいの。
まずくて快感がない!
だからすぐにやめられると思う、というところから
禁煙をはじめるんだ。これは説得力がある!
鈴木 あるねー。
糸井 そういう話をいっぱい聞くと、
俺は(タバコを)やめようと思うよ。
タバコに操られた感じはあるもん、実際に。
鈴木 (笑)。
糸井 あの、ポケットに一箱もないって思ったときの
「うわーショック!」っていうのとかさ(笑)。
鈴木 “シケモク拾う”っていうのとかはそうだよね。
あれは、なんか、みじめな自分だよね。
糸井 それ、ちょうどあんまり好きじゃない女と
セックスだけある状態で、
「こいつ・・・・」
って思ってるんだけど、そこ(性欲)をつかれて、
“チラッ”みたいなところから、
「えいっ」と行くのとかと同じでさ、
「私は性の奴隷」とか思うじゃない(笑)。
鈴木 うわー(笑)。
糸井 そこから自由になるためにそいつと別れて、
「もっとそれ込みでいいの、いないかなあ」
とか思うじゃない。それだよ(笑)。
鈴木 うわー。
糸井 それとかさー、子供がいて別れられない夫とか、
いろんなパターンがあるけど、
「何だよ、その自由を俺から奪うものは」
っていうときに、
タバコを別枠にしているのはどうなんだよ、って。
やっぱりタバコって、実はヤクなんだなあ、と、
そこまで、俺、すっかり理解したの。
(目の前のコーヒーカップを指して)
コーヒーも中毒だな。
鈴木 コーヒーは、俺、飲まないんだな。
でも、一時期飲んでたよ。
で、あるとき、ほんとにあるとき、だよ。
「あれっ、これ泥水みたいだなあ」
って思ってさー。
これっておいしい?
これもタバコに近いなあ、と思って、
飲めなくなっちゃった。
でも、タバコはやめてないけど。
はじめて飲んだときおいしかったかなあ?
糸井 嗜好品ってみんなそういうとこあるよね。
鈴木 うん、あるね。
(コーヒーは)突然、はじめて飲んだときの
まずさがよみがえってねー。
ただねえ、アイスコーヒーは飲めた。
糸井 アイスコーヒーはおいしいんだね。
鈴木 うん。甘くてね。
で、缶コーヒーも飲んでたの。
それまではずーっとブラックで飲んでたんだけど、
まず、ブラックがダメになって、
そんでブラックをやめて、
アイスコーヒー、缶コーヒー時代が続いて、
でもそれもダメになった。
なんていうかのなあ、
(アイスコーヒーも缶コーヒーも)
どこか苦味というかまずい部分があるよね。
そのまずさが妙に鼻につくようになって、突然。
まあ、突然ばったりとやめたわけじゃなくて、
アイスコーヒー時代もあって、
缶コーヒー時代もあって
なだらかにやめていったの。
いまは、全然飲まないね。
ただ、(コーヒーを)出されちゃったりすると、
飲むけどね(笑)。
糸井 それは気が弱いから?(笑)
鈴木 そう! 言えないの!(笑)
鼠穴では言えるんだけど、ふだんは
「すみません、コーヒー飲めなくて・・・・」
って言えなくて、飲んじゃうんだよ(笑)。
武井 後で気持ち悪くなるようなことはない?
鈴木 それはない。
で、飲んで、まずいなとも思うの。
思うんだけど、それより気が弱いから・・・・(笑)
でも、コーヒーって、
みんな飲むに決まってるっていう、
タクシーに乗ると
「お客さん、今日巨人負けましたよ」
のような、暗黙の絶対っていうか、
いわば、悪のようなとこがあるね。
糸井 じゃあ、きょうのテーマは
“人類の悪について”にしましょうか(笑)。
でも、それは大きいテーマだよね。
鈴木 「まずいものをなぜ食うか」
っていうのもそうだよね。
糸井 最初に俺が思ったのは、ずっと、
チーズをうまいって思ったことがなかったのよ。
正直言って。
鈴木 俺もなかった。
糸井 で、チーズをおいしいと思うのがいいんだ、
っていう価値観も同時にあるじゃない。
じゃあ、どうして自分にはおいしくないんだろう、
ってなったときに、ガマンするじゃん。
で、大人になるまでに
何回かガマンするものってあるよね。
香辛料はだいたいみんなそうだよね。
鈴木 そうだね。
大人になると、付き合ってる人によって、
チーズおいしいよって言っちゃったりもするけど。
糸井 で、コショウなんかに関しては
分量なんかだいたいなんとか自分で調節できるよな。
あとは、ホヤがそうだし、
コーヒー、チーズ、セロリもそうだね。
鈴木 俺、セロリいまだにダメだもん。
あと、ピーマン。
糸井 ピーマンも、だね。
最初まずいと思ったものが乗り越えられると、
なんか自分が大人になったような気がするよね(笑)。
鈴木 俺の場合は、それはピーマンだね。
あれは、食えなくてまずいものだと思っていたのよ、
小学校時代。
これもちゃんとした記憶がないんだけど、
あるとき突然、こんなに、苦いんだけど、
独特の刺激があるものはないな、と思ってさ、
突然食え出したんだよ、ピーマンを。
それは、やっぱり毛が生えてからだな(笑)。
糸井 ああ! なんてわかりやすい(笑)。
鈴木 第2次性徴期ごろかな。
糸井 そのとき(第2次性徴期)に、
それまで無理だったものを
どんどん採り入れていくよね。
たとえば・・・俺は何でもエロに結びつけるんだけど、
最初にエロ写真を見たときに
俺は夕食が食えなくなったんですよ。
それははっきりと覚えてるんです。
鈴木 ああ、気持ち悪くなって?
糸井 うん。
要するに、悪いものを見てしまったような・・・
鈴木 わかる。
なんだろう、こんなものを見てしまった、大変だってね。
糸井 そう。
親に言えないし。
そんで、夕方ねー、景色の色まで覚えてるんだけど、
夕飯はてんぷらだったのよ。
でも、ダメなの、食欲が湧かなくて。
鈴木 俺も(はじめてエロ写真を見たときのこと)覚えてる。
糸井 おっ、覚えてる?
鈴木 最初にエロ写真見たときは、食欲湧かなくなった。
糸井 ああ、やっぱり。
鈴木 それはねー、何と親父の部屋で発見されたの(笑)。
糸井 おおっ!
鈴木 引き出し開けたりしてたら、小説があってさ。
その小説をピラっとあけたら
いきなり(エロ)写真なのよ。
しかも挿入されている写真なのよ。
見た瞬間、なんだかよくわかんない。
見たことがないわけじゃない、女性の陰部を。
おくふろと風呂入ったって、
そんなに凝視するわけじゃないし。
だから、完全に(陰部が)オープンな状態を
見たことがないわけよ。
それだから、「なんだ、これは!?」と思って
その日の2階の部屋の空気、天気すべて覚えてる。
さすがに、晩飯が何かまでは覚えてないけど(笑)。
糸井 晩飯はてんぷらだったことは覚えてるんだよ(笑)。
だって、そんな飯が食えなくなる日なんて
ないんだよ、ふだん。
中学2年くらいかな、俺。
鈴木 俺はもうちょっと若いですよ。
小学校3、4年くらいですね。
最初に精通があったときも、
ショックで飯が食えなかったけどね。
糸井 それも、すごい嫌悪感があったね。
俺も覚えてる。
鈴木 俺はねえー、いじってるうちに、
(声を裏返して)
「ありゃりゃ〜〜〜」
ってなっちゃったの(笑)。
糸井 そこから、今の歌唱法がきてるのか!(笑)
鈴木 そうセーツー唱法。
そんでさー、悩んでさー、
白いものなんだけど、何か体の中から出るってことは、
その頃性教育なんてまともになされてないから、
俺、女だと思ったの、自分を。
これが生理というものか、って(笑)。
糸井 “俺は実は女だった!”
鈴木 これが生理というものか、と思っちゃったのね。
糸井 すごい飛躍だね。
鈴木 うん、すごい飛躍。
その飛躍がよくわかんないんだけど、
生理というものが出血するものだ、
とか思ってなかったからね。
月いちで何かが訪れる、くらいの認識だから。
だから、俺は女じゃないのか、ということで
悩みこんで、晩飯食えなくて寝られなくて。
糸井 じゃあ、人生で晩飯食えないくらいのショックって
少なくとも2度はあったんだね。
鈴木 うん。3度はあった。
もう1回はねー、中学のときに理科室で
「みなさん、今日は映画の時間です」
っていうから楽しみしてたのよ。
そしたらねー、それが免停のときに見させられる
交通事故の映画だったの。
とにかく最初はみんな芝居だと思って見てる。
ううっ・・・・とか言って血とか出して
うめいてるんだけど、
途中10分くらいしてからかな、
死んだ子供が棺桶に入って
紫色になってる顔を映したんだよ。で、
これは本物だと全員がわかったの。
糸井 きびしいなあ。
鈴木 そしたら、「うっ」と吐くヤツもいるし、
その日も食えなかったね。
その日も景色まで覚えているけど、
中学校出て、友達3人で帰ってたんだけど、
3人ともふらふらしてんだよ。
糸井 その“ふらふら”っていうのは俺もあるわ。
図書室でいろんな本を読む時間っていうときに、
誰かが原爆の写真を見つけてきちゃったんだよ。
鈴木 ああ。それもあるねー。
糸井 それで、見たい見たくないの気持ちの中で
ものすごく揺れ動いて、
とにかく、これは
見ちゃいけないような気はしてるんだけど、
見ちゃったわけよ。
でも、それはその後先生が禁止したね。
とにかくふらふらになるって感じ。
鈴木 それは、俺の交通事故のフィルムとほぼ近いね。
そういうものを見てしまってふらふらするっていう。
その日はかんかん照りだったけど、
3人とも俺んちで、座ってるんだけど、
何にもしゃべんなくて(笑)。
なんか、こう戦意喪失状態っていうかな。
戦意はもともとないけど(笑)。
糸井 (笑)。
鈴木 そんで、そのまま友達は帰るわ、って言って帰って、
その後晩飯食えなかったね。
その原爆の写真もそうだよ。ってことは4度か。
それは、俺、『24時間の情事』っていう映画を
子供とき親に連れられて見たんだけど、
いきなりベッドシーンからはじまるんだけど、
その時点で気持ちは悪いんだけどさー、
糸井 ベッドシーンって気持ち悪かったよねー。
鈴木 そんとき、ギャーって泣いて、
帰るって言ってるんだけど、なんか座らされて、
その後原爆のシーンがくるわけだ。
そこでもう決定的で、
もうしょうがないから帰ろうって
帰ってきたんだけどね。
その日も食えなかったね。
糸井 あの、なんかさー、こう最初ヤダけど乗り越えるって
全部、性のメタファーだね。
鈴木 ピーマンはどうかっていうのはわからないけど(笑)。
まあ、毛が生えた頃に食えたわけだから、
強引につなげれば・・・・
火星人の睾丸かな。
糸井 通過儀礼(笑)。
要するに、種を残す資格を得たときだな。
その自由に羊水の中に漂っている、
ある意味、無ストレス状態が子供だとすると、
有ストレスの中で生きて行かねばならない、
っていうのが大人であると。
鈴木 そうだね。
でも、それで大人になったかと言えば、
更に(大人になるには)何重にもハードルが
あるんだろうけど、一つ目のハードルは、
それ(ヤダけど乗り越える)だな。

(つづく)

2000-12-30-SAT

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