COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●月光庵閑話 第4シーズン その7
レコード会社が銀行じゃなくなった。

鈴木 インターネットって、お客さんがダイレクトに
商品を手に入れられて、提供する側にもダイレクトに
お金が入ってくる環境が確保できる。
それって、フェアでしょ?
そういうのって増えてくると思う。
われわれもバンドのTシャツつくるときに、
「このデザインじゃ、ヤバイんじゃない?」
っていうことを考えるときもあるよ。
客がこれだけ来たらこれだけ買うだろうっていう、
ある程度のアベレージはあるわけだけれど、
でもね、自分たちで考えること、
それが非常に楽しいことなんですよ。
糸井 うん。
鈴木 これまではレコード会社っていうと
銀行だと思ってたわけです。
レコードつくります、これだけ費用がかかります、
ああ、ずいぶんかかっちゃいましたね、
足りない部分は他のところで補填するからね、って。
糸井 「あんたらは、ずるずるやるから」って。
鈴木 今は、そんなことはできなくなってきた。
それが逆によかったね。レコード会社っていうのは
銀行じゃない、と思うしかないわけですよ。
で、それなりにやっていくわけじゃない。
それなりの楽しさっていうか、何ていうかな、
お金が見えてくるわけだ。今頃遅いか。
Tシャツなんか特に、見えてるわけだからね。
ツアーをしたときに物販コーナー見てると、
Tシャツが売れることで目の前に札が舞うわけだ。
でも千円札。
お金ってこうなるんだな、って。
あんまりこんな年になるまで見てこなかったわけだけど。
ホント、チャンボー、情けないね。
糸井 ダイレクトにやってみたらおもしろかったんだね。
鈴木 そうだね。その流れ着く先が、今回の新曲のネット配信。
タダなんだよ。実験の要素が強い。
糸井 見本版をただでさしあげますってやつですよね。
鈴木 実は見本ではなくて本物、で、それで今後が
どうなるかということですよね。
糸井 あれって、MP-3で再生するの?
鈴木 ありとあらゆる再生の方法を揃えたというのが
今回の配信実験なんですよ。
糸井 その配信実験に協力してる何とかさんっていうの……、
あの人レコード会社じゃないでしょ?
鈴木 あの人はMAAという、サカモト(坂本龍一)とかが
やっている、著作権を考える団体の人。
「メディア・アーティスツ・アソシエーション」という。
要するにネットも含めて、ありとあらゆるメディアで
モノを作っていくアーティストの事を考える、
アーティストによる協会みたいなものです。
糸井 先々ぜったいそうなってくるんだよね。
対策を何処で作ってさあ、とかそういうことに
なってくるんだろうね。
鈴木 暫定的に決めて、もう始まっちゃってるし、
すごいスピードだし。
糸井 100円ライターの普及ってそうだった。
デュポンだダンヒルだっつって、何万円だの、
輸入品だなんて言って見せびらかしてる時代があった。
いっぽう、オイルライターっていうのは粗悪品だ、
みたいのがあって、マッチも、どこでももらえるから
いらねえよ、という空気があって。
ティッシュペーパーと同じ考えだね。
それが、チルチルミチル(100円ライターの元祖)が
100円で売れたときね、これ、俺、何かだと思ったんだよ。
当時編集長を2号だけやった雑誌があって、
その雑誌で秋山道男さんに100円ライターについて
書いてくれって依頼したんだ。
何でそのことを思ったかっていうと、
田中一光さんが100円ライター使ってたわけよ。
あんなにデザインにうるさい人が何で許したんだろう、
世の中こういうふうに変わっていくんだって、
100円アートのゆくえを見守るわけだよ。
そしたらもう、こうじゃないですか。
鈴木 ポップアートになるんだよね。100円ライターは。
糸井 たぶんウォークマンなんかでも
パチンコの景品になっちゃう。
鈴木 曲もウエブで配信する場合は100円とか200円だからね。
糸井 曲も100円とったら御の字ですか?
鈴木 そうですね、どうだろう、わからないね、そこは。
全然わからない。
糸井 そこはさ、俺たち以外のタイプの人が欲しいんですよね。
鈴木 マーケティングはわからない。やってみないとわからない。
それはさ、世界を相手にしたらすごいんでしょうけど、
そうはいかないから。でも、道はできてるわけだよね。
外国のお店に置きたいなっていう、
しちめんどうくさいことはないわけですよ。
糸井 何枚売れたら「やったーっ!」て言える数字も
ないんでしょ?
鈴木 ないんです。
糸井 とにかくやってみて、ああこうかって思いたいんだ。
鈴木 何かものを作ると、いろんなものが付加してくる。
くっついて、一個になるわけだよね、「もの」だから。
しょうがないよね。それ(数字)は、
ないんだもん、最初は。
極端な話したら、僕、ここにきて曲をつくる。
生中継でもそうだけどさ、今の気持ちではタダでもいいや
って思うじゃない。それ自分で作ってみようかな、って、
ちょっとやってみようかなって思うじゃない。
糸井 俺も今、100円シェアウェアをやってみたい。
やってみないとわからない。それができるっていうのが
デジタルメディアのすごいところですよね。
問屋に風呂敷包みを持ってって、
形になってないと仕入れようがないから、って、
ここで歌ってみますからってわけには
いかないじゃないですか(笑)。流しだよな、それはな。
流しは世界に行けないよな。
鈴木 流しはやっぱ人の目の前でやんなきゃいけない。
糸井 デジタル発信できないものっていうのは
根本的には運送屋さんだけがもうかることになる。
で、運送屋さんのほうはダンピングになる。
あれはあれでね、なかなかきつい商売してるんだよ。
鈴木 俺も運送屋さん安いなって、あるとき気づいたけど。
糸井 ロジスティックを組み立てたからですよ。
誰かが考えてるわけで。
鈴木 すんげえ重いもの送っても600円とかさ。
糸井 昔のイメージあるから安くってさ。
それは航空運賃もそう。飛行機会社も飛行機の値段は
こうだってだんだん下げてきちゃったから、
マイレージとかで自分の首をしめてるらしいよ。
鈴木 人を運ぶ処理費用っていうのは安くなるかな?
糸井 宅配便が安くなったのは数が増えたからだろうね。
ターミナルを、大中小とわけて考えると、
日本って狭いからもっと違うかもしれない。
最後の小ターミナルから各戸へというのが
一番実は煩雑なんじゃないかな。居留守でした、とか。
鈴木 そりゃそうだね。
そういえば井口くん(月光庵さんの若手スタッフ)、
運送屋のバイトやってたんだよね。
井口 大変ですね。アルバイトの場合は数で歩合ですから。
同じ家に3、4回、1日に行くこともあるんですよ。
糸井 ガソリン代は自分持ち?
井口 リースの車を借りるとガソリン代出るんですけど、
自分の車持ち込むと全部自分。
そのかわり歩合高くなるんで。
糸井 どっちにしたの?
井口 ぼくはリースですね。冬場だと荷物が大きくなるんで、
自分の車では70個くらいしか積めないんですよ。
リースだと倍積めるんで。
糸井 そこまでっていうのは、クリエイティブの会社が
することじゃないんですよ。でも一杯、モノもらうけど、
ダイレクトメールでも見るのと見ないのとがある。
お歳暮でもいるのと、いらないのとがある。
ここがこれからの勝負だと思うんだよ。

(つづく)

2000-02-22-TUE

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