COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●月光庵閑話 第4シーズン その1
俺ってけっこうターボかも

糸井 今回は、お互い興味を持ったことを喋ろうか。
一個ずつ交換しようか。
鈴木 最近興味のあること。……スピード。
糸井 「SPEED」っていったら「解散」。
あれほんとにスピードだよね。あの子たち、
何が欲しいかってわかってるから解散したんだよね。
鈴木 半年で変わってしまうっていう、
そういうスピードを若い人は持ってるじゃない。
そのスピードはうらやましいって思うんだけれども、
こちらには違うスピードがあるよね。
そのことって、スピードに揉まれていると
わかってくるんだ。
端的なことを言うとメーリングリストだね。
1日に10や20のメールが来て、
それに返事しなきゃいけない。時間がかかる。
10時間以内とか20時間以内に返事が欲しいとかいうやつも
いる。そういうスピードで人と付き合ってると、
こっちの回転も早くなってくるよね。
半年じゃなくて、数時間の反応。
1日を微分した積み重ねが、半年かなって思う。
糸井 それって、快感でしょう。
鈴木 快感。最初、ヤだと思ってたんだけど、
実はそれほど嫌じゃあないんだよ。
「俺ってけっこう、回転してるじゃん」って。
「ターボじゃん?」ってかんじになってくる。
その状態っていうのが、たぶん、事が一個終わったときに
ストーンと落ちるかもしれないけど、
簡単には落ちないと思うんだよね。
糸井 落ちるの知ってるじゃないですか。
鈴木 そうなんだよ、何度も落ちてる。
糸井 そのスピードを慶一君が体感しているんだ。
そしたら俺、遠まわしに感謝されるってことじゃない?
ごみかたづけて、ネットつなげなさいって
言ったの俺だもん。
鈴木 そうですよ、おもいっきり感謝ですよ。
あれ3月ですよ。3月にはじめたんだよなあ、ネット。
糸井 「モデム、あるんだけど、積み重なった服の下にある」
って(笑)。
鈴木 ネットつなげて、つなげてるうちに、ムーンライダーズの
新曲をネット配信するっていうところにまで
たどりついたんですよ。
メーリングリストだって、5つくらい持ってる。
多いんだか少ないんだかわからないんだけど。
糸井 多いでしょう!?
鈴木 サッカーチームのメーリングリストもあるし、
ホームページをつくるためのもの、
ネット配信のためのもの。議題ごとに分けてるんです。
メーリングリストって不思議だね。
みんなに見張られてるって感じがあるんだけど、
だれに見張られてるかっていうと、親分はいない感じも
するんだよ。だからみんな何かとりあえずの
目的はあるんだけど、「一緒にいようぜ」っていうのは
ないわけだから。
糸井 ない。空間は、少なくとも違う。
鈴木 同じ釜のメシでもないわけだしさ、
あの感じ、何でフィットしたかっていうと、
私のやってるバンド自体がそうだから。
糸井 おんなじだ。
鈴木 バンドだけのメーリングリストもあるんだよ。
会話じゃなくて文字っていうのがね、
文字だから、いろいろ手を変え品を変え書くけど、
顔色見えないからね。
けっこうスパっと書けちゃうんだけど、
「こんど会おう」とかにもなる。
糸井 そうそう、だから、俺、メール始めて初期のころ
「どう変わりましたか?」って訊かれたから、
「人に会う回数が増えた」って言ったんですよ。
今までは、なじみのメンバーとおんなじ回転をしてることが
仕事なり生きることだったんだけど、
「あの人に会わなきゃな」っていう感じが、
お互いに「あ・うん」の呼吸でわかるようになってくる。
鈴木 ここで会っとかないと、っていうのを設定できるんですよ。
そうじゃないときは漠然としてるじゃない?
なんか、会ってないんだけど会ってる気がしてたり
するようなロマンティックな感じじゃない?
だけど、ここじゃなきゃいけないっていうときには
あっさり会うことができるんだよ。
糸井 この話を、慶一君、仮にメールでやったら
違うと思うんですよ。別になると思う。
喋ってるときは自分とは別のやつと自分と
耳で聞きながら喋っているじゃないですか。
いつでも二人以上が聞いてるんですよ、対談って。
自分と相手と。で、「俺から学んだ俺の一言」って、
生意気だけどあるんですよ。
俺、記憶のメモリーがついてないから。
鈴木 私もあんまりない。
糸井 おたがいひどいよね。
それ、明らかに欠点なんだけどね(笑)、
スピードの時代にはこの分裂症型の生き方が
ちょっと得するんですよ。で、逆に
マニエリスムに入っていくといったん遮断するしかない。
その時間も、俺は実は欲しい。
鈴木 私は遮断するときがあるね。
糸井 やってますか。意識的に。
鈴木 それはね、遮断剤のようなものを服用することで、
怒ってることが消えたり、余計な考えが消えていったり、
先へ先へ考えがまわるんですよ。
糸井 最近俺ほぼ日でも書いてるけど、
俺が絶対人には言っちゃだめだよっていう話っていうのは、
ここではしないんですよ。絶対人には言っちゃだめだよ、
もうひとりがせいぜい、って話、あるじゃないですか。
でも、ほぼ日始めて、俺、会話が全部「公」になった。
なんかキンタマの裏のほくろまで「ほらね」って、
「みなさーん!!」って。表現者ってみんな
根っこは露出狂だから。これはこれで快感だし、
読む人もそういう傾向があるわけです。
そんなものを読んでるっていうことは、
読むことで露出狂を発散させてる。
で、ここの割れ目のところだけは見せないっていうのが、
俺なくなっちゃったんですよ実は(笑)。
鈴木 ゼロ。
糸井 ほんとはゼロっていうこといりえないんだけど、
自分にも無意識の隠し事ってあるじゃない?
そういうところまで、ほんとに友達同士で
喋ってるときって、ぽろっと出るんですよ。
で、俺自分でも思い出さないようにしてるんだけど、
っていう話を、男同士でしたりするんですよ、あえて。
あえてというか自然にそうなるんだけど、
もう、ちょとあれですよねえ、
ホモセクシュアルの世界になるよね。
もうね、愛情の隣り合わせにある思考ですよね。
それを出しちゃうとね、お互いにね、もう一レベル、
深層でつながるんですよ。
鈴木 (笑)さらに深い階層で。
糸井 そう、深い階層でつながるんですよ。それがね、
人生をひっくりかえすように面白いんですよ。
限りある人生しか生きてないんだから、
ひっくりかえそうよ、っていうことになるわけ。
ただ、これ、年齢が近くないと駄目だと思う。
あのね、ある程度離れると、もう無理だと思う。
だって、痛みが違うもん。
「これ、内緒だけどね」って言ったときに、
「内緒だろうなあ、きっと、俺にだけ打ち明けて
くれたんだろうな」って思ったとしても、
俺が大荷物として渡したものが、きっと軽いんだよ。
やっぱり。相手が受け取ったときには。
ぼくらだって、仮にだよ、慶一君の家に夜中に
訪ねていって、「あん時のさあ」まで含めて喋ったら、
きっとディープになると思うんだよ。
重っくるしさを避けてたのよ、俺。
全部スケスケになるところで生きていきたいって気分は
同時にあるわけ。どっからが自分なんだろうっていうのは
もう、表しきれないんだって決めちゃったんですよ。
で、これは分けなきゃいけないんだなって。
つまり、「これから僕はセックスしますよ」とは
言わないわけで。そういう部分っていうのは、
熱帯魚を飼うときに水草買うじゃないですか、
あんなふうに作る必要があるな、と。
そしたらまた違う場所がどんどんガラス張りになってきた。
鈴木 スケルトンですか。
糸井 どんどんスケルトン。コンピュータのスケルトンだってさ、
チップの中は開けちゃいけないわけでしょ?
あのイメージ。
鈴木 スケルトンがぴったりだね。
糸井 ね? そうなるときっとその部分を覗きたい、
って人は言うわけだ。でも、それは、ないんだよ。
永遠にないと言っていい。
「二度と会わない」っていうのと、
「また会おうね、絶対ね」っていうのは
紙一重じゃないですか。その気分がね……俺、
じじいになってよかったなって。恥ずかしくないよ。
青臭いときって「俺ってあいつが好きなんだあ」って
告白しあうじゃないですか。修学旅行のふとんのなかで。
あれだとわかんないんですよ。
あれだとガラス張りにできるんですよ。
今だと、奥底にある何かがこう、にじみ出てくるような
ものでね。それおもしろいんだよ。
今のスピードとね、一見、裏表あるんですよ。
個人としてはマニエリスムですよ、心の。
で、一方で個人の外側のイメージではもっと走っちゃう。
これとこれとこれの5つあって、
2つしか解決できないんだったら3つ捨てちゃえ、
っていうような発想ができるようになってるでしょ?
鈴木 うん。走ると透明人間になってく。
糸井 なるなるなる。レコードとスピードっていうのは
やっぱり配信の問題っていうのが大きいですよね。
鈴木 おっきいよ。極端に言えば、できてすぐだからね。
糸井 そうか、「今日できた」って言えるんだ。
鈴木 今日できました、エンコードしましょう、
それ配りましょう、っていうようなことじゃない?
それってレコード、CDとかはさ、
もうちょっと何ヶ月もかかって作って、いつ出そう、
と、そうやって計画が働いているわけじゃない?
そうじゃないんだな、無計画なんだね。
で、無計画でいいわけだよ。
だから、配信するとなると曲も変わるし詩も変わる。
今度配信する曲なんて、PISSISMっていって、
「小便主義」っていうすごく下品なものななんだ。
俺ってこんな下品な詩書くかな? っていうくらいの。
それで美人マネージャーに嫌われてるわけですよ。
糸井 腹のちょっと出た美人マネージャー?(笑)
鈴木 そう、すごく嫌われててねー、その詩が。

(つづく)

2000-01-09-SUN

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