COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

矢野顕子をほめる。(7)
あっこちゃんは、大胆である。

糸井 あっこちゃんの、詞に対する姿勢っていうものが、
俺、いまだによくわかんなくて(笑)。
鈴木 うん(笑)。
糸井 慶一くんも俺も詞を書くし、
あっこちゃんも書くわけだけれどね。
大笑いいする話があってね。
ずいぶん前に井上陽水が、
あっこちゃんと奥田民生くんの対談を読んでいたんだって。
「いちばん苦しむのは詞だ」
という奥田くんに対して、
「そうよねぇ、詞はたいへんよねえ……
 イトイさんに頼めばいいのに」
って言ったって(笑)。
鈴木 うわぁ(笑)。
糸井 それを井上陽水が読んで爆笑したらしい(笑)。
奥田くんは、いわば、詞に命をかけているわけだよ。
鈴木 奥田くん、そんなに時間かかってんのかなあ。
糸井 時間の問題なのか、苦しさの問題なのかは
わからないけれども、たしかに、詞にかけているのは
よくわかるよ。それにサウンドに対する知識も
結構ある人だから、手離れは悪くなるタイプの人だと
思うんだよね。だけど、あっこちゃんが、
自分でも詞を書くにもかかわらず、平気で
「イトイさんに頼めばいいのに」
って言っている無責任さというかね(笑)。
鈴木 それはさ、自分で作るものは自分ですべてやる、
っていうようなことではないんだね。
自分離れしちゃうんだね。
糸井 井上陽水、奥田くんっていうのは、これはもう
他人に詞を書かせちゃいけない人なんだと思うんだ。
苦しいけれど、これが俺の仕事なんだって。
俺はペンネームで陽水に詞を書いたことがあるけれど、
ごく珍しいケースで。清志郎にも書いている。
詞は俺が書くんだ、って人に、結構、俺、
すき間産業で入ってるんだ(笑)。
思えば、あっこちゃんは、そのすき間をめちゃくちゃ
大きく持っている人なんだなあ。
自分の書く詞でやりたいときは絶対にそうするだろうし、
そこの大胆というか、あんなやつはいねえよ……って。
鈴木 それはね、あの人のカヴァーする曲があるじゃない。
その広さ。
糸井 むちゃくちゃだよね。
鈴木 それをさ、自分の曲がたくさんあるにもかかわらず、
「この曲はいい曲だから歌いたい」
というところから始まっているわけだ。
だからあっこちゃんに自分の曲を歌って
もらえるってことは……。
糸井 いい曲だってことだ!
鈴木 そういうことなんだよ、たぶん。
それは、やったな、って感じだな。
糸井 こないだのジァンジァンで、SMAPの曲をやるって
いうから、何をやるのかなと思ったら、
「♪へいへいおおきに まいどあり〜」
だったんだよね。この人の底深さを感じたなあ。
慶一くんも、他人が書いたり、仲間が書いたり、
自分が書いたりするじゃない?
慶一くんの詞に対する気持ちって、
案外、あっこちゃんに似ているの?
鈴木 このところあんまり詞を書いてないな。
自分で書く詞がさ、周りのメンバーから
「ちょっと重すぎるんじゃないの?」
なんてさ、そういうのもあるんでね。
でも書いているときはすごく気楽に書いているんだよ。
かつてに比べれば。ある時からですね、
80年代の終わりくらいからですね、
気楽に書いてますよ。それもあっという間に。
糸井 それはもうたまっているものが出るだけだから。
あっという間は、僕は当たり前だと思うんですよ。
鈴木 音楽に比べれば、文字っていうのは頭の中に
ぜんぜん入ってないわけだよ。他人から見ると
「この人って本を読んでいる人らしい」
っていわれるんだけれど、全然本読まない。
積んでるだけなんですよ。
でも詞を作る前って、どうしても一度文字を入れないと
出てこないんで、新聞でもなんでもいいわけだけど、
ダーーーっと見るわけだ。
糸井 へえええええ。
鈴木 ダーっと見る時間はけっこうかかってるんだろうね。
行き当たりばったりに見たものから、
こういう言い回しか、って、頭の中に置く。
それで書くんだ。
糸井 そういう作詞法、はじめて聞いたよ……。
鈴木 音楽はね、ふだん聞いてるから、ここで曲を
作ってくださいっていわれれば作れますけどね。
糸井 それが俺にはわからないんだよね。
何でできるわけ???
鈴木 組み合わせになっているんだよ。
それを自分の気持ちいいほうへとつないでいく、
それでオッケー。
糸井 信じられないよねえ。
鈴木 たとえば作曲を依頼されるよね。
コンピュータの鍵盤の前で、
「メロディでも考えるか」って、
ポロンポロンって弾くんだな。
それをデータで保存するじゃない。
そうやってくと、その先もトントンっていっちゃうんだよ。
糸井 でも曲を作る人って、みんなそういうようなことを
言うんだよね。
「曲は簡単なんだけど」って。
鈴木 昔のようにコンピュータがないと、ギターなり
ピアノなりでずっと作っていかなくちゃいけない。
そうすると最初の2小節をを忘れちゃう。
常にカセットに録っておくとかしないといけないんだ。
どんどん、自分で「いいな、いいな」と思っている方向に
行っちゃうわけだよ。それで、
「あ、今良かったな! でも最初どう歌ってたっけ?」
て、忘れちゃう。
糸井 その時に詞はないの?
鈴木 ないない。
ある場合もあるよ。ここだけはあるとかね。
そういうやつは、すごくイイ感じだよね。
奥田民生くんも、たぶん、
曲がいっぱい頭に入ってるんだと思う。
だから詞を作るのたいへんですよね、ってことになる。
俺はさ、詞を作る前の動作というか、
その方法を発見したんでね。
糸井 助走をするわけだ。
鈴木 助走。そんなに長いアップはしないけれど。
短いアップで。
糸井 ひと汗かいて、脳を、文字の方にしていくんだ。
鈴木 そうそう。文字の新鮮さを感じるために、本を読まない。

1999-09-24-FRI

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