♯4 クレープと石版の1週間
モモ子
とにかくね、クレープを食べたんですよ。
───
クレープ。
モンパルナスのお店で。
モモ子
そう。
松井
アトリエがある界隈が、
ブルターニュ出身のクレープで有名なんです。
モモ子
クレープ通りにアトリエがあるんだけど、
わかんないんですよね、一見。
鉄のドアがあるだけで。
開けると奥にわーっと工房がある感じで。
通りには何軒もクレープ屋さんがつながってて。
───
そんなに食べましたか。
モモ子
食べたもなにも!
やめてくれ! っていうくらい食べた。
───
そんなに。
モモ子
ある日、お昼にクレープをダブルで食べて、
じつはその前の日も食べていて、
さすがにうんざりしてたんですよ。
そしたら「今日は友だちの家でごはん!」
ということになって、
やった! と思って行ったら、
「せっかくここにきたんだから、
 さあ、クレープよ」って(笑)。
 
一同
(笑)
モモ子
次の日、工房のおじさんが、
「モモ、クレープ食いに行こう」
一同
ええーー(笑)。
モモ子
もうクレープばっかり食べてた。
ガレットっていうんですね、あのクレープ。
───
そば粉を使っている。
モモ子
ガレットを食べまくった。
───
何日間の話なんですか、それは?
モモ子
1週間ですね。
───
1週間。
じゃあもう、石版とクレープの1週間ですね。
モモ子
そうだ、石版とクレープの1週間ですよ。
だってほんとにそれしかないっていうか、
ひたすらホテルとアトリエの往復で‥‥。
あ、そうそう、ホテル!
泊まったとこが、あれは、超ウケる(笑)。
───
どんなところに泊まったんですか?
モモ子
工房のすぐ近くなんですけど、
ひっどいホテルで、
しかも屋根裏部屋だったんです。
───
屋根裏?
モモ子 ストレッチしようと思って
からだ動かしたら傾いちゃって(笑)。
斜めなの、基本的に。
松井
モモちゃんが撮った写真があるね。
───
へえー、ここが‥‥。
 

※安藤モモ子さんのカメラで撮影
モモ子
写真だとけっこうかわいくみえるんだけど、
実際はかなりひどいんです。
───
これ、掲載してもいいですか。
モモ子
あ、ぜんぜんかまいません。
どんな記事になるんだろう(笑)。
───
どうなるんでしょう(笑)。
これから考えます。
モモ子
で、このホテル、受付にインドの人と、
もうひとり、なんかおじいちゃんがいるの。
「ボンジュール(がらがら声で)」って。
───
そんな声ですか(笑)、キャラが揃ってますね。
モモ子
そうとうヤバい。
あと超マッチョな
冬なのにタンクトップのお兄ちゃんが、
あたしのスーツケースを肩に乗せて
螺旋階段をのぼっていくんですよ。
───
細い階段を。屋根裏まで。
モモ子
チップを死んでも受け取らないの。
「ノン・メルシー」とか言われて。
超プライドが高い。
松井
よく見つけたね、そんなホテル。
ちょっと珍しいよ。
モモ子
あれは、ホテルじゃないのかも。
ていうか、安いとこじゃないと。
1週間いたら高いことになるから。
───
パリ、高いですもんね。
モモ子
高い。
でもあの宿は、おもしろかったなー。
愛があった!
───
なんだか映画みたいな設定ですね。
ある日とつぜん
「パリの工房で石版版画をやってこい」
と言われた女性の、1週間の物語。
たどりついた宿には
あやしいキャラクターが揃っていて、
食べるものといえばクレープばかり。
門を叩いた工房には、
なんとデヴィッド・リンチが!(笑)
モモ子
ねえ(笑)。
 
───
全編スライドショーにしようと思ったんですが、
このお話はぜひ掲載したいです。
モモ子
そこはもう、
どのようにしていただいても。
 
(つづきます)
2010-04-28-WED


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN