ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞 共同企画 中島みゆきさんとの、遊び時間。 『真夜中の動物園』をめぐる120分。
その15 思うようにいかない日。
── みゆきさんは、ツイッターなんて
始めようなんて気は、さらさらないんですか?
中島 めんどくさいからヤだ。
目が疲れるしね、ああいうの。
糸井 おかげで目もきれいでいらっしゃいますよね。
喉を守り、目を守り、色々守っておられますね。
守備はけっこうお好きですよね。
中島 ええ、もう、薬オタクですから。
楽屋では中島薬局って言われてますね。
糸井 どんな防御をされているんですか?
喉はもちろんですか?
中島 別にね、恐ろしく頑丈な
体質というわけでもなく、
ごく普通に風邪も引くときは引くし、
ごく普通の睡眠時間だし、
ひいたら治す、壊れたら治すっていう、
治す系を色々ね。
小さいスーツケースを開けると、
湿布薬から、目薬から、のど飴から、
なんちゃらかんちゃら。
キネシオテープはいいですよ。
糸井 えっ、それはなんですか?
中島 筋肉の働きをする、
ビヨーンと伸びる
ばんそうこうみたいなものです。
糸井 手伝ってくれるわけだね、動きを。
中島 そうです。捻挫していても、
とりあえずワンステージはできます。
前の前のツアーであったんだよねえ。
ヒールの靴でバミりが逆になってて、
それでコードの山でギクッとね。
で、とりあえず出ないわけにいかないので
キネシオで、1ステージはもちますからね。
糸井 次のステージは
お医者に行ってなんとかするんですか?
中島 そのときは旅先で、
医者には行かなかったですね。
どんどん湿布して戻して、
あとはサポーターでがっちり固めて行きましたね。
糸井 野球の選手みたいだね。
中島 ああ。舞台仕事は、スタッフも舞台上も含めて、
スポーツですね!
土木工事の現場みたいなもんでしょう。
── 特に「夜会」みたいに続くと、
そんな感じになりますよね、きっと。
最後のほうは満身創痍な感じに。
1カ月もやってるわけですもんね。
中島 ええ。キャスト、スタッフ、
ミュージシャン含めて、
男も女もみんな工事現場ですよね。
糸井 そうだろうなとは思うけど、
リアリティを今感じました。
中島 きれいな衣装は着ているけれども、
私の中は、テープと筋肉でできてます、
みたいな世界ですよ。
糸井 長いしね。
中島 はい。
糸井 風邪はひけないですよね。
中島 ひかないようにと努力はしますけれども、
限界がありますね、特にツアーだと。
糸井 ツアー中にひいてしまったことは
あるんですか。
中島 しょっちゅうひきます。
なぜならば、風邪が流行ったときに、
まず最初にお医者さんに注意されることは、
「人ごみに出ないでください」。
できないじゃないですか、そんなこと。
お客さんがいなかったら、
ステージ、すごく淋しいじゃないですか。
糸井 人ごみが仕事です。
中島 人ごみの仕事でしょう。
そんでもって「暖房、冷房を切りなさい」、
と言われても、
新幹線、飛行機、止められないです。
ホテルなんかだと、自分の部屋を切っても、
全館のが回ってたりするでしょう。
だから自分のコントロールできない範囲が多い。
ましてやホールの空気は、
乾いた空気が吹き付けるでしょう。
ほこりの山でしょう。そりゃひきますわね。
だからひいたら治すっていう、
修理工事の現場をやりながら、
ずっと旅を続けていくみたいな感じですね。
糸井 ボーッとしながらやるってことが
できないとダメですね、
熱があるとかっていうときの。
中島 完璧というのはないですけど、
よりちゃんとやれるようにと
それはがんばります。けれども、
それが思うようにいかない日もあるわけで、
思ったほどの声が、
一音足りない状態までしか出ない時もある。
けっこう体力に甘んじてた時は
それが許せない、
みたいな時ってあったんですよね。
この音が今日は出ない、今日は調子が悪くて
ボーッとしてるみたいな時って
そこに意識が行っちゃうんです。
調子が悪い悪い悪いと思ってイライラしちゃう。
イライラしちゃうと舞台自体がイライラして、
お客さんはなんでこんなもん
ぶつけられるんだろうってことになる。
で、本当に潰れて出なくなった舞台を
いっぺんやった時があって、
忘れもしない松山の。
いつも本番前にミュージシャンとかみんなで
「ファイト、オーッ!」っていう
「オーッ!」で潰したんですよ。
で、潰れてるの気付かないで出ていって
1曲目、イントロで歌ったつもりが
声になってない。
スーしか出てないの。
その瞬間にマネージャーは
払い戻しを考えたそうでございます(笑)。
糸井 そのあとどうなったんですか?!
中島 で、ミュージシャンたちは
出だしを忘れたのかと思って
それぞれみんな見ますよね。
でも出なくてのたうってるというのが
わかったとたん、
それぞれがかわりばんこにリードで出る、出る!
ギターはリードギター弾く、
それで手が尽きるとピアノの人がリードをやる。
もうそれぞれかわりばんこにリードでもたせる。
あの時は3連曲だったんだっけ?
あたま3曲。
で、リードをかわりばんこにやってる間に
ちょっとずつ出るところを探すわけ。
しょうがないから。
裏声ならちょっと
出るかもしれないってとこを探して、
裏声から出してちょっとずつ広げて。
糸井 探してっていうのは、
誰かが演奏しているときに、
自分で声を出してみてるんですか。
中島 ときどきコーラスパートみたいなのを
アーってやりながら、混じりながら、
ここならいけるってところを出して、
出るようならそこで歌う。
で、3曲終わって挨拶のときに、
「本日はこんな、いきなりハスキーで
 こんなもんですけれども、お客様、
 いいもん見たと思って我慢してちょうだいね」
ってことで、あとはもうお笑い劇場ですよ。
「歌は今日はダメだけど、
 喋りをそのぶん、
 お客さん、サービスするから」
ってことで。喋りましたね、
あの日はさだまさしのようでした(笑)。
糸井 へええ(笑)

(つづきます)
2010-11-02-TUE
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