ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞 共同企画 中島みゆきさんとの、遊び時間。 『真夜中の動物園』をめぐる120分。
その10 ヘタなとこで死にたくない。
糸井 みゆきさんがこうだろうなっていうふうに
ぼくが思っていることが、
割と当たっていることが多いのは、
自分から類推しやすいタイプと、
類推しにくいタイプの人がいて、
みゆきさんは、
類推しやすいタイプなんですよね。
ふざけていないんですよ、意外と。
あんがいふざけていないんですよ。
中島 意外とね。
人からはそう見えるんだけど。
糸井 見えるんだけど(笑)。
細かいっていうのとは違うんだけど、
ふざけていないんですよね。
そこで解決していないよって言うと、
部屋の隅のゴミでも、
あとで拾うって言ったものは、
あとで拾うんですよ。
中島 そうなのね、そうなんだね。
誰か、糸井さんのことを、
そういうふうに言っていた人がいたもん。
「あれね、ヘラヘラしているように
 見えるけど、実はねー」って。
糸井 あとで拾うんだよって。
気にかけているんですよね。ゴミとしてね。
中島 昔、本当に遠くで、
作品をお見かけした時点で、
ものすっごくこの人って、
ちゃらんぽらんな人なのかも
しれないって思って(笑)。
でも、ある時期から、ものすっごく、
この人って落とし前付ける人なのかもしれない、
って思うようになったんです。
糸井 ちゃらんぽらんですよ(笑)。
でも、終わっちゃうんだよなあ、
ちゃらんぽらんじゃないと。
いろんな面白いことがあるのに、
コレだって決めると楽になるんですよ。
その楽になり方で、せっかく生まれた人生が、
そこに閉じこもっちゃう。
それが嫌で、ぼくは置きっぱなしにしておいたり。
中島 落とし前を付けたところで、
そこにうまく居場所を作って、
スイートスポットを見つけると、
ずっとそこにいられるんですよね。
なのに糸井さんって、
まーた、あちゃこちゃ散らかしちゃって、
ほんとに忙しい人だこと(笑)。
糸井 でも、モノを作るって、だいたいそうでしょ。
中島 そうね、うん。
糸井 誰が見ても絶対文句を言わない
一個の完成された詞を
作ってやろうと思っていたら、
一生かかってもできないですよね。
中島 できないですねえ。
糸井 だからどこかで、今の俺は
これ以上やっちゃいけないんだろうなって思う、
ジャッジがいるんですよ。
それがものすごく早く、
実はわかっているんですよ。
2年余計に考えても同じなんです。
つまらなくなるだけなんです。
そのときには、
本当に早くわかったことに従って、
次の、飴を買いに行くでも、
プールに遊びに行くでも、
なんでもしているほうが、
自分は育つんですよ。
足りないところに目がいっちゃったら
人間はおしまい(笑)。
つらいもん。
だからコンサートをやっていて、
5000人見ているとするじゃない。
そこに3人ぐらい、鼻ほじったり、
寝ているやつがいたとするじゃない。
もしそいつが目に入って、
そいつが気になったら、
もうコンサートできないですよね、
おおぜいの、喜んでいる人のほうに
歌わなきゃいけないのに、
寝てる人のこととか、
イヤーな目でこっちを見ている人が目に入って、
そいつとも勝ち負けになったら、
歌のサイズを変えなきゃならないんですよ。
それはね、往々にしてやりがちなんですよ。
中島 そうですね。
糸井 落とし前を付けろ! とかっていうのを、
人にばっかりガミガミ言う人は、
そういうことばっかり言うんですよ。
自分がいないじゃないかとか言うんです。
中島 ははははは。
糸井 でも、説明はできないけど、
できたってわかったときに出しちゃって、
ちゃんと歌も、アレンジもできて、
トラックダウンして、
まだ引っ込めなかったっていうのは、
やっぱりどこかで、
その人が決意して出したものですから。
中島みゆきが決意して出したんだよっていうのは、
ちょこちょこ文句言っている人が
ピーチクパーチクさえずってるサイズと、
そこまでどれだけ考えてきたかっていうサイズと、
話にならないくらい違うんですよ。
代わりに言ってあげていますけど(笑)。
中島 親のようでございましょう?(笑)。
糸井 「馬鹿野郎、サイズが違う!」って。
中島 親と呼びましょう、今度から。
糸井 ぼくは、2秒で考えたことなんかも、
平気で「お前らの1年と俺の2秒は違う!」
みたいに押しちゃうから、
ちょっとちゃらんぽらんに見えるんですよ、
ちょっとね。
でも、その2秒だって、
俺ひとりで作ったんじゃなくて、
天と俺との共作だから、
天をナメるなよ、という言い訳をしながらね。
‥‥ひたすら長生きしたくなったのは、
そういう理由ですよ。
とにかく散らかしたものが多すぎるから、
全部見たいなぁ、拾っていきたいなぁ、
もっと見たいなぁと。
そうなると早死にはできなくなったなぁ。
中島 ねぇ。ヘタなとこで死んだら、
化けて出てでも
片付けたくなっちゃいますよね(笑)。
糸井 みゆきさんも思いますか?
中島 思いますよ、ええ、はい。
糸井 思いますよね。
悔しいけどね、有限なんだよねー。
── みゆきさんも、5000人の中に3人、
つまらない顔をしている人がいると、
それは目に入るものなんですか?
中島 なんか気が逸れてる人がいるっていうのは
気配でわかりますよね。
そうすると、昔はなんとか力技で
その人を取り込もうとして、
それこそ、いらんところへ集中しちゃって、
他の人を置き去りにしちゃうような失敗を
よくやったんですけれどもね。
糸井 自分のサイズを変えているんだよね。
中島 でも、別にその人の気が逸れていたのは、
これが気に入らなくてじゃなくて、
たまたま、蚊に食われたところが痒かったとか、
全然関係ない別のことだったりするわけですよね。
そうすると、「あ、その人はその人の
事情があるんだろう」ぐらいに、
最近は思うようになりましたねえ。
糸井 そこまで含めて技術って言うんじゃないですか。
そのことを思えるようになるっていう技術が、
修練によって。
中島 修練によってね。
自分にとって気に入らない空気を
誰かが発したからといって、
その人を無理やりこっちに向かせようって、
ビンタ張ってこっちに向かせるのは、
それは違うんですね。
糸井 何回か試しているんですよ、きっと(笑)。
何回か、ビンタを張っているわけですね。
中島 張っているんですよね。
張る必要のない人にまで、
ビンタ張っちゃったりしてるんですよね。

(つづきます)
2010-10-26-TUE
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