ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞共同企画 中島みゆきさん、おひさしぶり。 ややこしくておもしろい、歌をつくるということ。
第12回 言葉に内包されたメロディ。
糸井 歌である限り、
声でコントロールする表現、
でもあるわけですよね。
中島 謙遜とかじゃなくて、
歌はね、ヘタなんですよ。
客観的に聴いても。
糸井 個人的には、ヘタとは思わないけど、
ひとまずはそういうことにしましょう。
で?
中島 そのヘタがどうすれば
使いものになるのか意識しますね。
ヘタはヘタなりに使いどころがあるだろうと。
だから、わたしの場合、
自分の限界を超えた曲は書いていないつもりです。
シンガーソングライターが
作曲という魔境に足を踏み込むと、
自分の力量を見失うというか、
恐れを知らぬメロディを
作ってしまうこともあるけど‥‥。
糸井 でも、セリフじゃなくて
歌じゃなきゃ駄目だっていう
何かがありますよね。
歌詞とメロディは、
別々に作るものですか?
中島 大抵はワンセットです。
楽曲提供の場合、メロディだけ
すでにできてる場合もありますけど、
それは例外ですね。
糸井 だから、みゆきさんの歌は、
言葉にメロディが内包されているというか。
中島 言ってみれば百人一首ですよ。
糸井 なるほど! 目からウロコだね。
中島 言葉だけツルッと読むより、
ある種の抑揚をつけたほうが
響きもよくなるという点では。
糸井 メロディとは、言葉の抑揚の延長なんだ。
中島 最近は、メロディを先に作るだけじゃなくて、
歌詞を書く前にアレンジまでしちゃうのが
一般的らしいですけどね。
歌詞はラララのまま、録っちゃうんでしょ。
スゴイよね。
糸井 ぼくも言葉側の人間だから、
それはかなり恐ろしいことだと思いますよ。
たとえばぼくが、すでにできている曲に、
詞をつけてくれと依頼されたとき、
あまりの責任の重さに、
生唾をゴックンと飲みますね。
中島 困っちゃうでしょうね。
糸井 この曲のテーマを俺が決めるのかよ!
って思うと。
中島 ね。
糸井 野球選手がシーズン中に
急にトレードされたと思ったら、
移籍先のチームでの初打席が
9回裏二死満塁での代打くらい‥‥。
中島 あはははっ。わかる。
お、お、俺ですか? みたいなね。
糸井 だから近頃は、あまりやってないんですよ、
作詞の仕事を。
中島 うちの場合、プロデューサー兼アレンジャーの
師匠(瀬尾一三さんのことです)が厳しいから。
デモテープの段階ですでに歌詞がないと、
アレンジすらしてくれないという。
一番だけ書いて渡しても、
全体が見えないと、
アレンジできないとか何とか言われて。
糸井 でも、おっしゃるとおり(笑)。
中島 もしも二番の歌詞に大どんでん返しがあるなら、
サウンドでもそのための仕掛けが必要ですからね。
だから、師匠に
“先に歌詞全部持ってこい”と言われても、
グゥの音も出ないってやつですよ(笑)。
糸井 なるほどなぁ‥‥!
中島 わたし、今日、
糸井さんにお会いしたら
うかがってみたいことがあったんですよ。
積年の疑問を、糸井さんなら
解いてくれるかもしれないと(笑)。
糸井 なんなりと。
中島 取材中の記者やインタビュアーの方だけじゃなくてね、
たとえばファンの方にせよ、
たまたま行ったお寿司屋の
カウンター越しの板さんにせよ、
なぜか“詞や曲はどういうときに書くんですか?”
“どうやって書くんですか?”
と質問されるわけですよ。
本当に挨拶がわりみたいに。
糸井 尋ねられるでしょうね。
中島 デビュー以来、それがずっと疑問なんです。
わたしは、誰がどうやって
詞や曲を書いたかなんてことには興味がないのね。
みなさんはそれを知ってどうするのかなと。
糸井 教えてあげましょう(笑)。
中島 さすが。
糸井 ゴホン(と咳払い)。
人はつなぎ目が好きだから、ですよ。
中島 (キョトン)。
糸井 つまりねえ。
中島 はい。
糸井 人間の性(さが)として、
人はあらゆるもののつなぎ目に
興味を覚えてしまうんです。
中島 ほお。
糸井 ポルノグラフィーにしても、
恋人同士がつないでいる手にしても、
キスシーンの唇にしてもそうでしょ。
中島 はいはいはい。
糸井 で。
中島 はあ!
 

(つづきます!次回で最終回です)

2007-09-21-FRI
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